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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
小編:シャナ・ユベールの奇妙な文通相手
79/146

1、

 そして、帰ってきたカレンの父に、今日の収益だとお金を渡すと目を丸くされた。


「どうしたんだい?」

「セザール様がいらっしゃって」

「セザール? ……、オーランドとなんかかかわりがある人かい?」

「ええ。政務官だとおっしゃっていました」

「……うまく商売したな?」

「金はいくらでも持っていると言質は取りました」


 そつなくいうシャナに、彼は苦笑して、シャナが作った雑穀スープと黒パンで晩御飯を食べ、コーディアルも売れたことを知って、漬けておかないとなとうなずいたのだった。


 それから、忘れ物に気づいたのは、夜、眠るときだった。


 セザールに案内した部屋は、実はシャナが使っている部屋なのだ。客室ということで使わせてもらっている。


「あ……」


 サイドテーブルに置かれた眼鏡と髪留めに、目を見開いて、どうするべきを考え、夜のうちはやることができない、と判断したところで、ベッドに入る。


 シーツも一日に二枚変えるわけにもいかないベッドは、ふんわりと、男物の香水の香りがした。


 品のいいさわやかな甘い香り。


 あれだけ近づいても香らなかったのだから、本当に肌が触れ合うほど近くによらなければ香らないのだろう。


 眠るセザールの何とも言えない顔を思い出しながら、シャナもいつしか、眠りに落ちていた。


 そして、翌日。


「お、シャナちゃん」


 朝の仕込みをしていると、きっちりとした軍服に身を固めたバートラムがひょこっと顔をのぞかせた。


「あ、バートラムさん!」

「ああ、その様子じゃ、バカの忘れもんに困ってたんだな」


 あいつも王城についてから気づいたらしくてな、と顔をしかめるバートラムに、上にあるセザールの忘れ物を取ってくるか否かを考えあぐねていた。


「ええ。その……」

「ごめんな。出張に出立するところなんだ。返せねえから、角の服物屋を左に曲がって三軒目の配送屋に、ロラン宛で持ってってくれ」

「ロラン?」

「ああ。セザールの本当の名前だよ。……俺もあいつも、いろいろ複雑な生まれでね。本名を名乗らないで仕事の時は別の名前を使ってんだ。王城に届けるなら、ロラン宛のほうが届く」

「わかりました。ではそのように」

「ああ。頼むよ」

「ちょっと、閣下! 逃げないでください!」

「うっわ、もう来た……。んじゃ、よろしくな」

「はい。いってらっしゃいませ」


 ばたばたと出ていくバートラムを見送って、手早く仕込みを終えたシャナは、さっそくセザールの荷物とちょっとしたおまけ、小さなボトルに、ブレンドした精油を入れたものをつけて、一筆したためて、紙袋に入れた。


「少し出ます」

「はいよー」


 ひと声かけて外に出て、シャナは言われた通りの場所で荷物を預けた。


「お嬢ちゃん」

「……はい?」


 配送屋の店員が低い声でシャナを呼び止める。


「ロランの旦那の知り合いなのかい?」

「……ええ。それが?」

「……旦那に荷物っていうのが珍しかったからね」


 渋い笑みを浮かべて、明らかに堅気にはいないだろう男が肩をすくめる。


「……ロラン様って」

「嬢ちゃん」

「はい?」

「聞かなくともいいことは、あるもんだ。必要だったら旦那がしゃべる」


 だから、きくんじゃねえよ、という彼に、シャナはそっとため息をついてうなずいた。


「警告、ありがとうございます」


 そういってシャナは踵を返して店に戻って、働き始めた。そして、セザールからの返事が来たのは二日後。


 忙しく、返事が遅れてすいません、お礼の品です、と無駄に達筆な字が書かれた上質な紙とともに、マカロンが二つ、紙に包まれて送られてきた。


「うわぁ」


 見たこともないお菓子に顔が緩むのは、まだまだ子供だからだろうか。


 休憩時間に優しい甘さのマカロンを食べながら、紅茶を飲んで返事はどうしようかな、と浮き浮きした気分で考えていた。

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