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死体もどきの公爵令嬢  作者: 秋雨ルウ(レビューしてた人)
第二章 夢見る死体が行く先
22/45

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 2つの大グループに分けられた私達の頭には、それぞれ赤色と白色の布が巻かれることになった。どうやらこれで敵と味方を分けるつもりらしい。


「先生!こんな布を頭に巻くなんて耐えられません!」


「その場合は授業放棄と見做しますが?」


「……え、ええ!構いません!」


 貴族の中にはその不格好さに抗議するものもいたが、先生はそこに容赦はしなかった。羞恥に耐えられなかった二人だけ脱落したが、彼女たちの成績表に"不参加"と書かれる未来までちゃんと想定できているのだろうか。後になって騒がないと良いのだけれど。


 今回の模擬戦闘では武器の持参が許可された。流石に火器や魔法銃の類は許可されなかったが、弓とクロスボウの使用は許可され、槍や両手剣についても刃を潰していないものを使って良いことになっている。ただし。


「言うまでもありませんが、殺害は厳禁とします。身体の欠損と言った大怪我を負わせた場合も、罪には問いませんが大幅減点とします。最大で80点は引かれると思ってください。当然親御さんにも報告します。確実に点数を取りたい方はこちらの刃を潰した武器を使ってください」


 その言葉を聞いた生徒の大半が持参していた武器をしまい、なまくらを手に取った。なまくらとはいえ革袋を切る、あるいは貫く程度の威力はある。通常ならそちらを使った方が賢明なのだけれども、私は自分が使い慣れている武器を使うことにした。


「ん?セーレ、ずいぶんと変わったナイフを持っているな」


「あ、それ昔お父様とお母様がよく使ってた……」


「……なんですかそれ。鈍器?」


 私が持っているナイフは、所謂冒険者が山ではぐれた時などに使う、工作やサバイバルに特化したものだ。型に金属を流して作る鋳造品で、強度を高めるために少し大きめに作られている為、頑丈だがナイフにしては重い。工作を意識しているため、片刃となっている。


 持ち手から刃まで一切の装飾が無く、無骨だがその分信頼性が高い。刃の根本と背中に凹凸を付けることで、通常のナイフのように斬る、突く、柄での打突の他、凹凸に服を引っ掛ける、武器を絡め取ると言った技術のほか、生存に必要なあらゆる作業を可能にしている。


 要するに普通のご令嬢なら絶対に持たない、()()()()道具だ。案の定、一部の生徒から失笑が漏れ出ている。


 一応予備でもう一本持ってきてあるけど、こちらを使う機会は無いでしょうね。この武器は頑丈さがウリなので、砲弾の直撃でも喰らわない限りそうそう壊れることは無い。


 対してドロテさんの獲物はナックルガード。やはり、私と少し戦闘スタイルが似ているみたいね。彼女の体捌きは前期試験で十分に観察できている。間違いなく彼女の持ち味を活かしてくれるだろう。


「……まあ、何を使っても構いませんけど。足は引っ張らないでくださいね。スプーンより重くて疲れましたわーとか、絶対言わないでくださいよ?」


「あなたこそ、リーチが短すぎて届きませんでしたとか言ったら承知しませんよ?」


「ふふふ……セーレ様も冗談がお上手ですわ……」


「冗談ではありませんわ……ふふふ……」


 味方同士であるはずなのに、何故か私とドロテさんの間には微妙にぎこちない空気が流れ出ていた。それも私達らしい気もするけども。




 演習の開始は日が昇りきらない早朝。既にドロテさんと私は裏山の中腹にいる。周囲に敵も味方も混在する中、あまりいい位置ではない。くじで決められた場所だけれども、運が無いな……。


「ドロテさん、この演習で必要なことは生き残ることですが、革袋を割らないことには得点になりません。しかし相手も条件は同じです。割ることより、割られないように動くことを優先しましょう」


「そこに異論は無いですけど……セーレ様は何をしているんです?葉っぱを着こんだりして……」


 私の姿を見てドロテさんはすごく嫌そうな顔をしている。でも、これは生き残る上で必ず必要な生存戦略なのだ。本来なら顔に泥も塗っておきたいのだが、頭に白い布を巻いている以上あまり意味は無いだろう。


「迷彩と呼ばれる偽装です。これで敵から発見されにくくなります」


「迷彩……?」


「兄上から教わった技術です。私の強みを生かす戦い方だと言われました」


 兄上という単語にピクリと反応した彼女は、見様見真似で私に近い葉っぱドレスを見繕っていた。うん、意外と様になっている。そこを褒めたって絶対喜ばないでしょうけども。




 ……ドロテさんと二人っきりになるのって、実は初めてじゃないかしら?




「……ねえ、ドロテさん」


「あんまり喋ると見つかりやすくなるんじゃないですか」


「いえ、こうやって二人きりで話す機会なんて、あまりなかったですから。一度腹を割って話したいなと思いまして」


「なんなんですか……手短にお願いしますよ」


 ……そうね、じゃあ本筋から聞くとしましょうか。


「私の事、嫌いよね?」


「……そうやって直球で聞いてくるところが、特に嫌いですね」


「じゃあ兄上のことは?」


「はああ!?」


 大きな声が森に響き渡ってしまった。これで位置はバレてしまったかもしれない。


「お静かに……!敵に気付かれます……!」


「うぐぬっ!?……ど、どういう意味ですか?場合によっては怒りますよ?」


「いえ、なんだか兄上を見る時の目が私の時よりお優しい気がして……正直な気持ちとして、どう思ってるのかなと」


 私の言葉に珍しく動揺したのか、ドロテさんは激しく目を泳がせていた。


「……ど、どうも、思ってませんよ。確かに貴族にしては素晴らしい方だとは思いますけど、貴族である以上どれだけ手を伸ばしたって、平民の私では届きませんから」


「届いたら、別なんですか?」


「あなたねぇ……!」


「しっ!……敵です。布が赤いですわ」


 もっと話したかったけど、やはり先程の大声に気付いた敵のペアがこちらを捜索しにきたらしい。


「おかしいな、この辺りで聞こえたんだけどな」


「ねえ、気のせいだって。演習中に大声なんて出すわけないでしょ?」


 油断してる……逆にチャンスだわ。点数稼ぎをさせてもらいましょう。


「やりますよ」


「はい」


 私とドロテさんは打ち合わせをすることなく、藪の陰から一斉に飛び出した。ありえない場所から飛び出した私達に敵は対応できない。


 私は男子生徒が咄嗟に持ち上げたサーベルをナイフの凹凸部分に引っかけて、強引に振り払った。バランスを崩してたたらを踏んだ彼はもう一度サーベルを持ち上げようとしたが、もう遅い。その時には既に、ドロテさんが一瞬で二人の生徒の懐に飛び込み、革袋の紐を解いていた。


【白グループ、2点。セーレ&ドロテペアが獲得しました】


 校内放送に使われている拡声魔法が響き渡った。やはりどこかで数名で監視しているということなのだろう。


 とにかく、これで白グループが有利になった。そう安堵した瞬間。




【続けて赤グループ、5点。カロリーヌ&ファブリスペアが獲得しました】




「5点!?5人同時に倒したってこと!?あ、ありえない……!」


「……カロリーヌさんと殿下……二人とも、流石だわ」


 この戦いで最も危険な二人が、牙を剥いていた。




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