7、
「シャナ……! カレン!」
火の中で居場所のわからない人を探すのは、困難だろう。
オーランドは、熱さに顔をゆがめながら、時折、脳内を掻きまわしてくる記憶の本流に胃の中をひっくり返させられながら、まだ、床が崩れていない一階部分を捜索していた。体のいたるところがやけどしている。
「カレンっ!」
悲痛な声で呼ぶが、ガラガラと二階が崩れ落ちる音で彼の声がかき消される。
オーランドには、前世の記憶というものがあった。彼は前世、医者だった。
特に、最期の記憶のあたりは、別人格として生まれ変わった今も深く心に痕を残している
それは、時の有権者ににらまれ、たてついた見せしめに、自分の経営していた医院を目の前で押さえつけられながら火をつけられ、逃げられずに苦しむ自分の患者の声を聞くという凄惨極まりない、記憶。
「シャナ……!」
のどを火傷したらしいオーランドの声がだんだんかすれていく。そして、ふらりと、体が揺らいで、熱い床に膝を打ち付ける。
そんな記憶に突き動かされながら、オーランドは歯を食いしばって立ち上がり、焦げた上着を頭からかぶりながら炎が舐めるように這う床を低く進む。
「……く」
そうしていると、居間の部分だろうか。部屋らしき中央で普通の衣服よりは多少燃え移りにくい綿の白衣で自分とシャナをくるんで、丸くなっているカレンを見つけた。
「……!」
膝を落として肩を叩くようにすると、朦朧としているらしいカレンが、オーランドを見て目を見開いて、ほ、と表情を緩めた。
「シャナちゃ……を……」
かすれた声に、オーランドが首を横に振って、二人を両脇に抱え、炎の中へ足を進める。
「オーランド!」
鋭いセザールの声が聞こえ、オーランドが足音を立てて二人を抱えたまま声の方向に向かうと、ひときわ大きい崩れる音とともに火の粉が三人に降りかかった。
「――!」
鋭い魔術詠唱とともに強い風がオーランドに吹き付けた。一瞬火が途切れ、その道を通ってセザールがシャナを受け取る。行こうとするセザールを呆然と見ていたオーランドだったが、振り返ったセザールに、慌ててカレンを両腕で抱きあげた。
「行きますよ」
存外平気そうなセザールの跡をつけて、ようやく燃える屋敷から出ると、外には火消のために集められた屈強な男たちがひやひやとした顔をして、四人を見ていた。
「よっしゃあ! 出てきたぞ!」
「野郎ども! ぶちかませ!」
よろめくオーランドを支える男たちと、水を屋敷にかける男たちと二手に分かれ始めた様子を見て、オーランドは、意識ないカレンを誰かに奪い取られたのを感じながら意識を失った。
「オーランド、オーランド!」
呼び声が聞こえてオーランドが飛び起きると、すすだらけの顔をしたカレンが傍らに座っていて、近くには厳しい顔をしたセザールとバートラム、そして、腰ひもをつけられたリチャードが立っていた。
「シャナは……?」
「大丈夫。まだ寝てる」
隣を差されて、オーランドが見ると、青ざめた顔をしながらも、浅い呼吸を繰り返すシャナが寝ていた。
「……」
ほとんど無意識に、シャナの脈と呼吸と、けがの有無などを手早く確認して、大事ないとため息をついたのと、セザールやバートラムがオーランドに気付くのが同時だった。
「目が覚めたか」
「まったく、飛んで火にいる夏の虫じゃないんですからね!」
同じ色をした目を怒らせてそれぞれそういった二人に、オーランドは顔をしかめた。
「すまん」
うつむいて、ポツリとつぶやいたオーランドに、カレンがなんとも言えない顔をして、悄然と落ちた肩に手を置いた。
素直なオーランドの言葉に、セザールとバートラムが顔を見合わせて目を丸くしていた。




