85話:全部あのクソブス女のせいだ……!(スザク視点)
とある日の午後。
「おい、新人! テメェ何チンタラやってんだよ!」
「す、すいません……」
「すいませんじゃねぇよ! このタコ! テメェの作業が遅いせいで今日も全員で残業だぞ! 本当に使えねぇな、このボケカスが!」
「は、はい、すいません……」
俺は仕事先の工場で職場長から大きな罵声と共に全力で叱られていた。俺はそんな罵声に対して何も言い訳せずにひたすらと謝り続けていった。
「ふん! どうせ謝る気もないクセに何度も謝ってんじゃねぇよボケが! テメェの謝罪なんてちっとも誠意が感じられねぇんだよ! ってかテメェはもう一ヶ月以上も仕事に入ってるのに全然成長してねぇのヤバすぎだからな! もっと早く手を動かせよこのボケがっ! 給料下げんぞこのボケカスっ!」
「は、はい、すいません……」
俺は精神的に凄く疲弊しながらも言い訳をせずにひたすら職場長に謝り続けていった。
(……何で俺だけがこんなにもキツイ目に遭わなきゃなんねぇんだよ……)
今から一ヶ月以上も前、配信活動も冒険者活動も出来なくなった俺は金が一切無くなり学費が払えなくなったので大学を中退せざるを得なくなったんだ。
まぁ大学の中退で俺の今までの不幸な一連が全て終わるのならまだギリ耐えだなって思ったんだけど、でもそんな簡単に俺の不幸が終了する訳はなかった。それからすぐに俺にはもう一つ特大な不幸に見舞われる事になってしまったんだ……。
それは何かというと……大学を中退してからすぐに俺の配信活動や冒険者活動にスポンサードしてくれてた企業から連絡があり、スポンサー契約の解除及び違約金が発生するからそれを支払えと催促されてしまったんだ。あまりにも違約金の桁数が多くて俺は腰を抜かしてしまった。
なので俺はその違約金を支払うべく、大学を中退した後の俺はなんとかして金を稼がなきゃならないという事で必死に仕事を探しまくった。しかし俺は大学中退してしまったし資格とか何も持ってないので募集条件に合う会社が全然見つからなかった。
さらに女とオフパコをしまくってたというゴシップ雑誌の記事のせいで俺に対する心証も相当悪くなっていたので、会社の面接まで進めたとしても採用して貰えない日々がずっと続いていた。
それでも何とか求人雑誌で見つけたこの工場に雇って貰えたので俺は必死に働いていたのだけど、でも毎日のように罵倒を浴びせられながら長時間働くというのは精神的にかなりキツかった。
(……俺は何も悪い事なんてしてないのに……何で俺だけこんな不幸な目に遭い続けなきゃなんねぇんだよ……)
俺はそう思いながら毎日死んだ魚のような目をしながら工場勤務に勤しんでいた。工場勤務は残業、夜勤、休日出勤も全て当たり前のようにやらされている。文字通り俺は命を削って金を稼いでいた。
しかもそんな命がけで稼いだ金はほぼ全て企業への違約金の支払いに消えていっている。俺は毎日体力も精神も大幅に削られながら身を粉にして働いているというのに……何でこんな報われねぇんだよ……。
(……って、ん?)
