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96話:いつだって君は私のヒーロー(ルリ視点)

 それからしばらくして……。


 キングワイバーンと対峙してからどれくらい経ったのか……私にはわからない。そして……。


「ぅ……ぁ……」


 私はボロボロの状態になって地面に倒れ込んでいた。私はあれからずっとキングワイバーンに甚振られ続けていっていた。私が死なないように手加減をされながらずっと痛い攻撃を貰い続けて来た。


 そんな甚振られ方をされたせいで身体のあちこちから血が出ているし怪我も沢山出来ている。もう手足の感覚は全然無いし、血を出し過ぎたせいか意識もだんだんと遠のいていっていた。


「グギャギャ……グギャアアア!!」


 そしてそんなボロボロな私の姿を見てキングワイバーンは楽しそうな咆哮を上げていた。顔を上げる事が出来ないからわからないけど、おそらくキングワイバーンは楽しそうに笑っている事だろう。


(あ……あぁ……わ、たし……もう……だめ……かも……しれないな……)


 私は意識が遠のきながらもそんな事を心の中で呟いていっていた。だってもう私は動く事さえままならないんだもの……。


 だから私はこのまま血が足りなくなって死んじゃうか、もしくはキングワイバーンが甚振るのに飽きて私を食い殺しちゃうかの二択を待つ状況となっていた。つまり今の私はもう死しか待っていないんだ。


 でもそんな恐ろしい状況になっているんだけど、身体から血が出過ぎて意識が朦朧としているおかげで、怖いとかそういう感情はもう芽生えなくなっていた。


(あ、あぁ……だい、じょうぶ、か、な……ゆき、と……)


 そして意識が朦朧となっていて考える事自体ももうあまり出来なかったんだけど、それでも最後に私は弟である雪人の事を気にかけていった。


 私はお姉ちゃんとして今まで雪人と沢山遊んできたし、本を読んであげたり、ピクニックに出かけたり、一緒にご飯を作って食べたりとかしてきた。


 そして雪人が不治の病に冒されて病院生活を余儀なくされてからは一緒に遊べなくなってしまったけど……それでも私は出来る限り毎日のように雪人と一緒に過ごしてきた。


 でも……今日を持って私は雪人とは一緒にいられなくなってしまう……。


(だ、から……ユウくん……私の代わりに……あの、この、こ、と……これからも……まもって、あげ、て、ね……)


 私は意識が遠のきながらもユウ君に弟の事をお願いしていった。さっきはユウ君に怒られちゃったけど……でもユウ君は私のお願いはちゃんと聞いてくれるよね……だからユウ君……後は……お願いね……。


―― ザッ……ザッ……ザッ……!


 それから私に向かってくる足音が徐々に大きくなっていった。どうやらキングワイバーンがゆっくりと私に近づいてきているようだ。


「グルルルルル!」

「ぅ……ぁ……ぁ……」


 そしてその時、私はキングワイバーンと目が合った。キングワイバーンは私の事を見てニヤニヤと嗤っていた。口からは涎も垂らしていた。


(あぁ……そっか……わた、しを……たべ、る、つもり……なん、だ……)


 キングワイバーンはどんどんと私に近づいてきている。でも私にはどうすることも出来ない。全身から血を出し過ぎた私はもう動く事が出来ない。それに頭がどんどんと真っ白になってきてて……もうまともに考える事すら出来ないていない……。


「グギャルルルル! グギャアアアアアアア!!」

「ぅ……ぁ……」


 ゆっくりと近づいてきたキングワイバーンは私の目の前で止まっていき、そしてそのまま口をガバっと大きく広げてきた。私は自分の死を悟り、ゆっくりと目を瞑っていった。


……ズドンッ! グシャッ!!


 その瞬間にダンジョンの中に大きな音が辺りに鳴り響いた。私は自分の身体を食いちぎられた音だと思った。でも違った。だって私は意識がまだあるし、食いちぎられた痛みも無かったから。


「グッ、グギャアアアアアアアアアアアッ!?」


 それからすぐに聞こえて来たのは巨大な叫び声だった。それは……私の事を食べようとしていたキングワイバーンの叫び声だった。


―― ……間に合った……


「……ぇ……?」


 そしてもう意識がかなり遠のいている状態だったのだけど……でも唐突に私の耳にはかすかに誰かの声が聞こえた気がした。


(な、んだか……きき、おぼえ……のある……たいせつな、ひとの……こえ……)


 最初は幻聴かと思った。でもその声が聞こえた瞬間に私は何だか全身から凄く勇気が湧いてくるような気がした。だってその声は私にとって……すごく大切な男の子の声に聞こえたんだ……。


 だから私は意識が朦朧としながらも、ゆっくりと目を開けていった。


「……あ、あれ……き、んぐ……わい……ばーんが……? ……って、あっ……!?」


 先ほどまで私の目の前にいたはずのキングワイバーンがいなくなっていた。キングワイバーンは少しだけ遠くに離れてぐったりとしていた。まるで誰かにぶっ飛ばされたような感じだ。そして……。


「……あ……あぁ……あぁっ……!」


 そして、私の目の前にはとある人物が立っていた……。


 その人物は……いや、その男の子は……私の姿を見て満面の笑みを浮かべながら……私にこう言ってきてくれた……。


「はぁ、はぁ……助けに来ましたよ……ルリさん!」

「あ、あぁ……ユ、ユウ……くん……!」


 私の目の前には私がピンチの時にいつでも必ず助けに来てくれる……誰よりも凄くカッコ良い……最高のヒーローの男の子が立っていたのだった。

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