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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
終章:前へ。
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終、


 バートラムの別邸が燃やされて、二週間ほどが経った。


 バートラム自身は、燃やされた別邸は普段使っていないものだから、気にしていないというのだが、リチャードは、危険性があるとして、あの後、拘束、そして、放火、殺人未遂、などの罪状で逮捕という流れをたどって、今は、拘置されている。


 余談だが、オーランドは二日ほど寝込み、三日目から後処理に奔走していた。


「オーランド・バルシュテイン伯爵だ。今日の面会を予約したはずだが……?」

「は。こちらにいらっしゃいませ」


 武家の一門の貴族らしい、最低限の装飾と実用的な服装、つまりは、軍服より少し装飾の凝らされた服装を見にまとったオーランドは、剣を携えて、軍舎の一角、拘置所を訪れていた。

 オーランドの叔父も絡み、オーランドの失脚を画策していたために、結果的にオーランドは伯爵家に復帰することになった。伯爵の仕事の引継ぎもこなし、執務も行いながらの後処理だったために、寝込み、処理、寝込み、処理、と、ある意味でも忙しい日々を送っていた。


「彼の様子は?」

「ようやく落ち着いたというところです。……来た当初はひどかった」


 そういって、ため息をついた彼に、オーランドは肩をすくめてみせた。


「落ち着いて話ができるようならばそれでいい。今回、忙しくしてすまないな」

「いえ。……その、閣下のご心中もお察しします。その、叔父上と、その奥方、そして、彼と、神官、それと刑期を終えたばかりの犯罪人がグルになって……」

「心だけ受け取っておこう。それに、私自身は、大きな被害を受けてはいないよ。……ただ、私のそばにいた子たち、メイドと幼馴染にとばっちりが行ってしまった。私を直接狙いに来ない薄汚い心根を一から叩き直してやらねばなるまい」


 かつかつと音を立てて廊下を歩き、階段を上がり、比較的明るい、それでも厳重な警備の元拘置される牢へ入った。


「リチャードさん」


 一室にいたのは、リチャードだった。穏やかな顔は一転して、痩せこけ、ぎらぎらと獣のような目をしてオーランドを見ていた。


「……オーランド・バルシュテイン」

「面会に来た。知らせはいっているな?」

「……ああ」


 低くうめいたリチャードに、オーランドはうなずいて、案内してくれた部署の人に剣を預けて退出を促した。


「ようやく落ち着いたと聞いて、着てみたんだが、まだ巣食っているようだな」

「……」


 オーランドがリチャードに見せた記憶は、前世の記憶だった。医者でいることを拒否するに至った記憶。


 同じ映像を、カレンにも見せたが、カレンにはあくまで、オーランド(・・・・・)という人の視点で、つまりは三人称の視点でそれを見せたため、ただの物語として見て取れただろう。


 だが、彼には、ベルニウスという、前世のそのままの視点で見せたために、その時の記憶、焼けつくような暗い感情、もろもろをそのまま植え付けてしまった。


 落ち着くというのは、その記憶や感情がリチャードの中で整理ができたということだった。


「……君は……」

「あくまで今は、オーランドだ。ベルは俺の前世であって、同一人物じゃない。……ただ、記憶がよみがえったときは、それなりに情緒は不安定になった」

「……いつだい?」

「十五だ。軍学校に入る直前。医者としての技術はその前からも思い出していて、カレンと一緒にそれなりのことをしていた。でも、思い出してからは……、軍に入って、医者というところから逃げ出したいと思っていた」


 備え付けられた椅子に座って、オーランドが言うと、リチャードは何とも言えない顔をしてうつむいた。

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