7、
「……そんなこと、言わないで」
こつんと、カレンがシャナに寄りかかった。じんわりと細い肩とぬくもりと、ふわりといい香りがシャナの鼻をくすぐる。
「やっぱり、医者って弱い立場なのね」
ぽつり、つぶやいたカレンに顔を上げ、カレンを見ると、カレンは膝を抱えてつま先を見ていた。
「あいつの言ったとおりだ。守られるだけの立場だ。患者の命を守れるけれど、体は守れない。……体は守ってもらわないと、護ってもらうために、敵になる人が傷つくのを見ているだけ。逃げるしかできない」
「……カレンさん?」
「……あいつはもう何年も前に、そんな汚いところも見えていた。けれど、私は、今の今まできれいごとしか言ってこなかった」
敵いっこないじゃない。
自嘲気味な言葉にシャナはカレンの顔を見て眉を寄せた。
「旦那様が守ってくれていたんですね」
「……たぶんね。私はそれに気付けなかった。突っぱねて、あいつを勝手に軽蔑して、……」
泣きそうに顔をゆがめて目をつぶって膝に顔をうずめたカレンにシャナは、寄りかかり直して少し高いところにある肩に頭を預けた。
「気付けたなら、いいと思いますよ」
「でも……」
「旦那様なら、そういうと、思います。旦那様なら、別に、気づかなくてもよかったんだがな、っていうと思います」
ふと、照れたようにそっぽを向いてぼそぼそというオーランドを思い出して、くすくすとシャナが笑うと、カレンは、ふっと吹き出した。
「緩みそうになる口元を必死に下げてムズムズさせながら……?」
「はい」
シャナの笑いが移ったようにカレンもくすくすと笑っていた。
「もう少し、素直に顔に出せばいいのにと、たまに思います」
「そうねえ。でもあいつが今更にこやかになっても相当違和感があると思うけど……」
「たしかに」
目と目を合わせて、ぷっと吹き出した二人は、牢につながれている状態だというのに、楽しげに笑っていた。
そんな気の紛らわし方も、すぐに終わって、神官たちが、二人を迎えに来た。
「……準備完了、ってところかしら?」
「……たぶん」
二人並んで裏の出入り口から神殿を抜けて、処刑場として整えられた神殿の裏手にあるちょっとした広場につれていかれる。そこには、大きな十字架が二つと、炙るための飼葉が用意されて、神官たちが仮面で顔を隠して、ところどころ松明を持ってあたりを照らしていた。
「炙る気満々ね」
「……魔女には似つかわしい火、といったところでしょうか?」
緊張感のない二人に神官は咳払いをしてさらに強く引っ立てた。
「最後の問いだ」
「……なんですか?」
「この場において、まだ、懺悔はしないか?」
「何が悪いのかわかりません」
「たとえ口先で懺悔しても、私は患者が必要とする限り、使うし」
はっきりといった二人に神官は鼻で笑って、二人をそれぞれ十字架の前まで引っ立て、そして、審判が始まるのだろう。一度、深々と地面につきたてられた十字架の足元にある金具に二人の縄を括り付けた。
「神に逆らう魔女に裁きを!」
おおという警蹕にも似た声が、地面を鳴らすように響き渡った。




