6、
「なんか、下の弟にそっくりだ、お前」
「……下の弟?」
「ああ。俺が上で、真ん中ともう一人下」
「……今の陛下か」
「お、そうそう。レイにそっくりだ」
事情により王子ではいられなくなった王子だというバートラムの言葉と、あの時に見てしまった過去を思い出しながらオーランドが言うと、バートラムは嬉しそうに笑った。
「それは光栄だというべきものか?」
「いんや? そう皮肉るところとか、なんつーんだろ、具合悪いのに無理重ねたり、ぶっ倒れてもベッドに執務を持ち込んでやる仕事狂振りとか……」
「……」
憮然とし始めたオーランドに、バートラムはからからと笑った。
「そこもそっくりだ。俺よりよっぽどお前のほうがそっくりだな」
「お前に似た王様だったらサボり癖で執政官は大変だろうな」
「ちがいねえな」
今の彼を見て言う言葉に笑うバートラムにオーランドが目を伏せた。
「そんな顔しないでくれよ。オーランド」
「……ああ。そうだな」
何かが違えば、バートラムが王として君臨していた可能性があるだけに、オーランドとしては自分で言ったものの笑えないものだった。
「そんな顔をするのも、あいつそっくりだ」
「陛下も?」
「ああ。……俺も、あいつに全部押し付けて、おふくろの所業を理由に廃嫡と存在すら抹消してくれと親父に言っちまったからねえ。後ろ暗いところもあるのよ。それはロランも同じな」
「……ロラン王子のほうは母君の位が低いだけで何の問題がないと聞いていたが?」
「まーそうっちゃそうだし、俺ら兄弟の中じゃ一番頭の出来はいいさ」
「……」
オーランドは、その言葉を聞いて、苦い表情を浮かべた。
「どうした?」
「俺はとんでもねえのと並び名を語られたなと思ってな」
「……ああ、三指の槍?」
「二振りはお前ら兄弟、陛下の兄貴なわけだ。……もう一匹は訳の分からんやつで」
「いーじゃねえか。今なら既成事実も作れるぜ? 落胤とか言ってよ。あの爺、結構盛んなやつでよ。死人に口なしさ」
「バカ言うな。厄介ごとはごめんだ」
「ひでえな。厄介ごとなんて言うなよ」
「厄介ごとだからお前が早々に足を引いたんだろうが」
「あ、ばれた?」
「でも、引いてみたところで見えたのは、味方のいない弟たちだった、ってところだろう?」
鋭い指摘にバートラムのひょうひょうとした気配が一気に消えた。驚いた表情から真顔、そして、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべたバートラムにオーランドはそっとため息をついた。
「……まあな」
「まだかわいがれる弟がいるだけましなもんさ」
「ん?」
「……俺の血のつながらない弟は酒場でぶんなぐられてくたばった。まあ、俺がくたばってる間に全部終わっただろうからいいが……」
「……おい」
「あんな屑の葬儀に出てたまるか。わが家に入れることすら反吐が出る」
そういい切ったオーランドにバートラムが何とも言えない顔をする。こちらもわかっているのだ。オーランドの記憶にある、血のつながらない弟の存在と、そしてその母親、義理の母の存在を。
シャナの居場所を教えようと、執務室を訪ね、オーランドの素手に触れてしまったあの時、オーランドが油断していたのか、彼と、バートラムの記憶が、互いの脳裏にさらしだされたのだ。
そして、シャナを救いだした後、バートラムは、魔術の研究をしている弟のロラン、今は名を隠し、セザールとしているが、に、一切の出来事を相談しに行って特殊魔力持ちの可能性に行きついた。
難儀な能力を持ったことだな、と同情をしながら、バートラムはそっと視線を下げた。




