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45話:ルリさんとダンジョン内で話していく

 ルリさんとアストルフォの中を探索してから二時間程が経過した。


「ふぅ、結構長い間探索しましたし、そろそろ休憩にしましょうか?」

「そうだね。流石にちょっと疲れちゃったし休憩にしよっか。それじゃあそこの岩場に座って少し休憩しようか?」

「はい、わかりました」


 そう言って僕達は近くの岩場に座りながら休憩を始めていった。


「それにしてもS級冒険者のユウ君にこんなにも長時間コーチングをして貰えてるなんて凄く貴重な経験を味わえてるよ! 本当にありがとうね!」

「いやいや、僕のコーチングなんて全然大した事ないですよ。というか一緒に探索していて改めて思ったんですけど、ルリさんは冒険者としての基礎力が凄く高いですよね! 冒険者を初めてたったの一年半近くでここまで強くなれるなんて本当に凄い事ですよ!」

「えへへ、そうかな? そう言ってくれると自信にも繋がるから嬉しいよ。本当にありがとね、ユウ君」


 僕がそう言うとルリさんは嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべていってくれた。


 という事で今日はアストルフォの低階層を探索しつつ、僕はルリさんに冒険者の基礎となるマッピングや採取、戦闘などのコーチングをしっかりと行っていた。


 まぁでもルリさんは冒険者としての基礎力がしっかりと出来上がっていたので、今日の僕は細かな部分の指摘をルリさんにするだけだった。


(だけどここまで基礎力がしっかりと出来上がっているなんて……きっとルリさんは今まで配信外で訓練とか修行を頑張ってきたんだろうなぁ)


 嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべてるルリさんの事を見ながら僕はしみじみとそんな事を思っていった。やっぱりルリさんは凄い努力家なんだろうなぁ。


「ふふ、って、あ。ユウ君! あの壁の上に生えてる植物をちょっと見てみてよ! あれって月光草だよね?」

「え? あぁ、はい、そうですね! あんな所にレアな薬草が生えてるなんて珍しいですね」


 ルリさんが指差した方向を見ていくと、確かにそこには月光草と呼ばれる薬草が生えていた。


 月光草は体力と魔力を両方回復する事が出来る上位種の薬草だ。あまり市場に出回らないのでレアな薬草でもある。


 まぁでも最近の人は薬草類に頼らずポーション薬を使用するので、月光草の事を知らない人も結構多いんだけどね。


 だけどルリさんはちゃんとあの薬草が月光草だと判断している辺り、本当に色々な分野の勉強を頑張っているという事がよくわかる。


「凄いなー! 私、天然物の月光草なんて初めて見たよ!」

「僕も天然物の月光草を見るのはかなり久しぶりですよ。月光草って出現確率かなり低いですもんね。でもあんな高い所に生えてたら流石に手に入れるのは難しそうですね……」

「あぁ、それなら大丈夫だよユウ君!」

「え? どういう事ですか? ルリさん?」

「ふふ、それはね……こういう事だよ! 飛翔魔法(フライング・エア)!」

「え? って、うわっ!」


―― ブワッ!


 ルリさんは岩場から立ち上がってそう唱えていった。するとルリさんは空高く舞い上がっていき、そのまま壁の上に生えていた月光草を手で取った。


 月光草を手に入れたルリさんはそのまま地面にゆっくりと着地していき、僕に今手に入れた月光草を見してきてくれた。


「はい、無事に取ってこれたよ! って、あれ、どうしたのユウ君? そんなボーっとした顔をしちゃって? あ、もしかしてさぁ……私のスカートの中でもコッソリと覗いてたのかな??」

「え……って、えぇっ!?」

「あははー、やっぱりユウ君も男の子だもんねー! ユウ君はえっちぃ事を考えてたんだなー!」

「い、いや、ち、違います! そ、そんな僕は別にルリさんのスカートの中を覗いてたわけじゃ……!」

「あはは、嘘嘘! 冗談だよ! ユウ君がそんなえっちぃ事を考えてた訳じゃないって信じてるよ。だってユウ君は凄く優しくて紳士的な男の子だもんね!」


 僕はルリさんにえっちぃ男だって思われたくなくて必死に弁明しようと思ったんだけど……でもどうやらそれはルリさんの冗談だったようだ。


 ルリさんの冗談だとわかって僕はホッとしつつも寿命が数日縮んだ感じもしていった。


「も、もう、ルリさんの冗談は心臓に悪いですよ! ルリさんに嫌われたらどうしようって凄く焦りましたよ!」

「あはは、そんなの心配しなくて大丈夫だよー! だって私はどんな事があってもユウ君の事は嫌いになんてならないからさ!」

「えっ? あ、う……」


 ルリさんは屈託のない笑みを浮かべながら僕に向かってそんな事を言ってきてくれた。


 そういう事じゃないのはもちろんわかってるんだけど、でも何だか急にルリさんに告白されたみたいな感じがして僕はちょっとだけ顔を赤くしていってしまった。


「あはは。まぁそんなわけでさ、結局ユウ君がボーっとした顔をしてた理由は何だったの? もしかして何か気になる所でもあったのかな?」

「え? あ、あぁ、はい! い、いや、ルリさんって飛翔魔法を使えるんですね! それがとても凄いなと思ってついビックリとしてしまったんです。確か飛翔魔法って風属性の上位魔法の一つですよね?」

「あぁ、うん、そうだよ! ずっと風魔法の訓練してたら最近になって飛翔魔法が使えるようになったんだ! そしてこれが今私が唯一使える上位魔法なんだ!」

「へぇ、そうなんですね! あ、それじゃあルリさんは風属性の魔法を愛用している感じなんですかね?」


 そういえば以前のヤングワイバーン戦でもルリさんは風属性の魔法で攻撃をしていた気がする。もしかしたらルリさんは風属性の魔法を優先的に修行しているのかな?


