58話:帰宅した浅香から宅配物を受け取っていく
ルリさんのコーチングが終わってから僕はリビングでお茶を飲みながらゆっくりとしていた。
―― ガチャ
「ただいまー!」
すると玄関の方から浅香の声が聞こえてきた。どうやら今日の部活が終わって帰ってきたようだ。そのまま浅香はトタトタと早足気味にリビングの方へ向かってきた。
「あ、おかえり、浅香。実はちょっと浅香に伝えたい事が……って、何それ?」
「あぁ、えっとね、ちょうど今玄関前で宅急便の人とバッタリ会って、そのまま沢城家への宅配物を受け取ってきたのよ」
「あぁ、なるほどね」
浅香が大きな段ボールの箱を胸に抱えてたので、僕は何だろうと思いながらそう尋ねていってみた。するとその箱はどうやら沢城家へ届いた荷物のようだ。
「それで宛名なんだけど、“沢城悠”って書いてあるからお兄ちゃん宛てだよ。何かネット通販で買い物でもしたの?」
「え? 僕宛てなの? いや、僕は何も買ってないんだけどなぁ……」
「ふぅん? そうなんだ。ま、いいや。とりあえずお兄ちゃんにこれ渡すね」
「う、うん。ありがとう」
そう言って浅香からその段ボールを受け取っていった。何だかちょっと重いような気もするな。
「え、えっと、一体何が入ってるんだろう? 最近ネット通販は利用してないんだけどな……」
「うーん、何だろうね? まぁとりあえず開けてみたらすぐにわかるんじゃない?」
「う、うん、そうだね。それじゃあさっさと開けていってみるよ……って、わわっ!?」
「え? って、わぁ! こ、これはあの有名な……銀のトロフィーじゃん!」
段ボールの箱の中身を開けていくと、その中からは銀色に輝く立派なトロフィーが出てきた。
これは僕が利用している動画・配信サイトでチャンネル登録者数が10万人を突破すると運営からお祝いとして送られるモノだ。ちなみに100万人を突破すると金色のトロフィーが貰えるらしい。
「す、凄いねお兄ちゃん! このトロフィーが送られてきたって事はお兄ちゃんも立派なライバーだって運営さんから認められたって事だね!」
「う、うん、そうだよね……僕がこんな立派なトロフィーが貰えるなんて……うぅ……夢にも思わなかったなぁ……ぐすっ……」
僕はそう言いながらちょっとだけ感極まって涙を流していった。
だって数年前から始めた僕のチャンネルはずっと過疎状態だったのに、それが今では沢山の人に見て貰えるようになって、チャンネル登録も沢山して貰えて、そしてついにはこんな立派な銀色のトロフィーまで運営さんから頂ける事になるなんて……こんなの凄く嬉しい事だよ。
「あはは、全くもうー、お兄ちゃんはいつまで経っても涙もろいんだからなぁ。でもまだまだこれからだよ。ここからはさらに夢を大きくしていってさ、今度は金色のトロフィーが貰えるようにこれからも頑張りなよ! 私も出来る事は何でも手伝うし、お兄ちゃんの事は一生懸命に応援してるからさ!」
「浅香……うん、ありがとう。浅香がそう言ってくれると僕も心強いよ。あ、それじゃあこのトロフィーは天国にいるお爺ちゃんにも報告しなきゃだよね。ちょっと報告してくる!」
「うん、わかったー」
そう言って僕はすぐに仏壇の方に移動していった。そしてお爺ちゃんの写真の前に今回貰った立派な銀のトロフィーを置いていき、今までの事をしっかりと報告していった。
◇◇◇◇
お爺ちゃんへの報告を済ませた後。
「あ、そうだ。そういえばさ……」
「うん? どうしたの浅香?」
リビングの方に戻ると浅香は僕に向かってこんな事を尋ねてきた。
「うん、そういえばお兄ちゃんってつい最近までチャンネル登録者数100人くらいだったでしょ? それで今はチャンネル登録者数が20万人まで到達したじゃん? それじゃあもしかしたらさ……今のお兄ちゃんのチャンネルって収益化が出来るようになってるんじゃないのかな?」
「収益化? あ、そう言われてみれば……」
