6,
「オーランド」
しばらくして、入口から何も買わずに入ってきたのはバートラムだった。そのころにはカレンの涙も収まって平然としていたが、肩は落ちていた。
迷惑そうに顔をしかめて通行人がバートラムに道を開けるのに、片手を上げてすまんと小さく言いながらオーランドの座っている席に向かってくる。
「何事だ?」
「すまん。しくじった」
「……襲撃か?」
「シャナちゃんが神殿の連中に」
「……」
短い言葉にオーランドは表情を引き締めて立ち上がった。カレンはきょとんとそんなオーランドを見ていた。驚いた様子のなく、ただ、予想通り、と言いたげなその表情に、バートラムも驚いていた。
「どういうこと?」
「……行こう。あれは?」
自然にカレンに手を伸ばして立たせてバートラムを見た。バートラムはあれ、という言葉に眉を寄せ、すぐに得心が言ったようにうなずく。
「準備はできてる。セザールが処理しているかどうか」
「確かめて来い」
「わかった」
「カレン、帰るぞ。ジャックは?」
「無事だ。……その」
「シャナが自ら飛び込んだか?」
「……ああ」
「……そうか」
短い言葉の会話についていけないカレンは二人を見ているが、そんな様子に気付かないようで、バートラムは足早に出て行って、オーランドもカレンの手を引いて荷物を持ってすぐ店を出て行った。
「何が起こったの?」
「俺のことを気に入らない連中が、シャナをたぶん、魔女として密告したんだと思う」
「……魔女!」
「そう。ハーブ使いなんてそんなもんだろう。俺はまだ、貴族特権があるからまだそういう追及はされてない」
「あたしも……」
「ああ。それは、伯爵家お抱えとして、があるからだ」
静かに言ったオーランドは人ごみを足早に抜けてカレンの医院へ戻って行く。
「荒らされてないんだな」
「シャナちゃんがここは荒らしちゃだめだからって」
「……あいつ」
顔をしかめて、そう荒れていない中を見てオーランドは深いため息をついた。
「バートラム」
「なんだ?」
「とりあえず、お前は王城に戻れ。……支度を整えてから、神殿へ」
「……わかった」
「ジャック。戻るぞ。カレンも一緒に来い」
「は」
「……わかった」
素直にうなずいて動きだす一同にオーランドは満足げにうなずいてため息をついた。
「シャナは……」
「大丈夫だ。彼女の意志を尊重しないでやるのは……」
「彼女は気づいていますよ」
「え?」
「……親切にも、セザール様がほのめかしてくれました」
そういったジャックにオーランドは目を見開いて苦い顔をした。
「そうか」
「覚悟は決まっていると思います。……でも、こんな無理やりな助け方があるとはと、驚くか、無理やりすぎと怒るか」
「後者だな。あいつはそういうやつだ」
そういってほのかに笑んだオーランドはジャックに馬を取りに行かせ、カレンとともに屋敷に戻らせた。
「何か用か?」
「いや。出生証明書を取りに行く。医者の署名が必要だろうが」
「そうだな……」
笑ったバートラムが魔術で飛んでいくのを見届けて、オーランドはカバンを小脇に、傷をさすりながら歩き出した。