―― ひそひそ……
「おい、あそこで職場長に怒られてるのって元ダンジョン配信者のスザクじゃね?」
「え? あ、まじだ。あはは、あんなにも大人気配信者だったのにこんなブラック工場で働いてんのかよ。落ちぶれ方エグすぎだろ。せっかく大人気で大金持ちだったはずなのに色々と勿体ねぇ事したよなー」
「いや落ちぶれて当然だろ。ゴシップ雑誌読んだけど沢山の女の子と無理矢理ヤッてたんだろ? そんな男として最低なヤツはちゃんと社会的に制裁食らわなきゃ駄目に決まってんだろ」
「あぁ、確かにな。でも俺はスザクが女を喰いまくってた件なんかよりもルリちゃんにやらかした件の方が許せねぇわ。あはは、だからこんなにも落ちぶれたスザクが見れるのはマジでメシウマだわ」
「はは、お前はルリちゃんファンだもんなー。ってかスザクが仕事出来なさすぎて職場長に怒られてるとかマジでおもろすぎだろw 後でSNSで呟いとこうぜw」
「あはは、いいなそれ。俺も拡散するわw」
(……くそっ……何でこんなに……皆の笑われ者にならなきゃなんねぇんだよ……)
俺が職場長に怒られてる様子を見ていたバイト社員達は笑いながらそんな酷い話を始めていっていた。でもこんな酷いひそひそ話なんて俺はしょっちゅうされていた……。
俺は今までの行いがデジタルタトゥーとなってしまい色々な奴から馬鹿にされる日々を送るハメになっていたんだ。たかだかオフパコをしたり冗談を言っただけなのに何でここまで俺は酷い目に遭わなきゃなんねぇんだよ……。
それに今の俺は物凄く真面目かつ命を削ってまで一生懸命に働いているってのに……何で周りの奴らは俺の事を馬鹿にしてくるんだよ……たかだかちょっと前にオフパコをしたり面白い冗談をネットで言っただけなのに……なんでこんな馬鹿にされながら生きなきゃなんねぇんだよ……。
というか俺は何も悪い事をしてないのに……何でこんなにも不幸な目に遭わなきゃなんねぇんだよ……マジで意味がわかんねぇよ……。
「あ、そうだ。そういえばルリちゃんで思い出したけどさ、前回のルリちゃんのお祝い配信見たか?」
(……ん? 如月……ルリ……?)
俺はそんな不幸な目に遭っている状況を苦しんでいってると……俺の事を見ていたバイト社員達が急にそんな忌々しい女の名前を口に出していっていた。
「おう、見た見た! B級冒険者に昇格したお祝い配信だろ! いやー、あの日のスパチャ祭りマジで凄かったな!」
「はは、そうだよな! そんであの一日だけでルリちゃんにスパチャ一千万近く入ってたらしいぞ! その日のスパチャランキング世界一位を取ってたからな!」
(……っ!?)
「えっ!? 世界一位とかガチで凄すぎじゃん! やっぱり今はルリちゃんが一番人気の配信者なんだな! あはは、最近引退したどっかの配信者とは格が違い過ぎるなw」
「あはは、そりゃそうだろー。あそこにいる落ちぶれた元配信者とルリちゃんが同じ格な訳ねぇだろw あ、そういえば次回のルリちゃんの配信なんだけどさ……」
俺の事を見ていたバイト社員達はそれからすぐにクソブス女の話題で盛り上がり始めていった。
何だか途中で俺に対して強烈にディスって来てた気もするけど……でも俺は最初に聞こえてきた話が衝撃的過ぎてそれどころじゃなかった。
(す、スパチャで一千万……? スパチャランキングで世界一位? そ、それにB級冒険者に昇格しただと……?)
俺はそんな話を聞いて頭の中が真っ白になっていった。俺はこんな劣悪なブラック職場で命を削ってたったの数十万を稼ぐのに必至になっているってのに……あのクソブス女はたった一日配信をしただけでクソ信者共から一千万も金を巻き上げたってのかよ……。
(ふ、ふざけんなよ……あのクソブス女のせいで俺はこんな惨めな目に遭ってるっていうのに……!)
俺はこんなにも惨めな生活を送ってるのに……な、なんであのクソブス女はそんなにも楽な人生を歩んでるんだよ……?
というか本当なら俺だってそれだけのスパチャを貰える程のポテンシャルがあったはずなのに……それなのにあのクソブス女のせいで俺の人生プランは完全に潰されたんだぞ……マジでふざけんなよ……。
(……ふざけんな……ふざけんなよ……俺がこんなにも不幸な目に遭ってんのに……何であのクソブス女は楽に金を稼いで人生勝ち組になってんだよ……!)
元はと言えば俺が不幸な目に遭うハメになったのはあのクソブス女が俺の煽り合いの冗談に乗ってこなかったからだっていうのに……ふざけんな……ふざけんなよ……全部アイツのせいなのに……何でアイツだけ人生の勝ち組になってんだよ……!
(クソっ……俺がこんなにも不幸な目に遭ってるのは全部あのクソブス女……如月ルリのせいなんだよ……! 全部アイツのせいだ……全部アイツのせいなんだ!!)
アイツのせいだ。アイツのせいだ。アイツのせいだ。アイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだアイツのせいだ……!!! 全部アイツのせいなんだ……!!!
(……はは。決めたわ)
アイツ殺そう。




