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98話:キングワイバーンとの戦い

 ルリさんと合流してすぐに。


「そうだ。それじゃあ……はい、これ。ポーション薬です」

「あ、うん、ありがとうユウ君……!」


 それからすぐに僕はルリさんにポーション薬を手渡していった。これは以前調合で作っておいたポーション薬だ。


「本当はハイポーションとか渡したいんですけど……でも今日はダンジョンに入るつもりが無かったからアイテムを全然持ってきてなかったんです。それで今はポーションしか手持ちには無いんですけど……とりあえず今はこれで応急処置をしてください……!」

「うん、ありがとうユウ君。ポーション薬でも十分助かるよ。それじゃあ早速――」

「グギャアアアアッ!!」

「っ!?」


 そんなやり取りをしていると先程吹き飛ばしていったキングワイバーンが正気を取り戻して再び咆哮を上げ始めていった。


「とりあえずルリさんはポーション薬を飲んで僕の後ろに!」

「う、うん。わかった……ユウ君……だけど死んじゃ……駄目だからね……」

「はい、もちろんです! ふぅ……我の下に集え(エレメンタル・)、炎の精霊たちよ(イグニス・マグヌス)……」

「ッ!? グルルッ……グルルルルルルルッ!」


 僕はキングワイバーンとの戦闘に入るべく、炎の精霊を詠唱で呼び出していった。するとそれからすぐに僕の身体を中心に赤い光が宿し始めていった。


 キングワイバーンも僕の身体が赤く光始めたのに気づいたようで、僕達の方に襲いにかかろうとしてきたのを急に止めて僕の様子をジっと注意深く観察し始めてきた。


「わわっ……何この温かい感じ……? こ、これって……ユウ君の魔法の効果なのかな……?」

「はい、そうです。今から発動する魔法のための下準備って感じです。あ、でも大丈夫ですかルリさん? 僕の身体から熱気とか感じたりしますか? 熱かったらごめんなさい」

「ううん。大丈夫。むしろポカポカとしてて……ふふ、すっごく安心する温かさだよ……」

「そうですか、それなら良かったです。それにしても中々に用心深いキングワイバーンだ。攻撃を一度中断して僕の行動を観察してくるなんて……まぁでもそろそろアイツも……」

「グルルルル……グギャアアッ!!」


―― バサッ……バサッ……バサッ……!


 僕の身体が赤く光っただけでそれ以上の反応は何もないと判断したキングワイバーンは急に空を高く舞い始めていった。おそらく僕の力量はおおよそ判断が付いたので今から攻撃に移るという事だろう。


「なるほど。一度空高く舞っていき……そして僕に目掛けて……!」

「グルルルルッ……グギャアアアアアアアアアッ!!」

「突撃してこようって事だよね!」


―— ビュンッ……!


 キングワイバーンは大きな雄たけびを上げながら空から地上に居る僕に向かって全力で滑空して突撃してきた。


 流石は最上級モンスターの飛竜種だ。僕に向かって滑空しながら激突してくるスピードは尋常じゃない早さだった。


「これは凄い……流石は最深部の最上級モンスターだ……!」

「ユ、ユウ君……!」


 キングワイバーンの巨体が猛スピードで突撃してくるだけで破壊力は相当なものとなる。常人ならこんな猛スピードの突進をモロに受けてしまえば、おそらくは一瞬であの世逝きとなるだろう。


 だけど僕はそんなキングワイバーンの突撃を避けるつもりは一切なく、この場で受け止める気でいた。何故なら僕の後ろには倒れ込んでいるルリさんがいるからだ。


 僕が避けてしまえばルリさんがキングワイバーンの強烈な一撃を食らう事になってしまう。そんなのは絶対に駄目だ。だから僕は……全力であの激突を防いでみせる!


「ふぅ……良し、それじゃあいくぞ! 我に炎の加護を! 最上級魔法発動! 炎威・肉体強化ウル・イグニス・バイト!」

「……えっ? な、なにこの青い炎……?」


―― ボワッ……!


 僕がそう唱えていった瞬間、僕の全身には激しく燃える蒼炎が纏い出していった。


 これは火属性の最上級魔法の一つである自己強化魔法だ。普段使っている肉体強化の魔法とは異なり炎の精霊の力を借りて全身を超活性化させるという超強化魔法だ。予め炎の精霊を呼び出しておいた理由はこれだ。


「ふぅ、それじゃあ……力勝負といこうじゃないか!」

「グギャアアアアアッ!!」


 炎の精霊の力を借りて蒼炎を身に纏った僕は猛スピードで突撃してくるキングワイバーンの突進から一切逃げる事なくこの場所で迎え撃つ覚悟を決めていった。そして……。


―— ズドンッ!!


「ッ!? グ、グギャルルルルル……!」


 僕は猛スピードで突撃してきたキングワイバーンの頭を両手でグッと抑え込んだ。


 キングワイバーンの突進の威力は凄まじく、僕の身体は地面に若干埋もれてしまったけど、それでも僕は後退る事なくキングワイバーンの動きを止める事に成功した。


「ビックリしたような顔してるけどどうしたのかな? あぁ、もしかして今までにお前の突撃を受け止めたヤツはいなかったのかな……?」

「グ、グルルルル……」

「はは、図星のようだね。わかりやすい態度どうもありがとう。それじゃあこれも覚えておきなよ? この世の中には……お前よりも強い冒険者がいるって……事をさっ!!」

「グッ……グギャアアアアアッ!?」


―— ブンッ!!


