97話:アストルフォの最深部に到着すると
「はぁ、はぁ……よ、ようやく着いたな!」
「くそ、渋滞があったせいで少し送れちまった! マジですまんユウ君!」
「いえ、全然大丈夫です! むしろ40分でここまで送り届けてくれて感謝です! よし、それじゃあ早くアストルフォの中に行くよ浅香!」
「う、うん、わかった!」
カケルさん達のバイクに乗せて貰っていた僕達はようやくアストルフォ付近にまで辿り着いた。そして僕達はそのまま急いでアストルフォの中へと入って行った。
アストルフォの中にさえ入れば、あとは浅香のワープ魔法で最深部まで飛ぶことが出来る。という事で……。
「はぁ、はぁ……アストルフォの中に入れた……よし、それじゃあ浅香、僕をこのまま最深部まで送って!」
「う、うん。でもお兄ちゃん……ちゃんと生きて帰ってきてよ……死んじゃったら駄目だからね……?」
「もちろんだよ。必ずルリさんと二人で一緒に帰ってくるよ。だから浅香は安心して待っててよ」
「うん、わかった。それじゃあ待ってるからね。いくよ、上級魔法起動、闇魔法・転移穴生成!」
―― ブォン!
浅香がワープ魔法を起動していくと、僕が立っている地面に黒い渦上のモヤモヤが広がっていった。
そしてその黒い渦上のモヤモヤが僕の身体を包んでいって、それから僕は一瞬で最深部へと転移していった。
「お兄ちゃん……気を付けてね……」
◇◇◇◇
―― ストンッ
「……よしっ、ここがアストルフォの最深部か……!」
浅香のワープ魔法によって僕は入口から違う場所へと飛ばされていった。おそらくここが最深部だ。
でも最深部にやって来たのに戦闘音のような激しい音は一切聞こえない。どうやらルリさんとキングワイバーンの戦闘はすでに決着がついてしまっているようだ。
僕はキングワイバーンとの戦闘が既に終わっているという事に焦りを感じつつも、僕は急いで辺りをキョロキョロと見渡してルリさんを探していった。すると……。
「……ルリさんは……ルリさんは一体何処に……あっ! い、いた……!」
少しだけ離れた場所にルリさんが居るのを見つける事が出来た。でも遠くからでもルリさんがズタボロの状態になっているのが見えてしまった。凄く痛々しい姿になっている。そして……。
「ぅ……ぁ……ぁ……」
「グルルル……グルルルルッ……!」
「!?」
そしてルリさんの頭上にはキングワイバーンが空を飛んでいた。そのキングワイバーンはゆっくりと地面に着地していった。
そしてキングワイバーンはルリさんにゆっくりと近づいて行き、口を大きく開け始めていった。あれは……ルリさんの事を……食べようとしている……!
「っ! 肉体強化!」
―― ポワッ!
僕は急いで自身に肉体強化の魔法を施していき、そしてキングワイバーンの元へと駆けていき全力で殴りつけていった。
「ルリさんから……離れろーーー!!」
「グギャッ!? グギャアアアアッ!?」
―― ドゴォン!
キングワイバーンは不意を付かれたようで、僕の渾身の一撃をモロに受けていってぶっ飛んでいった。やはり先程までキングベヒーモスと戦っていたという事もあって、体力をかなり消耗しているようだ。これなら僕にも勝機は余裕である。
「はぁ、はぁ……って、そんな事を観察してる場合じゃない! ル、ルリさん! 助けに来ましたよ!」
「あ、あぁ……ユ、ユウ……くん……!」
遠くにぶっ飛ばしたキングワイバーンの事は一旦置いといて、僕はすぐにルリさんの方に顔を向けて笑みを浮かべながらそう言っていった。
するとルリさんは涙を浮かべながらも僕の名前を呼び掛けてくれた。
(あぁ、本当に良かった、ルリさんの意識はまだしっかりとあるようだ……)
僕はその事にほっと安堵しつつもルリさんの姿を改めて観察していった。ルリさん身体は本当に凄いボロボロの状態になっていた。
全身の至る所から血が出てしまっているし、綺麗な顔にも沢山の切り傷や擦り傷が沢山出来てしまっている。目にも怪我をしていて片目が開かないようになっているし、足も折られてしまっているようで、上手く立つ事も出来なくなっているようだ……。
そんな酷いボロボロな怪我を負った姿ではあるけど……でもルリさんはちゃんと生きていた。あの最上級モンスターを相手に絶望的な状態だったのに……それでもルリさんは生きていてくれたんだ。
僕はその事が凄く嬉しくなっていき、そしてそのまま……。
―― ぎゅっ……
「え? って、わわ……ゆ、ユウ君? ど、どうしたの……?」
「あぁ……本当に良かった。生きてて……本当に良かったです……ルリさん……本当に……」
「ユウ君……うん。だって約束したから。私……絶対に生きてみせるって。だから頑張って……生き残ってみせたんだよ……ふふ、凄いでしょ……?」
「はい、本当に凄いです。ルリさんは本当に誰よりも凄い冒険者ですよ……ぐすっ……本当に良かった……本当……ぐすっ……」
「ふふ。もう、ユウ君は男の子なんだから泣いちゃ駄目だよー。ふふ……でも……ユウ君がここまで来てくれて……本当に嬉しいよ……ありがとう……ユウ君……ぐすっ……」
―― ぽんぽん……
そう言って僕達はお互いに涙を流しながらぎゅっと抱き合っていった。そして涙を流している僕に向かってルリさんも一緒に涙を流しながら僕の背中を優しくぽんぽんと撫でていってくれたのであった。




