70話:ルリさんと電話で話していく
とある休みの日。僕は自宅でルリさんと通話をしていた。
『改めてだけど先週はコラボ配信のために東京に来てくれて本当にありがとう! 凄く楽しいコラボ配信だったよー!』
「はい、こちらこそです! 僕もルリさんと一緒に楽しくダンジョン配信をする事が出来て本当に楽しかったです!」
そう言ってルリさんは先週の土曜日にしたコラボダンジョン配信についての感謝を伝えてきてくれた。
あのコラボ配信は冒険者の中でかなり話題になっているようで、配信終了後のアーカイブもかなり再生されている。現時点で既に100万回再生を余裕で越えていた。
「そういえば今回のコラボ配信って普段の配信よりも再生数かなり回ってますよね。だけどそんなに盛り上がるような内容だったんですかね? 僕としては普通に話をしただけのつもりだったんですけど……」
『いやいや! あんなに素晴らしい解説をしてくれたんだから滅茶苦茶盛り上がるに決まってるでしょ! バフ魔法についてあんなにも細かく解説してくれて、もう全冒険者にとって凄く助かる勉強配信になってたからね!』
「そ、そんなにですか? ま、まぁ色々な人に役立ったようなら本当に良かったです!」
どうやらルリさん曰く、僕のバフ魔法についての解説が非常に好評で再生数が回っているようだ。まぁ色々な人の役に立てたようなら僕も頑張って沢山喋ってみて本当に良かった。
『だけど私だって今までそれなりに冒険者について勉強はしてる方だと思ってたんだけど、でもまだまだ知らない事が沢山あるってわかってビックリとしたよ。ユウ君って本当に何でも知ってて凄いよねー!』
「いやいや僕は全然凄くなんてないですよ。バフ魔法とかそういう細かい仕様については僕も地元のじい様、ばあ様から教えて貰った知識なんで、正直そんな優しい先輩方が近くにいなかったら僕もそういう細かい知識は全然持ってなかったと思います。本当に沢山の先輩方に助けて貰って今の僕がある感じなんです!」
『へぇ、ユウ君の豊富な知識の数々は地元に住んでる先輩方のお力なんだね! でもそういう先人の冒険者さんの知識とか知恵って文献とか書籍にはあまりまとめられてないよね? そういえばそれって……どうしてなんだろう?』
ふとルリさんはそんな疑問を僕にぶつけてきた。今現在本屋さんとかで売られてるのは冒険者ギルドが主だって発行してる冒険者の基礎知識系の書籍系だけだ。
だから確かにルリさんが今言ったような先人の冒険者達が記した書物や書籍というのは全然出版されていないんだ。そして実はそれには深い理由があるんだ。
「あー、それはですね……実は昔の時代が原因になってるらしいです」
『昔の時代? どういう事なのかな?』
「えっと、僕も地元のギルド支部長さんに聞いただけなんで、詳しい事はわからないんですけど……僕達が生まれるよりも前の時代の冒険者達ってのは、冒険者同士でバチバチに争っていた事があったらしいんですよ」
『えっ!? 冒険者同士でバチバチな時代なんてあったの!? 冒険者ってのは老若男女問わず皆平等みたいな平和的な考え方を最初に教わった気がするんだけど……』
「はい、そうですね。今でこそ冒険者同士は凄く和やかな雰囲気がありますけど……でも一昔前まではそんな空気は全然無かったらしいです。昔の冒険者というのはダンジョンで一攫千金を狙う人が非常に多かったので、冒険者がダンジョンで得た有益な情報とか知識とかは基本的に秘匿するのが常識だったらしいんです」
『あ、なるほど。確かに有益な情報とか知識が世間に出まわっちゃったら一攫千金を狙うチャンスが思いっきり減っちゃうもんね……』
「はい。まぁでもそんなバチバチに争う時代もしばらくしたら終わりが来て、今のような冒険者たるもの全員平等で困ってる人がいたら全員で助けようっていう和やかな空気感に変わっていったんですけど……でも当時に有益情報を秘匿してた冒険者達はそんな平和な時代が到達する前に引退してしまった方が非常に多かったので、先人達が秘匿してきた知恵や知識などを書籍や文献にまとめる事が出来なかったって、支部長さんからそんな話を聞きました」
『な、なるほど……冒険者にもそんな暗黒期みたいな時代があったんだね……』
という事で僕は支部長さんに教えて貰ったそんな昔話をルリさんに伝えてみると、ルリさんのとても驚いたような声が電話口から聞こえて来た。どうやらルリさんにとってその話は初耳だったようだ。




