6,
「お前はさ」
「なんだ?」
「伯爵へ復帰するつもりなのか?」
静かに投げられた問いにオーランドは瞬きをしてすっと目を細めた。
「見たか?」
「あんなふざけた書類初めて見たとロランが怒ってた」
「……だろうな。叔父に爵位が回ってくるのは織り込み済みで、ババアがもしくはその後ろにいるやつが何か糸を引いていたんだ。そこから何か引っこ抜かなければ害虫駆除はできない」
「誰が考えられる?」
「考えられたらとっくに首狩りしている」
「……そうだな。あ、あと、お前の、いや、伯爵領地も査察を極秘にしたが、かなりやばいことやらかしてるぞ」
「知ってる。詳細の証拠も持っている」
「ふーん。って、えっ!」
「爺どもの弱みだ。……まあ、俺も握られてるんだが」
「お前にないんじゃないか?」
「俺にはな」
静かに言ったオーランドは、ちらりと部屋に飾られている教会の聖印に視線を向けた。
「……そういうことか」
「ああ」
それだけでわかるバートラムに何か心当たりがあるのだろう。顔をしかめたバートラムにオーランドは苦い笑みを浮かべた。
「今はそこまで手が回らないんだ」
「何かあれば自分でどうにかする。お前らを頼るつもりはない」
きっぱりと言い切ったオーランドは深くため息をついて目を閉じた。
「せめて、爵位を得られれば、どうにか言えるんだがな……」
「……一つ方法はある」
「なんだ?」
「武功」
その一言にオーランドが目を見開いてバートラムを見た。
「伯爵じゃなくとも貴族位を臨時でも得られれば大丈夫だろう」
「もらえるか?」
「……もちろん。もらえなくても適当に何かでっち上げさせるさ。首吊り子爵よりよっぽどいい」
「普通に子爵さえもらえれればっていうな」
「その通りになっちまうのか」
「次は首狩り伯爵さ」
「は。いうな」
「それぐらいやらんと。ここまで来たなら」
「さて、次は誰の首を?」
子気味いいテンポで続けられる言葉に、オーランドの唇にも機嫌がよさげな笑みが乗る。
「むろん。肥え太った豚どもを吊るすところから始めるとしよう」
「吊るして薙いで、首狩って。できるは死体の山か」
「護るために殺しを選んだ。それだけさ」
「難儀な道を選んだな。お前も」
その言葉に肩をすくめ、そして、痛み走った顔をしたオーランドに、バートラムはあきれた顔をした。
「まあ、とにかく今は養生しろ。武功による爵位授与はこっちでどうにかしておく」
「……お前がか?」
「一応ね。できるぐらい、というよりは、オフレコだが、一応俺も、政務官の身分はもらってるんだよ」
「……軍の将軍じゃなくてか?」
「国と兵を分離する政策を取ったが、それじゃままならんこともあるだろう?」
にやりと笑うバートラムにオーランドは鼻を鳴らしてバートラムを見上げた。
「……ていのいい私兵団ってところか」
「そういうこと。だから、俺の所帯にはあんまり頭の悪いやつはそろってないってわけだ」
「一番の問題児はお前だからな」
「そうそう」
「開き直るな。こっちの身にもなれ」
「いいじゃねえか。今日だってカレンちゃん見に行くっていっただけで抜け出してこれたんだからさ」
いつも通りのバートラムにオーランドはそれ以上何も言わずにバートラムを見ていた。




