表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
7章:燃え上がる炎と記憶
60/146

7、

「オーランド!」


 カレンの声に驚いて、振り返ると、カレンが駆け寄ってきていた。


「バカ! 何してんのよ!」


 どん、と胸を強くたたかれて、それでも非力な女の力では大したダメージにはなるはずもなく、ぽかぽかと、なにかをわめきながら胸を叩き、抱き付いてきたカレンを不思議そうに見つめていた。


「おいおい、隊長、女の子こんなに泣かせて何ボヤってしてるんですか」

「泣いてって、カレン?」

「うっさい! 見るな!」


 目を拭ってそっぽを向くカレンに、オーランドは目を見開いて、そして、周りを部下に囲まれ、控えめにシャナが立っていることに気付く。


「お前たち、けがはないか?」

「当たり前よ!」

「ええ。というか、旦那様、私はいいから……」


 えっぐえっぐとしゃくりを上げているカレンにシャナが困った顔をする。


「そんなに怖かったのか?」


 こぶしで涙をぬぐっているカレンの手を取って顔を上げさせると、真っ赤になった顔でそっぽを向いた。


「うん、隊長、朴念仁いわれてもしゃあない」

「なんだよそれ」

「当たり前でしょうが。旦那。俺に言わせるんですか?」

「……?」

「そこのお医者せんせ、旦那が殺されそうになったとき飛び入りそうになったんですよ。やめて! って叫びながら」

「ちょっ」

「本当か?」


 心底驚いた顔をしたオーランドに、カレンがうだった顔をしてそっぽを向いた。


「うるさい」


 涙をぬぐいながらそう強がるカレンにオーランドが、ふっとため息をついて、つかんだ片手を離して、そして、すっかりと煤やいろいろなものに汚れた髪に手を置いてわしわしと撫ぜた。


「もう大丈夫だぞ」


 それだけしか言葉が思いつかなかったらしい。


 どこか的外れのその言葉に、周りがぶっと吹き出す。


「ちょっとそりゃあないでしょうが。旦那!」

「隊長の語彙力に若干の不安が出てきたか……」

「俺の語彙力は別にいい。お前らはとっとと散れ! がさ入れして来い!」

「えーこれからがいいところじゃないっすか!」

「良いところかどうかは知らねえが、お前らに見せる義理もねえ!」

「ひっどお!」

「とっとと行け!」


 カレンに触れたまま怒鳴り散らすオーランドの耳が真っ赤なのを見て取って、隊員たちはニマニマしながらじゃ、ごゆっくりーとその場を立ち去っていく。


「っくそ、何がごゆっくりだ」

「……」


 シャナがくすくすと笑って彼らに手を振る。彼らはご機嫌な様子でシャナに手を振り返して、任務へ戻っていく。


「旦那様」


 そして、離れたのを見て、シャナがオーランドに近づいて、凛と呼びかけた。カレンも、涙をぬぐいながら、体を離し、そばからは離れようとはしなかった。


「無事で何よりだ。シャナ」

「ご心配をおかけしました。でも、この助け方は感心しませんね。……お兄様?」


 固い声で、まっすぐといったシャナに、オーランドの表情が苦笑をかみ殺したものになる。


 その表情にシャナが鋭く一歩踏み込んでまっすぐと正拳をオーランドのみぞおちに叩き込んだ。あたりどころが悪ければ、シャナの手首が痛んでいただろうが、どこで覚えたのか、的確に筋肉の薄い部分を打点で貫いていた。


「ぐふっ」


 不意打ちの急所の攻撃に、さすがにオーランドも目を見開いて、息を詰まらせ腹を抱えて膝をつく。それほどまでに的確にみぞおちを突いたシャナは、遅れて咳き込み始めたオーランドを見下ろして、口を開いた。


「誰があなたの命を張ってまで助けてくれと思いますか! 立場を思い出しなさい!」

「しゃ、シャナ……ァ?」


 苦しそうに顔をゆがめながらシャナを見上げたオーランドが、怒ったシャナの表情を見て、顔をこわばらせてうつむいた。まるで母に怒られた子供のようなしぐさにカレンが驚いた顔をする。


「貴方が、私たちの命が狙われて危ないと聞いて、突っ走るほど私たちのことを大事に思ってくれているのと同じように、私たちも、貴方を大切に思っているのです。それに、あなたは伯爵だ。こんなまねをして、あの人たちに殺されたらどうするんですか! 伯爵の血は途絶えますよ」

「だがな……」

「だがなもしかしもかかしもありませんっ。……あなたが私たちの死を見たくないと恐れるように、私たちもあなたが死ぬところなんて見たくありません。老衰、しかもベッドでお亡くなりになるのであればお見送りはしますが、それ以外のお見送りなんてしたくありませんから!」


 きゃん、と吠えるようにそういうシャナに、オーランドが膝をついたまま苦虫をかみつぶしたような顔をする。


「だいたいね……!」

「シャナちゃん、落ち着いて? もう私は大丈夫だから」


 おろおろとカレンが怒りだしては止まらなくなってしまったシャナをなだめるように肩を抱く。


「オーランドも大丈夫よ。大丈夫だから」


 その肩が小刻みに震えているのに、カレンが声を震わせて抱きしめる。その涙声に、もらい泣きしたのか、シャナは、何かを言おうと言葉を紡ごうとするが、そのまま嗚咽して、両手で顔を覆ってしゃがみこんでしまった。


「……シャナ」


 まだ、腹が痛むらしく眉を寄せながらも、二人ににじり寄ってオーランドが、まとめて二人を抱えて抱きしめた。


「ごめなさ……」

「いや、気にするな」


 震える二人をなだめるように抱きしめて、ぬくもりを感じて、オーランドは震える息でそっとため息をついた。


「無事でよかった」


 吐息交じりのその声に、シャナはわっと泣き出して、しがみつき、カレンが唇をかみしめてオーランドの肩に額を預けた。


「……まだ、俺には仕事が残ってる」

「……わかっているわ。ここの処理とかでしょ?」


 しばらく三人で寄せ合って、落ち着いたころ合いを見計らってオーランドがつぶやく。カレンとシャナは心得たように体を離してうなずく。


「俺の部下に護衛をさせて、バートラムの別邸に身を寄せてもらう。こうなっては俺の屋敷も、伯爵邸もいろいろ騒がしくなってしまった。お前たちが無事であるようにの措置だ」

「はい。わかってます」

「……ならいい。まあ、この処理もすぐに終わって、どうせ、俺は謹慎が長引くだろ。ゆっくり話でもしよう」


 そういったオーランドが、立ち上がって、二人に手を貸して立ち上がらせると、その手を部下に任せる。


「あとは任せた」

「かしこまりました」


 敬礼を返す部下を行かせて、オーランドは、腕に残ったぬくもりをかみしめるようにぐっとこぶしを握って額を押し付けた。


「よし」


 発奮させるように、そうつぶやくと、オーランドも、また、家宅捜索のために神殿の中へ入って行って、陣頭指揮を執るのだった。

一芸を仕込んだ犯人はジャックです。


怒った結果が腹パンってひどいよなあ

にしても、そろいもそろって八つ当たりしてんな……

サンドバックじゃないんだから……一応病み上がりなんだよ?(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