47話:事務所に行ってみると何故か謝罪を強いられる(スザク視点)
それから程なくして。
俺はのんびりと歩きながら所属するライバー事務所に到着していった。そしてそのままさっさと事務所の中に入っていくとそこには社長が1人で待っていた。
「社長ー、お疲れーっす」
「……あぁ、お疲れ様。スザク」
「うん、どうしたんだよ? そんな暗いテンションでさ? やっぱり怒ってんのか? あはは、だから明日からちゃんと配信再開するから安心してくれよなー」
俺は暗いテンションの社長に向かって笑いながらそう言っていった。
そしてそのまま事務所に備え付けられてるソファにドサっと座っていきながら続けて社長にこう言っていった。
「それで社長? 俺に用事って何なんだよ? 俺はこの後オフパコに行くんだからさっさと用件を済ませてくれよなー」
「……あぁ、それじゃあ早速だがスザクに聞きたい話がある。お前……この事務所に置かれてる備品のパソコンとタブレットを使って匿名掲示板に書きこんだりしたか?」
「え?」
急に社長は俺に向かってそんな事を尋ねてきた。
この事務所には備品のパソコンやタブレットが複数台置かれている。それは事務所で動画編集や動画チェックをしたり、ブログやSNSなどの更新をしたい人達のために所属ライバーなら誰でも使っても良いとされてるパソコンやタブレットだ。
そんな事務所のパソコンやタブレットを使って匿名掲示板に何か書きこんだりしてないかと、社長はそんな事を俺に尋ねて来たんだ。
(匿名掲示板に書きこんだりしてないかって……それはまぁ……)
俺は心当たりがあったものの、とりあえず俺は何もしてないと嘘をつく事にした。何だか社長の様子からしてヤバそうな雰囲気もあるしな……。
「い、いや、俺は別に何もしてないけど? ってか、何でいきなりそんな事を聞いてくるんだよ?」
「……あぁ、実はつい先日にファーストライブの社長から連絡が来たんだ。この事務所が所持しているパソコンやタブレットから如月ルリ氏への誹謗中傷めいたコメントが書きこまれた形跡があるってな」
「え……って、はぁっ!? 如月ルリへの誹謗中傷の書きこみ!? い、いや、それはその……って、何でそんな事がファーストライブにわかるんだよ!?」
俺はそんな事を言われて滅茶苦茶に驚愕した。だって俺の心当たりはまさにそれだったからだ。俺は確かにこの事務所のパソコンとかタブレットを複数台使って匿名掲示板に書き込みまくった事があったんだ。
で、でも何でその事がファーストライブにバレてるんだよ!? 俺は誰にもそんな事言ってないんだぞ!? マジで意味がわかんねぇよ!
「……はぁ、今時はそんなのは調査されたらすぐにバレるものなんだよ。それで最初の話に戻るんだが、匿名掲示板に如月ルリ氏の誹謗中傷めいたコメントを書いていたのは……スザク、お前だな?」
「は、はぁ!? い、いや、俺はそんな事してねぇって! ってかそんな証拠あるのかよ?」
「証拠か? そんなの当然あるに決まってるだろ。この事務所には監視カメラが設置されてるんだぞ。そして如月ルリ氏への誹謗中傷めいたコメントが匿名掲示板に書きこまれた時間帯に、この事務所のパソコンやタブレットを起動してたのはお前だけなんだよ」
「……え? こ、この事務所って監視カメラなんて設置されてんの?」
「当たり前だろ。この事務所には高価な物や個人情報が詰まった大事なファイルなどが保管されてるんだから監視カメラは設置してるに決まってる。だが防犯目的で設置した監視カメラが違う用途で役立つ事になるとは思わなかったがな。はぁ……」
社長は深くため息をつきながらそんな事を言ってきた。
「い、いや、ちょっと待ってくれよ……匿名掲示板に書きこみがあった時間帯に俺が事務所のパソコンとかタブレットを触ってたからといって、それで俺が匿名掲示板に書き込んでたかどうかなんてわからないだろ? ってか俺はその日は動画サイトで自分の配信アーカイブを見てただけだからな! そもそも匿名掲示板なんて俺は今まで一度も見た事なんてないからな!」
「そう弁明をするんだったらせめてちゃんとネットの履歴くらい消せ。お前が使ってたパソコンとタブレットのネット履歴に匿名掲示板に行ってた痕跡が全部に残ってたんだよ。お前が匿名掲示板を見てた証拠はしっかりと残ってるんだからさっさと認めてくれ。はぁ、全く……」
「えっ? ネ、ネットの履歴って……そんな履歴なんて残るものなのか?」
