93話:ルリさんにすぐさま連絡を入れていく
「なっ!? こ、コイツ……キングワイバーンじゃないか!?」
「え、この画面に映ってるのってキングワイバーンなのか!? って、それ最上級モンスターじゃねぇか!?」
「は、はぁ!? なんでルリちゃんがキングワイバーンと対峙してんだよ!?」
ルリさんの配信を見ていくと……何とそこではルリさんが最上級モンスターのキングワイバーンに襲われている所だった。
ルリさんの身体はボロボロの満身創痍となっていた。すでにキングワイバーンに何度も攻撃をされていったのかもしれない……。
とりあえず僕は急いでキングワイバーンの様子を見ていった。キングワイバーン個体の大きさは少々大きめだ。そして全身に傷が出来ており、片目も抉られた状態となっている。
これは繫殖期特有のモンスター同士の縄張り争いを行っていた事が予測出来る。おそらくさっきまで他の最上級モンスターと争っていたという事だ。
このキングワイバーンは手負い状態ではあるのだが、しかしモンスターというのは手負い状態の時が一番凶暴化するものだ。つまり今の手負い状態のキングワイバーンが一番強い状態になっているという事だ。
「な、なんでルリさんがキングワイバーンと対峙しているの!? キングワイバーンなんてダンジョンの最深部にしかいる訳がないモンスターなのに……!!」
「い、いや、そんな事を考えてる場合じゃないってお兄ちゃん! こ、このままじゃルリさんが死んじゃうよ! ど、どうにかしなきゃだよお兄ちゃん……!」
「う、うん! と、とりあえず今すぐに連絡をしなきゃだ……!」
という事で僕は急いでルリさんにネット通話を送っていった。すると配信画面の中で満身創痍だったルリさんが僕のネット配信に気が付いてくれたようだ。
―― プルルルッ……プルルル……!
『うぐっ……ぐっ……あ、ゆ、ユウ君……だ……』
―― ガチャッ
『も、もしもし……ユ、ユウく――』
「ルリさん! 今ルリさんの配信を見てます! 細かい話は後です! 今は何処のダンジョンの何階層にいるんですか!」
『あ、う、うん……アストルフォにいるんだけど……そ、その……今は最深部にいるの……』
「なっ!?」
「さ、最深部!?」
「だ、だからキングワイバーンが湧いてるのかっ!」
ルリさんのその話を聞いて僕達は一斉に大きな声を出していった。
だけど僕はルリさんに今は繫殖期だから低階層以外は絶対に行かない方が良いって言ったのに……それなのにルリさんはそんな僕の忠告を無視して最深部まで行ってしまったという事か……?
(……いや、ルリさんは決してそんな事をするような人じゃない)
僕はルリさんという人物を良く知っている。ルリさんは凄く真面目な女の子だし、そして弟の雪人君の事をとても大切に思っている優しいお姉さんだ。
そんな優しいルリさんが雪人君の事を悲しませるような無茶をするわけがない。そんなルリさんが僕の忠告を守らずに行動してたなんて考えられない。きっと何かイレギュラーな事が起きてしまったんだ。
『う、うぐっ……はぁ、はぁ……ごめんね、ユウ君。ユウ君にしっかりと忠告して貰ったのにこんな事になっちゃって……本当にごめんね……』
「ル、ルリさん……いえ、大丈夫です。ルリさんに深い事情があった事は察してます。理由は後で聞きますから今は状況説明をしてください。今ルリさんの目の前にいるモンスターはキングワイバーンだけですか?」
『はぁ、はぁ……え、えっと……ちょっと奥の方に倒れている大型の獣モンスターがいるよ。ほら、あそこ……』
「ありがとうございます。あれはキングベヒーモスですね。という事はやっぱりさっきまで縄張り争いをしていたという事――」
『グルルルルルッ……グギャアアアアアアアアアアアアッ!!!』
『うっ……あっ……』
そんな状況説明をして貰った時、突如としてキングワイバーンは大きな雄たけびを上げていた。どうやら満身創痍のルリさんに再度襲いかかろうとしている様子だ。
「ル、ルリさん! 早く立ち上がってその場から逃げてください! このままだとキングワイバーンの攻撃がそこに飛んできます!」
『グギャアアアアアアアアアアアアッ!!!』
『うっ……あ……無理だ……よ……流石にこんな最上級モンスター……私一人じゃ……無理だよ……』
「そ、そんな……そんな事は言わずに……! 諦めたら駄目ですって……!」
ルリさんはキングワイバーンの咆哮に気圧されていってしまったようだ。酷く絶望に打ちひしがれている顔だった。そしてそのままルリさんは静かに涙をポロポロと溢し始めていった。
『ぐすっ……ごめん。お母さん、お父さん、雪人……』
「ル、ルリさん! 気を確かに持ってください! まだ諦めちゃ駄目ですって!」
『グルルル!! グギャアアアアアアアアアアアアッ!!』
『それと……ごめんね、ユウ君。お願いがあるの……」
「え? な、何を言ってるんですか? だ、だからそんな事を言ってる暇があったらさっさとその場から逃げて……」
「私……もうすぐ死んじゃうから……だからその……出来れば私の代わりに……弟の……雪人の事……良かったらこれからも目にかけてあげてくれたら……嬉し――』
「だから!! 冒険者だったら最後まで生きる事を諦めるんじゃない!! この馬鹿ルリさんっ!!」
『……え?』
僕は生まれて初めて物凄く大きな声を出してそう叫んでいった。するとルリさんは一瞬だけ面を食らった表情をしていった。