僕が利用している動画サイトではチャンネル登録者数が1000人以上いると収益化を行う事が出来るようになる。
それで収益化が出来るようになると、動画中に流れる広告CMから利益を貰えるようになったり、配信中に投げ銭が貰えるようになるんだ。
今まで僕はチャンネル登録者数が100人しかいなかったから、そういう収益化に関する設定は一切出来なかったんだけど、でも今の僕なら収益化をする事が可能になったという事だ。
「確かにそう言われてみれば、いつの間にか僕も収益化が出来るようになったんだね。でも収益化した所で僕のチャンネルなんかがお金をちゃんと貰えるのかな?」
「あ、それじゃあちょっと私の方で軽く調べてみるね。えぇっと……お兄ちゃんがいつも作る10分以上の動画なら大体1再生0.4円~0.7円くらい貰えるようになるらしいよ。それでお兄ちゃんが二週間前に投稿した動画の再生回数は現時点で25万回以上再生されてるから……えっ!? そ、それじゃあこの一本の動画だけで安く見積もっても10万円以上の収益は手に入ってたって事なの!?」
「え……えぇっ!? あの動画一本だけでそんな利益になる可能性があったの!?」
「う、うん、そうらしいよ。という事はお兄ちゃんのチャンネルは結構な収益に繋がると思うし、これを機にお兄ちゃんもちゃんと動画の収益化とか投げ銭を貰えるように設定したらどうかな?」
「う、うーん、なるほどね……」
浅香は具体的な収益額を示してきて、僕に収益化の提案をしてきてくれた。確かに動画を投稿するだけでそれだけの収益が貰えるのはとても魅力的な話だと思う。でも……。
「うーん、それは凄く魅力的な提案だけど……でも収益化はこれからもしないでおいとくよ」
「え? いいの?」
「うん。僕が元々動画配信とか動画投稿を始めた理由はさ、僕の持ってる冒険者の知識を視聴者の皆に伝えるために始めたんだよ。だから僕はお金目的で配信とか動画投稿を始めたわけじゃないんだ。それに……」
「それに?」
「それにさ、動画投稿をしてこんなにも沢山のお金が貰えるとわかったら、これからは視聴者のためになる動画を作るんじゃなくて……ただ再生数が伸ばす事を優先にした動画作りになっちゃいそうでちょっと怖いんだ。という事でさ……僕はこれからも動画活動は収益なんて気にせず冒険者の皆に役立つ動画をこれからも投稿していくよ」
思った以上にお金が稼げると知ってしまうと、僕みたいな子供だとお金に目が眩んでしまって、過激な動画とか変な動画を作るようになってしまうかもしれないしね……。
そんな不安を感じたので、僕はそういう所をしっかりと悩んだ末に動画の収益化はしない方針で行くと浅香に伝えていった。
すると浅香はそんな僕の言葉を聞いて優しく微笑みながらこう返事を返してきてくれた。
「そっかそっかー。うん、お兄ちゃんがそう言うならわかったよ。ふふ、それにしても……何だかすっごくお兄ちゃんっぽい理由だったなー」
「え? だ、駄目だったかな?」
「ううん、全然駄目なんかじゃないよ。むしろ最初から一貫して視聴者さんの役に立ちたいって思ってる所とかすっごくお兄ちゃんらしくて立派だと思うよ。私はそういう優しい心を持ってるお兄ちゃんの事がすっごく大好きだからね」
「そ、そっか。うん、まぁそう言って貰えるなら良かったよ」
「うん」
という事で僕はしっかりと悩みぬいた末に、これからも収益化はせずに自分のやりたいように動画活動をしていく事を決めていった。
(だけど……広告収入って思っていた以上に儲かるものなんだなぁ)
そうなると今まで有名だった配信者や動画投稿者は皆凄い沢山のお金を稼いでいたって事になるよね。
でも炎上とかして人気が滅茶苦茶に落ちていってしまったら……再生数や投げ銭が激減しちゃうよね……。
(そうなると本業でそういうインフルエンサー的なお仕事をしてる人は本当に大変な目に遭っちゃうって事だよね?)
そう考えるとスザクさんって……これからの収益は大丈夫なのかな?




