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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
7章:燃え上がる炎と記憶
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7,

「神がお怒りになっている……」


 ポツリとつぶやいたのは誰だっただろうか。


 図らずも明るくなったこの場でも、誰がいったかはわからなかった。


「ええい! うるさい! 神は、早くけがれた魂を浄化しないからお怒りを見せたのだ! くくれぇい!」


 神官の一人がそういうと、この場に残っていた神官達の動きは機敏だった。あっという間に二人を地面に引き倒して、新たに縄を腕と肩に括り付けると、先端を十字架の横一文字に投げかけた。


「くっ……」


 そして、縄の先端を、十字架の裏に待機していた神官たちが滑車の原理で、ひっぱって二人をじわじわと十字架に引き上げていく。


「苦しいか! 苦しいか! 良いざまだ!」


 けたけたと笑う女の声が耳障りだった。その女の肩に、突然一本の短剣が突き刺さった。


「くっぅ!?」


 刺さった衝撃で尻もちをついて、手をあてがい、顔をゆがませた女と、何が起こっているかわからなかったのだろう神官の顔が、炎に照らし出される。


 ゆらりと姿を見せたのは、黒い軍帽を目深にかぶり、黒の外套、黒の正装、黒づくめの軍人だった。白手袋に包まれた大きな手にはシースごと短剣が握られていて、一本、柄がないシースがある。


 舐めるように頬をかすめる炎に照らし出されたその顔はひどく色を失っている。


 軍人の格好をしていなければその手の人に間違われるであろう悪すぎる目つきは、殺気とそれに付随する強い光を茶色い瞳に宿し、いかんなくその威力を発揮して、じりじりと神官たちの腰を引かせていた。


「何者だ!」

「捕らえろ!」


 それでも、口々に言っては動きだす神官たちとその混乱に乗じて動き出すオーランドの部下たち。


 どさくさに紛れてカレンとシャナを解放して、その動きに気付いた神官たちを蹴散らしていく。


「二人で固まっていてください!」

「いわれなくてもそうしてるわよ! こんなところで逃げだすほど馬鹿じゃない!」


 シャナと二人で座り込んで互いに身を寄せ合うカレンがそう怒鳴ると、背中を向けていたオーランドの部下たちがくっと笑った。


「さすが隊長の幼馴染さんですね。言ってることがそっくりだ」

「はあ?」

「戦争の時、ぼろぼろの隊長守るときとおんなじセリフです」

「ぼろぼろの状態で暴れる患者抑えつけながら処置してたっけな」

「はたから見てたらどっちが痛めつけたのかわからんぐらいの形相だった気なあ」


 と思い出話を始めながら、片手に持った棒っ切れで短剣を抜いてかかってくる神官を軽くいなしていく。混戦に慣れていない神官たちは大勢いる味方が邪魔になって思うような動きが取れていない。


「処置?」

「そーっす。隊長、首吊りのあと、なだれ込んできた一隊相手に俺たちとその場にいた大佐も一緒に戦って、大佐がやられちまったんです。その処置に俺たちをこんな感じに配置して処置を始めたんですよ」

「いやあ、医者のまねごとができるっつってたのは知ってたんだけどなあ?」

「あそこまで本格的に、しかも軍医を唖然とさせたぐらいの腕前だったから、全員でまねごとじゃねえっつってやったんだよな」


 緊迫した状況には違いないはずだが、楽しげにしゃべりながらばったばったと神官を倒していく。戦争を経験した彼らには、短剣を構えただけの丸腰の神官をいなすなどおもちゃで遊ぶよりつまらないものらしい。彼らの中では、ひょいっと神官を抱えて、じりじりと短剣を振りかざして近寄ってくる団体さんにぶん投げて、散らして遊んでいるものもいる。


 そんな危険人物のおかげか、あっという間に周囲の神官がいなくなり遠巻きになったのを見てそっとため息をついた。


「でも、アイツ……」

「隊長は、あまり、その時のことは語りたがりませんよ。軍人として生きていくつもりだったのに土壇場で医者に立ち返るなんてなって酒を目いっぱい飲ませてつぶしたときに吐いてました」

「……あいつつぶしたの!」


 酒には強いと聞いてたカレンが素っ頓狂な声を上げるのに、部下たちはげらげらと笑う。


「ええ。ここの連中はよく潰しますよー」

「でも隊長、だしたらすっきりする性質で翌日二日酔いに苦しむのは俺たちだけなんっすよねえ。お医者せんせよ、なんか良い薬知ってないかい?」

「しらんわっ!」


 おおよそ関係ないことを突っ込むカレンと隊の面々に、隙を見つけた、といわんばかりに一人神官が飛び込んでくる。それを見逃す彼らではなく二、三人の棒が、それぞれ頭と腹に入る。


「下手に手ぇ出さねえっていうんだったら俺らも何もしねえぞ。しっぽ巻いて帰んな。犬ども」

「誰が畜生だ!」

「てめえらだ! 自ら信ずるものを妄信して、疑うこともなくご主人様の言いつけ通りわんわん吠えてるだけだろ!」


 下品なハンドサインまでつけてご丁寧にそういった隊の連中に、カレンは呆れながら、あかんべーとしていた。シャナが呆れたように乗ったカレンを見て、そして、ふと気になったのだろう、オーランドのほうを見た。

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