序、
そこまで筆を走らせて、用意しておいたハーブティーのパックの包装を確認する。
オーランドがらみのひと騒動から実に、2か月がたった。
初夏の陽気を漂わせていた日の光は、いつの間にか、夏の焼けつくような日差しへと変わっていた。
「シャナちゃん?」
「はーい?」
「お使いお願いしていいかなあ!」
その声に、シャナはふっと笑って、手紙に封蝋をおして、一つの紙袋にハーブティーの袋と手紙を入れて、封をする。
カレンの父親に世話になっているシャナは、店番兼雑用係と、もともとメイドをやっていた時からの気遣いの癖で、よく働いていた。
「行きまーす」
下ろしていた茶色い髪を一つにくくると、荷物を持って、下に走る。
そこにはもうお使いの内容、カバンが用意されていた。黒革の、底のあるカバン。オーランドやカレンが外での診察で持っていくものだ。
「あ、お兄様のところですね?」
「ああ。オーランドのところに、今はカレンのところにいると思うよ」
「わかりました。行ってきます」
カバンを受け取って荷物を小脇に抱えて外に出ていく。一度荷物を配送屋に預けてからオーランドのところに向かう。
「これを王城にロラン様に」
「はい、承りました」
いつもの場所にいる人に、荷物を渡してオーランドのところに足を向けるために人ごみの中に入る。
「シャナ」
その道中後ろから声をかけられて振り返ると、白衣に咥えたばこのオーランドがポケットに手を突っ込んで立っていた。
「お兄様」
「もう少し砕けてもいいんだがなあ?」
わしゃわしゃ、とシャナの頭をかき混ぜて表情を緩ませたオーランドは、シャナの手にある鞄を取り上げて目線だけでそこの店に入ろうか、といった。
「うん」
うなずいて、白衣を翻したオーランドについていくと、慣れた店なのか、片手をあげて中に入ったオーランドの向かいに座る。
「どこに荷物送った?」
「セザール様です。最近手紙をくださるので」
「……セザールが?」
驚いた顔をしているオーランドに、シャナはくす、と笑みをこぼした。
「忘れ物を届けた時に一筆入れたら、こうやって続くようになってしまって」
「あのセザールが忘れ物、ねえ」
「珍しいですよね。あの方が」
「……よく知っているのか?」
「よくは知りませんけど、聴取の時の印象ではそういうものはしっかり管理している、神経質そうな人だと思いました」
「……」
「いくら口でふざけたことを言っても、そうですね、なんていえばいいのかなあ。たくさんが見えすぎて、気が休まるひと時がない、そんな感じのイメージがあります。だから、自分の持っているものは絶対に行くとき出るときに確認するような……」
「……そんな奴が、わざと、忘れ物をしたとみてるのか?」
「さあ、それはセザール様のみぞ知ることなんでしょうけどね」
「お前、あいつに聴取の時なにしたんだ?」
オーランドは頬杖をついて、シャナを見た。シャナは、ふっと、笑って肩をすくめた。
「まあ、ちょっといろいろと」
「……まあ、セザールに聞けばいいか」
「わっ、やめてくださいよぉ!」
「なんだ? ぶん殴ったか」
即答の違うと期待して、からかうように言ったオーランドだったが、シャナがぴきりと固まって何も言わずにうつむいたのを見て、目をむいた。
「おま、あいつ殴ったのか!」
「殴ってないです。……平手でビンタしただけです」
「同じだろ」
小さくなるシャナを見て、オーランドは、ブッと噴き出して、大笑いを始めた。珍しいその表情にシャナはオーランドを見てキョトンとした。




