49話:浅香と一緒にダンジョンに行く
とある休みの夕方。
「な、なんだこの記事?」
僕は自分の部屋でノンビリとしながらスマホでニュースを眺めていた。すると急にトレンドニュースでこんな記事が上がってきた。
『緊急ニュース!人気ダンジョンライバーのスザク氏が同じく人気ダンジョンライバーの如月ルリ氏へ誹謗中傷か!?』
そんなタイトルのニュース記事がトレンドに上がっていた。僕は気になってそのニュース記事の内容をざっと読んでいってみた。
どうやら以前に発生したルリさんへの動画コメントの荒らしは、スザクさんが元凶だったという事が判明したようだ。
そしてその後のルリさんへの謝罪対応などが悪かったようで炎上していってるらしい。そして今現在は二人が所属している事務所同士で今後の対応についての協議が行われている最中との事だ。
「え、えぇっと、それじゃあ僕のチャンネルを荒らしていたのって……スザクさんだったって事なのかな?」
もしもそうだとしたら何だか凄く悲しいな。だってそこまでスザクさんに嫌われてたって事だもんね……。
まぁでも今の僕にはこのニュースが本当かどうかなんてわからないし、僕に何かしら関わりがあればファーストライブの社長さんから連絡があるはずだろうから、それまでは気にしないでも良いかな。
まぁ正直僕の荒らしの件なんてどうでも良いので、ルリさんや社長さん達にトラブルとか何も無く円満に解決してくれるように祈っておこう。
―― コンコン
「うん?」
『あ、お兄ちゃん? ダンジョンに行く準備出来たよー』
そんな考え事をしていると僕の部屋をノックする音が聞こえてきた。ノックの相手は妹の浅香だった。
実は今日はこの後浅香と二人でダンジョンに行く事になっていたんだ。久々に浅香にダンジョンに誘われたので僕は嬉しくてすぐにオッケーを出したんだ。
「うん、わかった。僕もすぐに準備をするから後1~2分だけ待ってて」
『わかった。それじゃあ玄関で待ってるから早く来てねー』
「うん、わかった」
という事で僕は用意していたダンジョン用のポーチを装備していき、椅子にかけていたレザーのジャケットを羽織ってから部屋を出て玄関へと向かって行った。
◇◇◇◇
それから程なくして。僕は浅香と一緒に地元のダンジョンに到着した。
「そういえばお兄ちゃんと一緒にダンジョンに行くのって久々だよねー。昔は毎日のようにお兄ちゃんの後をついて一緒にダンジョンの中に入ってたのにね」
「あぁ、うん、そうだったね。あはは、何だか懐かしい思い出だね」
実は妹の浅香も僕と同じで小学生の頃に冒険者のライセンスを取得していたんだ。それで小学生の浅香と一緒にパーティを組んでダンジョンの中で薬草を拾ったり鉱石を採掘したりとかやったりした事もあった。
だけど浅香は中学生になってからは部活とかで友達と遊んだりとかで忙しくなってしまったから、それ以来はあんまり一緒にダンジョンに行く事はなくなっていた。
なので今日は久々に浅香と一緒にダンジョンに来れたので、僕の内心はとても嬉しい気持ちになっていた。やっぱりソロでダンジョンに行くよりも、こうやって仲の良い人と一緒にダンジョンに行く方が遥かに楽しいしね。
「あ、それで? 今日は何をしにダンジョンに行こうって誘ってきてくれたの?」
「うん、実はちょっと黒煉石が欲しいんだ。だから今日は一緒に黒煉石の採掘して欲しいなって」
「え? 黒煉石?」
黒煉石とはレア鉱石の一つだ。非常に美しい漆黒の鉱石で、さらに非常に硬いという特徴も持つ鉱石だ。
用途に関しては様々な加工を施されて工芸品や武器、防具に使われる事が多い。あと最近だとその漆黒が美しいという事でペンダントやイヤリング、指輪などのアクセサリーにされる事も非常に多い。
「えっと、まぁ採掘を手伝うのは構わないんだけど、何で黒煉石が欲しいの? 武器とか工芸品とかに使う鉱石だよ? 黒煉石を使って何か工芸品でも作るの?」