俺はそんな事知らなかったのでかなり驚いていった。すると社長はまた深いため息をついていった。
「はぁ、お前はそんな事も知らないなんて……まぁでも今回の場合はお前がネット履歴について知らなかったおかげである意味助かったよ。これなら大事にならずに済みそうだ……」
「は、はぁ? ど、どういう事だよ?」
「あぁ、ファーストライブの社長さんから二点ほど要求されたんだ。誹謗中傷めいたコメントをした者からの誠心誠意を持った謝罪。それと二度とこんな事を引き起こさないために事務所側の指導の徹底だ。その二点を早急に対応してくれればファーストライブさんは我々を誹謗中傷で訴えたりはせずに今回は水に流すと言ってくれているんだ」
「は、はぁ……って、えっ? 俺が謝らないといけないのかよ!?」
「当たり前だろ! お前が悪い事をしたんだからファーストライブさんに謝るのは当然の事だ! それともお前はまだ掲示板に書きこんだのは俺じゃないって言うのか? そしたらここからは犯人探しのために警察が介入する事になるかもしれないんだぞ? そんな大事になってもお前は良いのか?」
「う……さ、流石にそれは困るけど……」
「そうだろ? だからさっさと非を認めて誠心誠意を込めて謝罪をするんだ。そうすれば今回は全て丸く収めてくれるってファーストライブさんは言ってるんだ。だからわかったな?」
「あぁ、わかったよ」
俺は社長のその言葉を聞いて頷きながら了承していった。まぁ謝るだけで許されるんだったらそれに越したことはないしな。
「あ、でもさ、謝罪って具体的にどうすればいいんだよ? 謝罪動画の投稿するとか、謝罪コメントをSNSに投稿するとかそういう事か?」
「もちろんそれもだし、今後近い内に私と一緒にファーストライブに行って謝罪もしに行くぞ。ちゃんと菓子折りを持って向こうのお偉いさん方に誠心誠意を込めて謝りに行くんだぞ」
「えぇ……メンドクサイなぁ……」
「メンドクサイって、元はと言えばお前が振りまいた種だろ。だからちゃんと今回の件はしっかりと反省しろ。わかったか?」
「はいはい、わかったよ……」
「よし、それじゃあ私からの話はこれで以上だ。この後私は外部で打ち合わせがあるからもう事務所を出るぞ。スザクはその間に謝罪動画とコメントを作っておく事。あ、でも投稿する前に一旦私にチェックさせるんだぞ? 何か変なコメントを言って炎上でもしたら大変だからな」
「はいはい、わかったよ。社長は心配しなくて良いからさっさと外部の打ち合わせに行って来いよ」
「あぁ、わかった。それじゃあまた後で連絡する」
「あぁ、そんじゃあな」
そう言って社長は事務所から出て行った。こうして事務所には俺一人だけになった。俺は一人になった事務所でスマホを取り出しながらこう呟いていった。
「はは、社長は心配症だなー。たかだか謝罪するだけで炎上なんてするわけねぇだろw」
俺はそう言いながら一人で笑っていった。そもそも炎上なんてするのはネットの事が全然わかってない情弱だけだ。でも俺はそんな情弱共とは全然違うからな。だから俺が炎上する事なんて絶対に無いのさ。
「ってかそもそも誠心誠意を込めて謝るだけの動画なんて誰も見たくねぇよな? 謝罪動画だってちゃんとエンタメに昇華させなきゃ誰も喜ばねぇに決まってるよな?」
俺はスマホを開きながらそんな事を思っていった。
だってそもそも動画投稿は視聴者を楽しませるためにするものだ。それなのに誠心誠意を込めて謝罪する動画を投稿する意味なんて何もないよな?
というかむしろ今回の騒動だってエンタメに昇華させた方がお互いの事務所的にもウィンウィンじゃないのか?
俺がガチの謝罪動画を出してファーストライブとの険悪な雰囲気を出してしまうよりも、エンタメを意識した謝罪動画を投稿してお互いにエンタメ喧嘩をしてる感じにしていった方が視聴者側からしても見てて楽しいだろ?
だから例えばだけど俺がエンタメに寄せた面白い謝罪動画を投稿していくとするじゃん。そしたら如月ルリもエンタメ煽りとかで俺に返してくるよな?
そんな感じでお互いにエンタメの煽り合い動画で出し合っていって……それで最終的に如月ルリとコラボしてエンタメ喧嘩動画を投稿するってのが一番最高のゴール地点じゃねぇかな!? いやこれめっちゃ面白い事になるだろ!!
「よし、それじゃあ今回はエンタメに昇華させた最高に面白い謝罪動画を投稿するしかないな!」
って事で俺は早速そんなエンタメに寄せた謝罪動画を撮っていき……そしてそのままそれを動画サイトに投稿していった。




