91話:それよりもほんの少し前の出来事(ルリ視点)
ユウ君達が私の配信を見るよりもほんの少し前……。
「よぉ、元気してたかぁ……?」
「え……す、スザク……さん?」
私は元ダンジョン配信者であるスザクさんとアストルフォの中で出会った。どうやら岩陰に隠れていたのはスザクさんだったようだ。
でもどうしてスザクさんは岩陰に隠れてたんだろう? スザクさんは私とは顔見知りなのだから隠れる必要なんてないはずなのに……。
「どうしたよルリちゃん? 顔がしかめっ面になってるぜー?? それに俺の質問に返事を返してくれないなんてさぁ……ぷはは、もしかして俺の声聞こえてないのかなー??」
「えっ? あ、す、すいません! えぇっと、お久しぶりですね、スザクさん。はい、私は凄く元気ですよ。そ、それでその……スザクさんはどうですか? 体調とかどんな感じですか?」
「はは、そっかそっか。それなら良かったよ。俺もすこぶる元気さー。あ、それと配信を見てるみんなー。スザクだ。おっすおっすー!」
ぺこ:えっ!? す、スザクさんって引退したんじゃなかったの!?
atagi:すっごく久々にスザク見た! でも何かちょっとやつれてない?
枢木:やっぱりゴシップ雑誌の記事とかSNSの書き込みでメンタルやられちゃったんじゃね?
もる:まぁ確かにあんだけ超大炎上したらやつれるのも無理はないよね……
「え、えぇっと……リスナーの皆も言ってるんですけど……何だか見た目が凄いほっそりとしてるというか、だいぶやつれてる感じですよ? だ、大丈夫ですか? ちゃんと休みとか取れてますか?」
「んー? あはは、そんなにやつれてるかなぁ? ぷはは、全然いつも通りだと思うんだけどなぁー。そんなにルリちゃんの目から見てやつれてるように見えるかなぁー??」
「え? え、えっと、は、はい、そうですね、そんな気がするんですけど……」
もる:な、何だか今日のスザク……おかしくないか?
朝倉:俺もそう思う。今日スザクのテンション異常な程高すぎな気がする
kuro:それに何だかちょっと怖い感じもする。さっきからずっと笑ってるけどスザクの目は虚ろな感じだし……
枢木:もしかしてスザク体調を壊してるんじゃないか? それなのにダンジョンに入ったとしたらちょっとヤバくないか?
「う、うん、確かに私もリスナーの皆の言う通りな気がしてるよ。あ、あの、スザクさん? もしかして体調が悪いんですかね? もしそうなら今から一緒にダンジョンの入口まで戻りましょうか? 体調が悪いようなら救急車も呼びますよ?」
「んー? あははー! 全然俺は病気なんてなってないし、そんなの大丈夫だよー! リスナーの皆も全然俺の体調とか全然気にしなくていいよー! ほらこんなに満面な笑顔の人間が体調悪いとか怪我してるとかそんな訳ないじゃんー!」
「そ、そうですか。ま、まぁスザクさんがそう言うのなら別にいいんですけど……そ、それで? スザクさんは今日はどうしてアストルフォにやって来たんですか?」
という事で私はスザクさんに本題を尋ねていってみた。どうしてスザクさんは初心者ダンジョンのアストルフォにやって来たんだろう? それに岩陰に隠れていた理由は一体何なんだろう?
「あぁ、うん! いや実はさー! ルリちゃんにお祝いのコメントをしにきたんだ! ほら、ルリちゃんB級冒険者になれたんでしょ! マジで凄いなーって思ってさ! 本当にルリちゃんは天才だよね! それで今日はルリちゃんが久々にダンジョン配信をするってSNSを見て知ったからさ、せっかくだからちゃんと会っておめでとうって言いたくなって俺もアストルフォまでやって来たんだー!」
「あ、そ、そうなんですね。はい、実はB級冒険者になれたんですよ。スザクさんにそう言って貰えてとても嬉しいです。ありがとうございます!」
「うんうん! そんでさー実はB級冒険者になったルリちゃんに今日はとっておきのプレゼントを用意してきたんだ! それを良かったらルリちゃんに受け取って貰いたいんだ! って事で良かったら俺からのプレゼントを貰ってくれるかなー?」
「え? スザクさんが私にプレゼントですか? はい、そう言って貰えるなら是非とも頂けると嬉しいです!」
「おー! それは良かった! それじゃあルリちゃんにとっておきのプレゼントを渡してあげるね! あはは、それじゃあ受け取ってくれ! 地獄行きの特急券だよ! 上級魔法起動、闇魔法・転移穴生成!」
「え……って、えっ!?」
スザクさんはそう言うと満面の笑みを浮かべたまま私に向かって闇属性の魔法を唱えていった。するとその瞬間、私の足元に黒い渦上のモヤモヤが浮かび始めていった。こ、これは一体何なの?
ぺこ:えっ!? る、ルリちゃん!?
atagi:闇魔法!? しかも上級魔法!?
枢木:闇属性の上級魔法!? それって人にぶつけても大丈夫な魔法なの!?
gori:おそらく今のって転移魔法だよね? 殺傷能力はないから人間を対象に取れるけど……で、でもルリちゃんを一体何処に飛ばすつもりなんだ!?
「え? て、転移魔法? わ、私を何処かに飛ばすつもりなんですか?」
「あはは、そうだよー! このワープ魔法はねー、対象者をダンジョン内の何処にでも飛ばす事が出来る楽しい魔法なんだー! あはは、それってつまりさ……ダンジョンの最深部に飛ばす事も可能って事なんだよねー!」
「……え!? ダンジョンの最深部に飛ばせる魔法……?」
私はそれを聞いて一瞬で背筋が凍り付いていった。
だってここは初心者向けダンジョンのアストルフォだとは言っても今は繫殖期なんだよ? そんな繫殖期のダンジョンの最深部に連れて行かれてしまったら……た、大変な事に……。