「うん、そうだよ! ふふ、実はねー、私の弟は子供の頃から冒険者になりたいって夢を持っているんだ! だからいつか弟の病気が治ってさ、それで一緒に冒険出来るようになったら弟に沢山バフをかけてあげようと思って風属性の魔法の訓練を頑張ってるんだ! ほら、風属性の魔法って味方へのバフ系が多い特徴があるでしょ?」

「あぁ、確かに風属性には支援系の魔法が多いですね。なるほど、そういう理由でルリさんは風属性の訓練をされてたんですね。それに弟さんも冒険者になりたいなんて凄く立派な夢を持ってるんですね。早くその夢が叶うと良いですね!」

「うん、そうなんだよ! 私にとっても弟と一緒に冒険に出かけるのが今の一番の夢なんだ! だからそのためにもこれからも沢山風属性の魔法を覚えて行かなきゃだね!」


 ルリさんは楽しそうな表情をしながらそんな事を語ってきてくれた。ルリさんにとって病気の弟さんの事をとても大事に思っているのが凄く伝わってくるし、そんな弟さんと一緒に冒険をしたいというのも本心から来ているのが十分伝わってきた。


「はい、それじゃあ早く弟さんが元気になって、それでルリさんと一緒に冒険が出来る日が来るように僕も全力で祈ってますね!」

「うん、ありがとうユウ君! あ、そうだ! そういえばさ、前に私がヤングワイバーンに襲われた時があったでしょ? ユウ君はあの日に私が配信してたのを覚えてる?」

「それって僕がルリさんとアストルフォで会った日の事ですよね? はい、もちろん覚えてますけど、それがどうしたんですか?」

「うん、実はその時の配信を弟も見てたんだけどね、そしたらなんと弟がねぇ……ふふ、なんとユウ君の大ファンになっちゃったんだ!」

「え? ぼ、僕のファンですか?」

「うん、そうそう! 私を助けてくれた事もあるし、ヤングワイバーンを一瞬で倒した事にも凄く感動してさ、それですぐにユウ君の大ファンになっちゃったんだよ! ユウ君のチャンネルをすぐに登録してたし、病気が治ったらすぐに冒険者になるためにも、それまではユウ君のチャンネルを見てしっかりと勉強をするって張り切ってる所なんだ!」

「へ、へぇ、そうなんですね。なんだかファンがいるのって初めての感覚なんで……はは、何だか凄く嬉しいです!」


 僕にファンがいるなんて何だかちょっとこそばゆい感じもしたけど、でもやっぱり嬉しい気持ちになっていった。


「うん、そう言ってくれると弟も嬉しがると思うよ! あ、それでさ、こんな事をユウ君に頼むのは不躾だと思うんだけど……もし良かったらまた今度東京に来て貰う時にさ……病院にいる私の弟に会って貰えないかな?」

「え? ルリさんの弟さんにですか?」

「うん、弟はユウ君の大ファンだからさ、ユウ君に会えたらきっと喜ぶと思うんだよね。だからもしも面倒じゃなければ、今度東京に来たら一緒に弟に会いに病院に来てくれると凄く嬉しいんだけど……だ、駄目かな?」


 ルリさんは申し訳なさそうな表情をしながらそんなお願いをしてきた。僕はそんなルリさんのお願いに対してすぐにこう返事を返していった。


「はい、そんなのもちろん大丈夫ですよ! 僕もルリさんの弟さんに会いたいですしね! だから是非とも次回東京に行く時は一緒に病院に行かせてください!」

「うん、ありがとう……ふふ、やっぱりユウ君って本当に優しい男の子だよね。こんなメンドクサイお願いを嫌な顔せずに引き受けてくれるなんて……本当に優しいよ」

「いやいや、全然面倒じゃないですよ! 僕にとって身内以外での初めてのファンなんですから、そんなの喜んで幾らでもお会いしますよ! 僕もファンとお会いできるなんて嬉しいですから! あ、そうだ。それじゃあ弟さんに今度お土産を持って行こうと思うんですけど、何か食べ物とかアレルギーはあったりしますか?」

「えっ、本当に!? それは弟もすっごく喜ぶと思うよー! アレルギーとかは何もないし、好き嫌いも特にはないから、何でも持ってきてくれたら喜ぶと思うよ。あ、でも一番大好きなのはやっぱり甘い物かな?」

「はい、わかりました! それじゃあ何か甘そうなお土産を持って行きますね。弟さんにも今度会いに行きますって伝えといてください!」

「うん、わかった! それじゃあ弟にしっかりと伝えておくね。ふふ、本当にありがとね、ユウ君」

「はい!」


 ルリさんは柔和な笑みを浮かべながら僕にそう言ってきた。という事で次回東京に訪れる際にはルリさんの弟さんに会いに病院に行く事が決まった。


 そしてそれからしばらくして僕達は休憩を終わりにして、また和気あいあいとした雰囲気でダンジョンの中を探索していったのであった。

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