6、
そして、数日が経った。
「カレンさん?」
翌日から軍の兵士がカレンを訪ね聴取をしたいと言っていたが、カレンはオーランドに言われたとおり断り続けていた。
そして、そうすること数日。この日の朝、訪ねたが応答がなかったと、単に彼らの安否確認のためにもっともらしい理由をつけて毎日兵士を向かわせていたバートラムに報告が行ったのだった。
昼休みを狙ってバートラムが一声かけながら医院の中に入った。
日の光が差し込む明るい待合室はがらんとしていて、人の気配などまるで感じられなかった。
「……?」
さすがに首を傾げて奥に入って人の気配を探るようにして、処置室に入る。
「バートラム……」
吐息交じりの声に、はっとして、処置室の奥にある診察台のベッドに寝かせられているオーランドを見つけ、そして、その肩に顔をうずめるようにしている白衣を着た女性を見つけ、バートラムは気まずげに扉を閉めた。
「おい、なに勘違いしてるんだ。入って来い!」
ここまで焦った声をしているオーランドを誰が見たことあるだろうか。
バートラムは、くつくつと笑いながら中に入った。
「上にある部屋にこいつ連れてってくれ。過労で寝ちまった」
「過労?」
「眠れなかったらしい」
ぐったりとしたカレンを抱き起してバートラムは、白い面に真っ黒いクマがくっきりと浮かんでいるのを見て、深くため息をついた。
「ひでえな」
「無理がきかないくせに無理するんだよ……」
「それお前もだろ」
「俺のほうがまだ動けなくなる前に休む」
「直前だろうが」
「にしても、自分の限界は知っているつもりだ」
そういって、オーランドはゆっくりと体を起こして自分で傷の具合を確かめた。
「どうだ?」
「さすが縫合の腕はうまくなっている。大丈夫そうだ。後は貧血が取れれば出仕できる」
「そうじゃなくて」
「そうじゃない?」
「仕事できるかどうかじゃなくて、具合はいいのか悪いのかっつってんだよ? お前の仕事できるは当てにならないからな」
「……」
カレンを部屋に戻して、戻ってきたバートラムが首を傾げて壁に背中を預けて座っているオーランドを見た。顔色はまだまだ悪く、弱っているのか、まだ瞳にも力が戻っていない。
「いいか悪いかっつったらまだ悪い。血が足りないのか、腹が減っているのかわからんが、気持ち悪い」
「……」
すらすらといわれる、客観的な症状にバートラムはだんだん表情をなくしていき、その様子をオーランドが気づいて首を傾げた時には、無表情で突っ立っているだけになっていた。
「バートラム?」
「お前な、そんな顔してそんだけのこと言うんじゃねえよ。結構重傷じゃねえか」
「……? そうだな。重傷っちゃ重傷だが、死にやしねえよ。もう」
「もうって、なんだ? 処置してもらってる時はやばかったのか?」
「正直覚悟はしてたんだがな」
肩をすくめるオーランドの他人事加減にバートラムは顔をゆがませてぴんと額を指ではじいた。
「何しやがる」
「んなこと淡々ということじゃねえだろうが。心配する方にもなってみろ。バカ野郎」
「……心配?」
「したんだよ。悪いか!」
やつあたりにも近いその言葉に、オーランドは驚いたように目を瞬かせてバートラムを見ていた。
「どうせカレンちゃんにもそんな調子でなんか言ったんだろ! どうせ、届けてくれた書類だって部下が見舞いに来たときにカレンちゃんの目を盗んで仕上げたんだろ? んで、後は、抜け出し癖もどうせ彼女熟知してるわけだから、目ぇ離したらお前また抜け出してぶっ倒れるかもって寝れなかったんだろ。かわいそうに」
「そんな。これぐらいやばい時はさすがに」
「それはお前の加減だろうが。他人にその加減はわかんねえからハラハラしてんだよ。バカ野郎」
バートラムの言葉に、ぐっと言葉に詰まったオーランドにバートラムは、ため息をついた。
「少しは俺たちの気持ちわかったか?」
「……」
黙ったままのオーランドに言うと、彼はそっとため息をついて目を閉じた。
「すまん」
「わかりゃいいんだよ。彼女にも、なんかいたわってやれよ。くれぐれも起き上がって心配かけさせんなよ」
わしわしとその頭を撫ぜて顔を覗き込むと、オーランドは目を開いてすっと目を細めた。
「痛い」
「おう? すまんかった」
わしゃわしゃとかき混ぜられて毛並みを乱されて静かに怒る猫よろしく半眼になったオーランドの顔に笑ってみせたバートラムは、ふっと表情を緩ませて椅子に座った。




