52話:ルリさんとネット通話をしながらコーチングをしていく
それから数日が過ぎた頃。
「そこ! 左から攻撃が来ますよ!」
『グギャ、グギャアアア!』
『うん、わかった! それなら避けるならこっちだね!』
今日はネット通話を繋げながらルリさんのコーチングを行っていた。今ルリさんはダンジョンに入って中級モンスターのホフゴブリンと戦っている最中だ。
『グ、グギャア!!』
『っ……そこだぁああ!』
―― ザシュッ!
『グギャッ!? グギャアアアッ……!?』
―― ドサッ……
ホフゴブリンの攻撃を全て完璧に避けきり、そのまま手に持っていた片手剣を使って見事にホフゴブリンを切り伏せていった。
『ふぅ……どうだったかな、ユウ君? 私の戦闘は大丈夫だったかな?』
「はい、戦い方に関しては何も言う事は無いです。それにしてもルリさんは敵の攻撃を見切る動体視力も凄いですし、相手を倒しきるための腕力や脚力も申し分ないです! 本当にルリさんは素晴らしい身体能力を持ってますね!」
『あはは、そう言ってくれてありがとね! やっぱり冒険者にとって身体を鍛えるのが一番大事だと思ってるからさ、だから私は出来る限り毎日ジムに通ってトレーニングをしてるんだ。その成果がちゃんと出てくれて嬉しい限りだよー』
「あぁ、なるほど! ルリさんは毎日ジムに通ってるんですね! だからそんなに身体を沢山動かせるんですね! 凄い納得しました!」
『うん、そうなんだー。だけど毎日のようにジムでトレーニングしてるからさぁ……私って結構全身に筋肉が付いちゃってるんだよねー……』
「へぇ、そうなんですか? でも実際にお会いした時は全然そんな感じには見えなかったですよ。凄くスタイルの良いモデルさんみたいな女性だなって思いましたよ」
『あはは、そりゃあ普段から長袖の服とか厚手のタイツを着用してあまり素肌を露出しないようにしてるからね。でも実際にはお腹周りにはうっすらと筋肉が付いちゃってるし、太ももとか足にも筋肉が付いちゃってるから全然スレンダー体型じゃないよ。私は着瘦せするタイプなだけなんだ』
「あ、なるほど。それじゃあルリさんがいつもシンプルな冒険者服を着てた理由って、自分の素肌をあまり人に見せないようにしたかったからなんですね」
僕が以前に疑問に思っていた事がようやく解決した。女性用の冒険者服って可愛い服や綺麗な服、蠱惑的な服など沢山の種類があるのに、ルリさんはいつもシンプルな服ばかりを着ている事にずっと疑問に思っていた。
でもその理由はどうやら自分の素肌をあまり露出しないようにするために、あえてそういうシンプルな服を着ていたようだ。
『うん、そうなのよ。ほら、やっぱり全体的にゴツゴツとしちゃってる女の子って男の子的にも嫌でしょ? だから御見苦しい身体付きとか素肌とかを見せないためにわざと長めの服とかを着てるんだー』
「なるほど、そうだったんですね。でも僕は身体がゴツゴツしてる女の子が嫌だなんて思った事は一度もないですよ?」
『え? そうなの?』
「はい、そうですよ。というか全身ゴツゴツとしているのはむしろ今まで頑張って身体を鍛えてきた証拠ですし、僕としては凄く立派だなっていう思いの方が強いですよ!」
『そ、そっか。うん、そう言ってくれるのは嬉しいなぁ……』
「はい。それにルリさんは病気の弟さんを助けるために冒険者になって、そして冒険者として強くなるために毎日ジムに通って身体を鍛えてる訳ですよね? 弟さんのために毎日ジムで身体を鍛えてるなんてとってもカッコ良い理由じゃないですか! だからルリさんの身体付きを見て嫌だなって思う人は絶対に誰もいませんよー!」
『ユウ君……』
僕は全力を込めてそう言っていくと、ルリさんは凄く驚いた表情をし始めていった。だけどルリさんはすぐにふふっと笑みを浮かべながらこう言ってきた。
『なるほどねー、ユウ君から見て私はカッコ良い女の子だったのかぁ。でもそこはルリちゃん的には“カッコ良い女の子”じゃなくて“可愛い女の子”だって言って欲しかったなぁー』
「え? あ、す、すいません! 確かにそうですよね! 女の子にカッコ良いって言うなんてデリカシー全然無いですよね! 女子心が全然わかってなくてすいません……!」
『あはは、嘘嘘! 全然そんな事気にしてないよー! むしろユウ君がそんな事を言ってくれて凄く嬉しかったよ。ふふ、だから……本当にありがとね、ユウ君』
「えっ? う……あ、は、はい……」
そう言ってルリさんは僕に向かって優しく微笑みかけてきてくれた。
そしてその微笑みを見て僕はふいにドキっとしてしまい、ちょっとだけ顔を赤くしていってしまった。