 僕はキングワイバーンの頭をガシっと掴んだまま全力でぶん回していき、そしてそのまま回転の勢いをつけてキングワイバーンを空高くへと放り投げていった。


「ふぅ、思いのほか高く飛んでいったな」

「す、すごい……! ユ、ユウ君……凄すぎるよ……!!」

「ギャ……ギャオオオオッッ……!?」


 キングワイバーンはグルグルときりもみ回転しながら空高くへ飛んでいってた。思っていたよりも高く飛んでいったので僕は下からそれを見上げていった。


 まぁでも流石に通常の肉体強化を受けただけではキングワイバーンをここまで空高くにぶん投げる事なんて出来ない。これは炎の精霊の協力してもらって最上級の肉体強化を受けた状態だからこそ出来た行動だ。


 そしてこの最上級の肉体強化魔法は常に魔力を大きく消費し続けていく技なんだ。だから僕の魔力が枯渇して最上級の肉体強化魔法が切れてしまう前にキングワイバーンとの決着をつけなければならない。


「さてと、それじゃあここからどうやってアイツを倒そうかな……って、あれ?」

「グル……グルル……!」


 キングワイバーンはグルグルと回転しながら吹っ飛んでいったんだけど、思ったよりも早くに態勢を立て直してきた。キングワイバーンは大きな翼を広げながら態勢を立て直していき、空中に滞空したまま大きな声で咆哮をした。


「ギャオオオオオオオッッ!!」

「ん……って、えっ? 魔法陣だって!?」

「っ! そ、そうだユウ君! このモンスター……魔法で遠距離攻撃もしてくるの!!」

「えっ? このモンスターは魔法を使ってくるんですか? という事はこのキングワイバーンはアストルフォのボスモンスターなのか!」

「グルルル……グギャアアアアアアアアアアアアッ!!」


―― ポワッ、ポワッ、ポワッ、ポワッ……!!


 大きな咆哮を上げたキングワイバーンの周りから魔法陣が無数に呼び出されて行き、その魔法陣からは大きな岩の塊が次々と生成されていきだした。


 そしてモンスターで魔法を使えるのはそのダンジョンのボスモンスターだけだ。なので今目の前にいるキングワイバーンはこのアストルフォで一番強いモンスターという事になる。それにしても……。


「それにしても何だこの無数の魔法陣は……!? 流石は飛竜種の王様というしかない……!」


 僕はその無数もの魔法陣を見てかなり驚いていった。僕も火柱魔法などで魔法陣を幾つか生成する事は出来る。でもせいぜい5~6個までが精一杯だ。


 それをこのキングワイバーンはいとも簡単に無数もの魔法陣を生成してるなんて、それだけでこのキングワイバーンがどれほど恐ろしい敵なのかがわかるというものだ。


「グギャアア! グルギャアアア!!」


 僕はそんな事を呟きながらその様子をじっと眺めていると、キングワイバーンは大きな雄たけびを上げながら無数もの岩石の生成を終了させていった。


 キングワイバーンの周りには無数もの岩石が滞空していた。そしてキングワイバーンはその大量に生成した岩石を僕に目掛けて……!


「グルルッ……グォオオオオオッ!」


―— ビュンッ!! ビュンッ!! ビュンッッ!!


 キングワイバーンは大きな翼を上下に力強く羽ばたかせ、その大量の岩石を僕に目掛けて全力で吹き飛ばしてきた。


「……はは、これは中々に……恐ろしい範囲攻撃だね……!」

「ユ、ユウ君……このままだと危ないよ……! い、今すぐに避けて……!」

「大丈夫ですよ。僕は避けません。だって僕はルリさんを守るためにここにいるんですから!」

「え……?」


 先ほどの突撃と同じく、僕に目掛けて飛ばしてきた岩石の速度もかなりの早さだった。しかも今度は無数の岩石を飛ばしてきている。これを避けるというのは今の超絶強化状態なら可能かもしれない。


 だけど僕の背後には傷だらけで倒れ込んでいるルリさんがいる。ここから一歩でも離れたらあの岩弾を食らうのはルリさんになってしまう……。


 だから僕にはこの場所から逃走するという選択肢はない。あるのは全てを受けきるという選択肢のみだ。なので僕はすぐにとある魔法を唱えていった。


我の下に集え(エレメンタル・)、炎の精霊たちよ(イグニス・マグヌス)! 我に炎の加護を! 最上級魔法発動、蒼炎の壁(フレイム・ウォール)!」

「グ、グギャッ!?」

「えっ……!?」


―— ドドドドドドドドッ!


 そう唱えていった瞬間、僕とキングワイバーンとの間に蒼く燃え盛る巨大な炎の壁がそびえ立ち始めていった。


 そしてキングワイバーンが放ってきた無数の岩石はその蒼炎の壁によって阻まれ、全てが融解してそのまま地面へポトポトと零れ落ちていった。


「こんなにも大量の岩石を吹き飛ばしてくるなんて確かに恐ろしい技だったけど……でも当たらなければ別にどうって事ないよね? 蒼炎の壁・解除(リリース)

「グ……ガッ……ルル……」


 キングワイバーンの攻撃が止んだので僕は蒼炎の壁を消してキングワイバーンの事を見上げていった。するとキングワイバーンは凄い衝撃を受けたような顔をしながら唸り声を上げていた。

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