「うん、そうそう。ほら、もうすぐお婆ちゃんの誕生日でしょ? 今年の誕生日にはお婆ちゃんに手作りのアクセサリーを作ってあげようって思ってね。それでその材料に黒煉石が欲しいんだ。お婆ちゃんって黒色似合いそうだから黒煉石がピッタリかなーって思ってね」
「あぁ、なるほどね。確かに浅香って手先が器用だしそういう細かいアクセサリーとかも作れるのか」
「うん、そういう事だよ。そんなわけでお兄ちゃんには是非とも黒煉石の採掘を手伝って欲しいんだけど、良いかな?」
「うん、そんなの当然手伝うに決まってるよ! だけど黒煉石って凄いレア鉱石だから、ダンジョンの最深部まで行かないと採掘出来ないんだよね……流石に今から最深部まで行くとしたら夜遅くになっちゃうから、また別日にダンジョン探索し直した方が良いんじゃないかな? 家に帰るのが夜遅くなったらお婆ちゃんが心配しちゃうしさ」
「ふふ、それなら大丈夫だよー!」
僕がそう言っていくと浅香はふふっと若干ドヤ顔を決めながら大丈夫だと言ってきた。
「? 大丈夫ってどういう事?」
「ふふ、実はつい最近に物凄く便利な魔法を取得出来たんだ! だからその魔法を使えば大丈夫だよ」
「凄く便利な魔法? それって一体どんな魔法なの?」
「うん、それはこれだよ。闇魔法・転移穴生成」
「え……って、わわ!?」
―― ブォン……!
浅香がそう唱えると地面に黒い穴が発生しだした。これは闇属性の上級魔法で、地面に転移穴を生み出す事が出来る魔法だ。
転移する場所はダンジョン内なら何処でも指定出来るので非常に便利な魔法だ。だからこの魔法を使えば一瞬でダンジョンの最深部に向かう事が出来る。
だけど魔力消費量が滅茶苦茶高いので、連発で使用する事は出来ないし、そもそも上級魔法なので習得するのも凄く大変な魔法だ。もちろん僕はこの転移魔法は使えない。
「す、すごいね、浅香! いつの間にこんな上級魔法を覚えたの?」
「いやー、実は毎日家とか庭とか畑の掃除する時にいつも闇初級魔法の闇穴生成を発動しててさ、その穴の中に毎日ゴミ捨てしてたんだけどね、そしたらいつの間にか上級魔法の転移穴生成が使えるようになってたんだ。ふふ、お兄ちゃん的に言えば継続は力なりってやつだねー」
「な、なるほどー、そういう事だったんだね」
浅香は毎日家とかの掃除をする時に異次元の穴を生み出す闇穴生成を使って、それをゴミ箱代わりにしていたようだ。
そして浅香は魔法を毎日使っていた事が修練となっていつの間にか上級魔法のワープホールが使えるようになったという事か。
「なるほどね。確かに日常生活に魔法の修行を組み込むのは中々に理にかなってるよね。うんうん、やっぱり浅香って冒険者としての才能あるよねー」
「ふふん、そりゃあ私は優秀な冒険者の妹だからねー?」
「う……い、いきなりそう言われるとビックリしちゃうじゃん。ま、まぁお世辞でもそう言ってくれるのは嬉しいけどさ。って、よく考えたら浅香って今使える魔法ほぼ全部補助系の魔法になってる気がするんだけどそれでも良いの? せっかく冒険者になったんだしもっとカッコ良い攻撃技とか使えた方が楽しいかもよ?」
「んー? まぁそうだねぇ……確かに私は補助魔法しか使えないけど、でも別にそれで良いよ。だって私、お兄ちゃんと一緒の時にしかダンジョンに行かないしね。ふふ、だからダンジョン内では私の事はちゃんとお兄ちゃんが守ってよね?」
「え? って、わわっ!」
―― ぎゅっ……
浅香はそう言って満面の笑みを浮かべながら僕の腕に身体をぎゅっとくっ付けてきた。
「も、もう、浅香はいつまで経っても甘えん坊だね。うん、もちろん浅香の事は僕が全力で守るよ。だって僕は浅香のお兄ちゃんだしね!」
「ふふ、凄く頼りにしてるよ、お兄ちゃん。よし、それじゃあ陽が遅くなるとお婆ちゃんも心配するだろうし、さくっと最深部で黒煉石を採掘しに行こう!」
「うん、わかった。それじゃあ行こうか」
そう言って僕達は地面に生成されたワープホールに触れていき、そのままダンジョンの最深部へとワープしていった。




