第6話
世界樹の涙
昔々、あるところに、とても平和な村がありました。
しかし、その村にとても乱暴な大男がやってきて、村の食べ物を奪っていきました。
その大男は味を占めたのか何度もやってくるようになりました。
このままでは村の食べ物が無くなってしまいます。
村の人たちは大男を捕まえる為に大きな穴を掘りました。
落とし穴があるとは知らなかった大男は穴に落ちてしまいます。
村の人たちは、ざまぁみろとばかりに穴の中に石を投げ入れました。
大男は自力で穴から這い出てきましたが体中傷だらけ。
そんな大男を村の人たちは槍を持って追いかけ回します。
これはたまらない、大男は大慌てで逃げまわりました。
大男は村から離れた森に隠れると、一晩中息を潜めました。
朝になると、流石の大男もお腹がペコペコです。
食べれる物が無いか探し歩いていると、川で洗濯をしている女性がいました。
良い匂いがするぞ、しめしめ、食べ物を持っているに違いない。
大男は女性にこっそり近づこうとしましたが、大男の体はもうボロボロです。
女性にたどり着く前に倒れてしまいました。
「大きな音がしましたが、誰かいるのですか?大丈夫ですか?」
女性はどうやら目が不自由なようです。
大男の姿が良く見えていないようでした。
「クゥルルル」
「え?つまらない?そいつぁ残念」
森の中を歩く一組の若い男女。
男は黒髪の考古学者、女は赤茶色の髪と鱗を持った人型の獣。
街を逃げ出た二人は森の中を黙々と歩いていた。
ただ歩くだけなのもつまらないと思ったアッシュはモミジに童話を聞かせていたのだがお気に召さなかったらしい。
「子供の頃好きだった話なんだけどな。大男と盲目の女性が一緒に旅に出て、苦難を乗り越えて最後に世界樹という巨大な樹木の生えた聖域に辿り着く話なんだ」
「・・・ルゥ?」
「ん?その後か、最後の落ちになっちゃうけど、まぁ良いか。世界中の人たちが仲良くなりますようにって祈って二人で末永く幸せに暮らしましたとさ。で終わりだ」
「・・・ルゥー?」
「その後?いや、作り話だしな。どこかで終わらんと切りが無いだろう」
「クゥルル」
「そうか、つまらんか。じゃあ次はモミジの事を教えてくれよ。群れで暮らしてたんだよな?ここらへんに巣があったのか?」
「ルルルルルー、クァロッ」
「え?移動しながら拠点変えて巣を作るのか。興味深いな、巣の材料は?群れの規模は?モミジは狩る者って言ってたけど、構成はどうなってるんだ?」
「ル、ル、ル・・・フカーッ」
「あ、ああ。すまん、ついな。一度に色々聞きすぎたな」
それでもモミジは律儀に教えてくれた。
巣はその時々で材料を変え簡素な縄張りを作ること。
群れの規模は様々だが二十人程であること。
構成は大きく分けて三つ。
みんなを統率し巣を守る役割の護る者。
獲物を捕りに行ったり敵対する者を排除する狩る者。
戦闘能力の低い下っ端の盗る者。
「なるほどなぁ、モミジは眠る前の事は覚えてるか?群がこの辺を通ってたって事だとは思うんだが、魔石の中にはモミジしかいなかったからな。少し不思議に思ってな」
「ルゥー、クゥルルル」
「縄張りから離れて水浴び?一人で?」
「ロロゥ」
「もう一人いたのか、なんで魔石の中に埋まってたのかは覚えてるか?」
「ルーゥ、ルルル」
「寝心地が良かったってどういう事だよ、そこ大事な部分だろ。・・・もう一人も気になるな、二人が離れてる間に何かあって群れが移動したと仮定してももう一人は確実にいたはずだ。洞窟のあった場所、行ってみるか」
モミジを見つけた洞窟は現在地からそう遠くは無い、次の行き先が決まった。
洞窟のあった場所はそう遠くはない、遠くは無いはずだった。
白い石碑の欠片は見つけた、しかし洞窟がどこにも無い。
「・・・聖域が閉じたのか」
「ルゥオー?」
「ああ、ここにモミジのいた洞窟があったんだ。あったはずなんだ」
「クゥルル」
「モミジ、この場所で二人で水浴びしてたんだよな?」
水の無い場所なのに何を言ってるのか、モミジはアッシュが可笑しな事を言ってると思い笑ってしまう。
「いや、確かに水無いけども!二千年もたてば地形も多少は変わるさ」
「クァー?」
モミジには二千年という月日がピンとこない様子でいた。
「もう一人、いたんだろ?友達か?心配じゃないのか?」
「ルルルーーー・・・クゥ」
「そうか、モミジ達にはそれも日常の一部だったんだな」
もしその仲間がここにいるのならモミジを見つけたら出てくるはずだ。
目覚めていない、ここにはいない、あるいはもういないのだろう。
「行こう、モミジ。次の街へ」




