42話:社長さんに褒められていく
「? どうかしましたか? 何だかビックリとしたような顔をしていますが……」
「えっ? あ、い、いえ! 何でもありません!」
カケルさん達がそんな凄い人達だったなんて知らなくてビックリとしてしまったんだけど、でも社長さんの話の本筋とは全く無関係なので僕は慌てて誤魔化していった。
「そうですか? それでは話を戻しますね。カケルさん達が投稿したこの切り抜き動画は投稿されてからまだ1時間程度しか経っていませんが、現時点で既に10万回再生も伸びています。このままのペースなら一日で100万回再生は余裕で到達する事でしょう」
「え……えっ!? あの切り抜き動画はそんなに再生される見込みがあるんですか!? た、ただのヒュドラを討伐するだけの動画ですよ?」
「いえ、ただヒュドラを倒すだけの動画ではありません。ヒュドラはパーティを組んで戦うのが当たり前だとされている上級モンスターです。そんなヒュドラをS級冒険者がソロで倒すという動画です。こんなの数多くの冒険者達が見たいと思う動画に決まっていますよ。だからS級冒険者であるユウ君にはそれだけのバズりを生み出す力を持っているという事です」
どうやら社長さんは僕のS級冒険者としての実力を非常に買ってくれているようだ。まぁもちろん僕としても冒険者の力を評価してくれるのはとても嬉しい事だけど……。
「え、えっと、なるほどです。社長さんが僕の冒険者としての力を評価して頂けてる事は理解しました。で、でもそもそもの話なんですが……僕には配信や動画投稿者としての実力は全然ありませんよ? チャンネル登録者数だってルリさんの紹介のおかげで今は10万人近くにはなりましたけど、それが無かったら100人しかいませんでしたしね……。だからやっぱり僕みたいなのがファーストライブに入ったとしても全然何も貢献出来ないと思うのですが……」
恥ずかしいけど僕は社長さんに配信者や動画投稿者としての実力は全然無いという事を伝えていった。
だって僕のチャンネルはルリさんが紹介してくれる前までは、ずっと登録者数が100人しかいない超過疎チャンネルだった訳だしね……。
だけど社長さんはそんな僕の話を聞いていった後、僕の目をしっかりと見つめながら続けてこう言ってきた。
「ふむ、どうやら君は自分の事を過小評価しているようですが、君には配信や動画投稿者としての才能は十分にありますよ? これはライバー事務所の社長としてそう断言させて頂きます」
「えっ? い、いや、そう言って貰えるのは嬉しいですけど……でも流石にそれは無いんじゃないかなと……」
「いえ、そんな事はありませんよ。そもそもルリが君のチャンネルを紹介したからといっても、それだけで君のチャンネル登録者数が10万人以上も爆伸びするなんて事は通常ならあり得ない事ですからね」
「え? そ、そうなんですか?」
「はい、そうなんです。もちろん何度もコラボや紹介を重ねていけば登録者数が10万人を突破するという事は全然あり得ますが……でもたった一度ルリが紹介しただけでチャンネル登録者数が10万人以上も爆伸びするのは通常ならばあり得ない展開です。それなのにユウ君は一夜にして10万人以上もの登録者数を獲得したんです。ふふ、これはつまり……どういう事かわかりますか?」
「え、えっと……すいません、つまりどういう事なのでしょうか?」
社長さんの問いに対する答えが全然わからなくて、僕はキョトンとしながら社長さんにそう聞き返していった。
すると社長さんは微笑みを浮かべながら、僕の目をしっかりと見つめた状態で続けてこう言ってきた。
「ふふ、つまりですね……君のチャンネルがとても魅力的なチャンネルだったという事ですよ。ユウ君が今まで長い時間をかけて沢山の冒険者のために作ってきた解説動画や指南動画が数多くの冒険者の心に刺さったという事ですよ」
「え……ぼ、僕のチャンネルが……? そ、そうだったんですかね……?」
「はい。もちろんユウ君が自身で言ったようにチャンネルがバズった理由の一端はルリのおかげでもあります。ですがそもそも君のチャンネルが魅力的じゃなければ10万人もチャンネル登録者数が一気に増えるわけがありません。視聴者はそういう観点は非常にシビアですからね。幾ら好きな配信者からオススメされたからと言っても、面白かったり興味がないチャンネルの動画や配信なんて基本的には見ませんし、チャンネル登録なんてもっとされませんからね」
「な、なるほど……そ、それはまぁ確かにそうですよね」
社長さんにそう言われて僕はちょっと納得していった。確かに僕も面白かったり興味があるチャンネルしかチャンネル登録はしていない。
そして誰かに面白いとオススメされたからといっても、それだけでチャンネル登録をする事なんてほぼ無い。ちゃんと自分でオススメされた動画を見て面白そうだと判断したらチャンネル登録するし、興味がなければ登録しない。
そしてそれはほぼ大多数の人達もそんな考え方な気がする。普通の人は興味が無ければチャンネル登録なんてするわけ無いもんね。
「な、なるほど、今の社長さんの言葉は凄く腑に落ちました。でも、そんなに沢山の冒険者の心に刺さった動画になってたんですかね? 僕としてはそんな凄い動画を作ってきた覚えなんて全然無いんですけど……」
「そんな事はありませんよ。私も君が投稿してきた動画や配信は全て見させて頂きましたが、とても魅力的で素晴らしい動画コンテンツが多いと感じましたよ」
「え……って、えっ!? しゃ、社長さんも僕のチャンネルを全て見て下さったんですか?」
「はい、もちろん。スカウトしようと思った方の動画は全てチェックするのは当然の事です。そしてユウ君の動画はどれも素晴らしくわかりやすくて見やすい動画ばかりでした。君が今まで得てきた冒険者としての知識を第三者にわかりやすく解説する動画を作れるというのは本当に凄い事ですからね」
「え? あ、そ、そうなんですかね……?」
社長さんは僕にそんな優しい言葉を送ってきてくれた。
だけど僕はまさか僕の作った動画や配信を全部見てくれてたとは思わなくて、物凄くビックリとしてしまい、変な声を出しながら挙動不審になってしまった。
そして社長さんそんなビックリとしている僕の顔を見つめながら、さらに続けてこんな事を言ってきてくれた。
「ふふ、それにユウ君は動画や配信をするにあたって動画の撮り方や台本作り、編集の仕方、それと……喋り方についても沢山勉強してきたというのも非常に伝わってきました。君が今まで作ってきた数々の動画からそんな努力の痕跡が非常に多く見てとれましたよ」
「えっ? あ、そ、それは……って、そ、そんな事までわかるものなんですか?」
「えぇ、私もライバー事務所を設立する前は動画クリエイターや編集などの仕事に携わっていましたからね。ですからクリエイター目線でユウ君が動画や配信についての勉強を沢山しているというのはよくわかりました。そしてその絶え間ぬ努力を積み重ねていった結果……今回の件で君のチャンネルが沢山の人に評価をされて一気に登録者が増えていったという事ですね。その点はちゃんと誇って良いと思いますよ。ふふ、だから本当に……今までよく頑張ってきましたね、ユウ君」
「あ、そ、その……あ、ありがとうございます……そう言って貰えるとその……凄く嬉しいです……」
社長さんは優しく笑みを浮かべながら僕のチャンネルに対する評価を伝えてきてくれた。僕はそこまで褒められるとは思わなくてちょっとだけ顔を赤くしながら俯いていった。
だけど社長さんがクリエイター目線で僕のチャンネルを評価してくれた事は本当に凄く嬉しかった。そして今まで僕が頑張ってきた事は決して無駄じゃなかったという事がわかって……僕は涙が出そうな程に嬉しく思っていった。




