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「なんだよ」
「……いや。もう何でもない。それより、俺のカバンの手帳からしおり出してくれるか?」
「ああ? しおり?」
床に投げ捨てられるように置かれているカバンから革で装丁された手帳兼日記帳を取り出してオーランドに手渡したバートラムは、すっと抜かれたしおりを差し出されて首を傾げた。ふわりと香草の香りが香ったのだ。
「カレンに持って行ってくれ」
「……何か香りがするな? なんだ?」
「何でもいいだろうが。……俺とあいつとで決めてあるやつだ。それと、……」
装丁の差し込みのところから淡い色のメッセージカードを抜き取ってペンを走らせたオーランドの痛々しいほど傷を負った手をバートラムは見ている。
「これを彼女に」
「……恋文か?」
「バカ言え。帰るだけだ」
「は?」
「ここにいつまでもいられないだろうが。彼女だって仕事がある。どうせ、お前らのところに預かっててもらっているんだろうが、軍医の腕もたかが知れている。カレンよりいい腕の医者なんていない」
「……ずいぶんきっぱり言うな」
「実際そうだからな」
とベッドから降りようとしたオーランドだったが、あることに気付いたようだった。信じられない顔をして自分の股間を見下ろしたその様子にバートラムがにやっとした。
「俺の服は?」
「カレンさんの指示で捨てた」
「……着替え」
「まだ持ってきてない」
「持ってこい」
間髪入れない言葉に、バートラムは踵を返して見せる。そのしぐさに焦ったように足を床につけるがかけてあるシーツがずり落ちるのに、あわててシーツごと股間を押さえる。
はっきり言って情けない姿だ。
「おい!」
「お前の屋敷には、ここでけが人の手当てをやってるっていってある。しばらくここの手伝いをすると。シャナちゃんはジャックさんが面倒見るということだったから問題ない。カレンちゃんの許可が下りるまでここにいることだな」
「……せめて下着」
ぽつりとつぶやかれたその言葉に、バートラムはブッと吹き出して、そりゃあ、すまなんだといいながら、屋敷に帰る旨を書いたメッセージカードだけをつき返して部屋から出て行った。
「……あんにゃろう」
まさか、下半身すっぽんぽんで出歩くわけにも、部屋の中をうろうろするわけにもいかないと、オーランドは一人、ベッドの中に横たわり、いつ脱がされたのかと、途方に暮れたのだった。
やがて、カレンが目覚め、文字通り飛び起きて、オーランドが寝ているであろう部屋に飛び込むと、シーツにくるまってベッドの端に膝を抱えるように座り、じとっとカレンをにらむオーランドがいた。
そして、困り果てた様子で、下着よこしやがれとか細い声で言うその様子にカレンが爆笑したのは、無理ないことだった。
犯行時刻は昨夜、オーランドが眠った後です。犯人は――?(笑)




