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オーランド・バルシュテインの改心  作者: 真川紅美
5章:護る者、護られる者
40/146

5、

 げんなりした様子のオーランドが戻ってきたのは、夕飯より少し前のことだった。


「遅かったじゃない? なに? 取り調べ?」


 シャナの相手をしつつ、ジャックの仕事でもある家事を手伝っていたカレンが、げっそりとした顔をしているオーランドに話しかけていた。


「くそババアのせいで取り調べを二つ受けることになった」

「二つ? おばさんのやらかしと後は?」

「屑が酒場でおっ死んだらしくてな。ババアがわめいているんだ。俺の差し金に違いないって」

「……うっわ」

「それについての取り調べでここまで時間が食った。ババアが話に割ってはいるせいでな……」


 肩を落として心底嫌そうな顔をしてそういったオーランドに、さすがのカレンもご愁傷様としか、言えなかった。


「シャナの様子は?」

「落ち着いている。昼頃、バートラムさんと、あと、銀髪の男の人がバートラムさんにつれられてきたけど」

「……バートラムと、たぶん、セザールさん、だな」

「セザールさん?」

「……。あそこが出てくるというのはいろいろ厄介ごとにかかわってしまったか」

 ポツリとつぶやいたオーランドにカレンは首を傾げた。

「どういうこと?」


 その問いにオーランドはそっとため息をついて肩をすくめた。


「俺が王国きっての三指の槍、と呼ばれているのは知っているだろう?」

「……そうね、くだらない二つ名と一緒に言われていることだわね。……というか、それってどういうことなの? つまりは?」

「若い王を支える三つの柱、ってことだ。軍事力の俺と、内偵? 貴族担当のバートラム、そして、政務のセザール。シャナに面会を求めてきたのは、そのうちのバートラムとセザールだろ? もしかしたら、俺を疎む連中の差し金でシャナがああなった、それも、あいつらレベルの政務高官が出てくるってことは、……暗殺とかでよく使われる、国の暗殺者が出張ってきて、俺にちょっかいをかけてきたのかもしれない、と疑っているとも等しい」


 ため息交じりのその言葉にカレンが眉を寄せ、そして、理解が及んだように目を見開いた。


「それって……」

「思ったより自体は深刻なのかもしれない。……気をつける必要があるな」


 苦虫つぶしたような顔でそうつぶやくオーランドに、何か言おうとしたカレンだったが、ふと、懐中時計を取り出すと、時間を見て顔をひきつらせた。


「やっば!」

「なんだ? 往診か?」

「いや、そうじゃないけど、ちょっと約束合ったんだ。行かなきゃ……!」


 そういって往診鞄を取って飛び出そうとするカレンの腕を引き止めて、オーランドはジャックを呼びだした。


「ちょっと!」

「送って行く。時間がないんだろう?」

「え? 何で……?」

「馬」

「……かしこまりました」


 ジャックは一礼をして家から出て馬の準備をする。


「あたし、馬のれないよ?」

「わかってる。相乗りだ」

「えー」

「馬車なんて使えるわけねえだろうが」


 間もなくして、ジャックがやってきて、用意が終わったことを告げた。オーランドはカレンの腕を取ったまま、外に出て、馬にまたがると、カレンを上に引き上げ、佩いていた剣をカレンに持たせた。


「これもってなきゃダメ?」

「落とすんじゃねえぞ。修理代請求してやる」

「いくら?」

「お前の年収だな」

「ふざけんな!」


 間髪おかずに上がるその声にオーランドはくっと笑って馬を駆り始める。


 そして、馬を駆って数分後には、町に入り、そして、はずれにあるカレンの医院についたのだった。


「助かったわ」

「誰かと出かけるのか?」

「そんなところ」


 馬に乗ったままあたりをいぶかしげに見回したオーランドがカレンに尋ね、その言葉に、少しだけ眉を寄せた。いつもなら行き来しているはずの街の人たちが、見当たらないのだ。


「なによ」

「……いや。いつも、この時間帯、ここ、こんなに人通り少なかったか?」


 がらんとした、通りを見てオーランドが言った。


「……いや、そんなことないわ……。この時間で凪ぐことも珍しい」


 カレンのその言葉にオーランドはカレンから剣を受け取ると、降りて手綱を握らせる。


「ちょっと、なによ!」

「こいつは賢い。振り落とされないようにだけしがみついてりゃ、軍舎に向かって人が着たら止まる。軍舎で、俺の部下か、誰でもいい。俺の名を使って連中呼んで来い。襲撃者だ」

「襲撃者って……!」

「物陰に何人かいる」


 その言葉を肯定するかのように、どこからか風を切る音が聞こえて、滑らかに抜いた剣が飛んできたそれの軌道を遮る。


 軌道がそれたナイフはバランスを崩して、それぞれ医院の壁と、石畳に打ち付けられ、乾いた音を立てた。


「……!」

「投げナイフだ。……お前に用があるのかもしれないな」


 ポツリとつぶやいて、わらわらと集まり始めた男たちに馬もそわそわとし始める。その頃合いを見計らって、オーランドは剣の鞘で馬の尻を突き走らせた。


「オーランド!」

「とっとと戻って来いよ」


 振り返るカレンにそうつぶやいて、オーランドは囲んだ男たちをにらみつける。

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