7、
「カレンさん……?」
「オーランド、昔、火事で大事な人いっぱいなくした……」
ぽつりとした言葉に、セザールが目を見開く。
「俺に火をつけりゃよかっただろうが。何があんたをそんなにゆがめたんだ!」
その言葉とともに、オーランドが、胸ぐらをつかむリチャードの手をつかんだ。
その瞬間だった。
がくんと、持ち上がっていたオーランドの頭が力を失い地面に落ちて、目は、虚空を見る。
「オーランド!」
「待って」
慌てて駆け寄ろうとするバートラムを止めたのはセザールだった。
静かに、オーランドの瞳が震え、肩が震え、そして、ゆっくりと瞼が閉じられていく様子を見守っていた。
「魔力で、たぶん、リチャードさんの記憶を読んでいるのでしょう」
不意に、表情の抜けた顔が、痛切にゆがみ、唇を真一文字に結ばれ、そして、森の木々から一条差し込んだ赤い光が、するりと眦から滑り落ちた一つのしずくを照らし出した。
「ガァアアアアアアアア!」
静かに泣き始めたオーランドとは対照的に、体をのけぞらせて天に向かって咆哮したリチャードの目は血走って、涙がぼろぼろと浮かんでいた。
「……オーランド?」
ふっと目を開いて切り替えるようにため息をついたオーランドが、リチャードの手を離して、体を起こす。体をのけぞらせたまま硬直したリチャードが、オーランドの広げられた足の間にこてんと落ちる。それでも、硬直したまま、ひくひくと強くひきつらせていた。
「彼をしばらく縛っておくように。……荒療治だが、まあ、大丈夫だろう」
戸惑いながら衛兵が近づいてくるのを見て、オーランドは表情を重いものにして、目を背けるように視線を外す。
「何したんだ、お前……?」
「……過去の記憶の共有だよ。よくわからなかったから、あいつの記憶そのまんま見てやろうと思ってな。……その代償っつったらあれだが、俺の記憶も見せてやらないといけないから、医者になりたくない理由のようなものを見せてやったらあの様だ」
自分の足の間でうつぶせになって吠えて、頭を地面に打ち付けるリチャードをちらりと見て、オーランドがなんとも言えない顔をして目を閉じた。
「何があったんだよ……」
「……別に、お前らにゃ関係ねえよ」
ため息交じりにそういって、ふらつきながらも立ち上がり、リチャードの搬送に邪魔にならないようによけたオーランドに、そっとカレンが寄り添う。
「カレン……」
「私はここにいる。みんなここにいるよ」
そっと震える手のひらに手のひらを滑り込ませたカレンの言葉に、オーランドは目を見開いて、そして、腹の底からため息を吐いて、目をつぶってうなずいた。
「わかってる」
それでも、オーランドは、カレンを引き寄せてその肩に甘えるように額を預けた。
「……大丈夫」
やさしくオーランドの髪をなぜて頬を寄せたカレンは、彼が受け取った、リチャードの記憶が少しでも和らぐようにと、目をつぶって祈るのだった――。




