距離感
「調子に乗るな、ばか律!」
わたしは隙をみて律をようやく押し退けて怒鳴る。
「わたしはまだ、律が勝手に被害妄想して軽々しくわたしから離れるって言ったこと、許したわけじゃないからな!」
「それはごめんってば」
ー本当に、わたしの気も知らないで。
「あれ?ちょっと待って」
「え、何?」
律が真剣な表情でわたしの目を真っ直ぐ見て言った。
「咲久が私と一緒にいたいって話が本当なら、今まで避けてたのもただのツンデレで、今まで私が強引に一方的に咲久の側にいようとしてたと思ってたけど、実は咲久も満更でもなかったってことか」
「ーなっ、は?!違っ‥‥‥うというか‥‥‥一緒にいたいのは違わないけど、でも!最近の律は過保護すぎるんだよ、トイレにまでついてきたり!とにかくわたしが言ってるのは、親しい友達‥‥‥として、適度な距離感を保ちながら一緒にいたいってこと!」
律に、「咲久ってもしかして私のこと好き?」と遠回しに聞かれたような、律がわたしの反応を見て試そうとしているような気がして、慌てて早口で答えてしまった。
でも、「友達」と自分で言っておきながら、何か心の奥でモヤっとした感情がチラついて、引っかかって離れない。
あああもう本当になんなんだよ‥‥‥!
「ふーんそっか、なるほどわかった」
少しの間をおいてそう頷いた律の声色が、少し暗かった気がした。
「まあでも、咲久がなんと言おうと、これまで以上に私は咲久から離れないし、四六時中一緒にいるし、もちろんトイレもー」
「ぜんっぜんわかってないじゃんか!」
「だって、今回実際私が咲久の側を少しだけ離れてる間に咲久が魔獣に襲われて殺されかけてたわけだし、もう2度とこんなこと起こさせる気ないから」
「それは‥‥‥」
それを言われると何も言い返せない。
っていうか、なんか律、怒ってる。
‥‥‥さっきちょっとだけ機嫌治ってたのに、なんでだよ‥‥‥。
あ、そういえば、律と再開したら、今回わたしが勝手に律の側を離れて、挙句何も戦えずそのまま魔獣に襲われてしまった一連の件をまず最初に謝ろうと思っていたのに、律の被害妄想の訂正をしていたせいで、まだちゃんと謝れていない。
今律がそのことについて怒ってるんだとしたら、わたしに距離が近いだの過保護すぎるだの言う資格はない。
だって実際ひとりになって死にかけたんだから。
「それは、何?」
「な、なんでもないです‥‥‥あでも、四六時中はちょっと‥‥‥」
「ちょっと、何?」
「あっ、なんでも、ない‥‥‥っす」
律の目が笑っていない笑顔の圧に押され、わたしは脂汗を流しながら、苦笑いで答える。
状況的に、わたしは律の言葉に何も言い返せない。
「それにー」
真っ直ぐわたしの目を見ていた律が、少し視線を逸らして、少し機嫌の悪い澄まし声で言った。
「友達としての距離感を保とうなんて、私ははなから思ってないし」
ー‥‥‥ん‥‥‥?
え、ちょっと待った、ちょっと待って。
どういう意味なのか、詳しく丁寧にその発言の意図を述べて‥‥‥くれなんて言えるはずもなく、わたしは完全にその場でフリーズしていた。
まばたきも忘れ、呼吸までも忘れるくらいに。
ーコンコンコンッ。
「2人ともー?居るかしら?ギルドのみんなで打ち上げ行くわよ〜!」
ドアのノックオンで呼吸を取り戻し、アンリーヌの声でまばたきを思い出したわたしは、「いいいいます!すぐ行きます!」とドアに向かって叫び、慌ててベッドから飛び降り盛大に転んだのだった。
お読みくださりありがとうございます!
次話は打ち上げ回で、久々にパーティーメンバー6人を集結させられそうです。
改めて、ここまでブックマークやいいね、評価やコメントをくださっている方々、本当にありがとうございます!!




