終、
「あんたが、やる意義とか、人のことを、後の人のことを考えるなんてね」
こういう役目なのだ、とカレンは自分に言い聞かせながら、そう踏み込んだ。その言葉に、オーランドは黙ることなく、苦笑に近い顔をしてそっぽを向いた。
「俺なりに、いろいろ考えただけさ。……俺の知っていることを、できることをしないでいるのは、もしかしたら、罪なのではないかと思ってな」
「罪?」
「ああ。できるのにやらない。やらないことによって、先に後に死人が出るのは寝覚めが悪い」
「……アリシアのこと?」
こくりとうなずくオーランドに、カレンは思わずオーランドの手に手を差しのばして握っていた。まるで、オーランドが感情を受け取る時のように、柔らかく包み込むように。
「カレン?」
「……」
何も言うこともできず、冷え切った指先をつかむことしかできないカレンに、オーランドは、ふ、と力を抜くようにため息をついて肩を落として目を閉じた。
「知ってしまった以上、昔の俺のように閉じこもることはできねえよ」
静かな声音に、リチャードの記憶は、オーランドの心を深くえぐったようだと、カレンは視線を落とした。
「だから、俺はできることをしようと、思った。俺がいれば、彼女は本当に助かっていた。俺が、少しでも手当にかかわっていれば。でも、そのころ、俺は人殺しに精を出してた」
もしもの話なんて今更しても遅いんだがな、と力なく笑うオーランドを見て、カレンは目を見開いた。
「あんた……」
「なんだ?」
「……相当参ってるのね」
初めて見た、後悔に揺れるオーランドの顔にカレンは、その冷え切った手にぬくもりが移るようにと、さすっていた。
「……。……どう、だろうな……」
面食らったオーランドが絞り出した声は、存外頼りないものだった。
「わかってるんだが。でも……」
「うん」
ただ、受け止めるようにうなずく彼女に何を思ったのか、冷え切った形のいい指が、カレンの手を掻くように握りしめるのを見て、カレンはそっともう片方の手を添えてその指を包み込んでいた。しばらく、オーランドはカレンの手のぬくもりを感じてうなだれていた。
「あんたはやさしすぎるよ」
ポツリと、カレンはつぶやいていた。オーランドが驚いたようにカレンを見ていた。
「俺がやさしい?」
「でしょうが。まー、確かにやると決めたら容赦ないし、実際その側面しか見てこなかったあたしが散々こき下ろしたみたいに残酷な首吊り子爵だけど、本当に精神構造疑うようなキチガイなら、そんな過去のことなんて関係ねえって、俺のせいじゃねえしって、振り切れるよ。……あたしは、あんたのことそういう奴だと思ってた。ごめん」
「謝られることはない。……俺だって、自分のこと、そう思ってたから……」
「……」
そう思って、鎧を身にまとっていた、ということだろう。そっと手の甲を撫ぜて、カレンは笑っていた。
「もう、強いんだか弱いんだかはっきりしてよー」
オーランドを覗き込むと、すっかりとしょげ返っていた。今の今までそんなそぶりすら見せていなかったから、大丈夫なのだと、カレンも気にしていなかった。だが、見てみればこの様だ。
残酷な首吊り子爵の仮面の下にいた、幼いころから変わっていないオーランドの一面に、カレンはオーランドを覗き込んで優しく目を細めた。
「まあ、でも、だからこそ、医者から逃げたんでしょう?」
カレンの言葉に、はっと目を見開いてオーランドはカレンを見ていた。




