36話:ヒュドラの元へと向かって行く
「お、おい、アンタ! そんなとこに突っ立てないで早くそこから逃げろ!!」
「そ、そうだ! 俺達の後ろから凶悪なモンスターが来てんだよ! だから早く逃げろーー!!」
全速力で走ってきている彼らは僕に向かってそんな言葉を投げかけてきた。どうやら彼らはモンスターに追われているようだ。
そして僕に対して彼らは大きな声で逃げろと言ってきているんだけど、でも僕はその言葉を聞いても逃げる事はせずに、まずはしっかりと状況把握をしていく事にした。
だって状況が全然把握出来てないのにすぐ行動に移してしまうのは冒険者としては絶対にやってはいけない事だと、僕は先輩冒険者達から何度も教わってきたしね。
「えっと、でもあんなに慌てて何のモンスターに追われているんだろう? もしかして上級モンスターが来ているのかな?」
ここは上級指定されてるダンジョンだ。だからこんな低階層でも上級モンスターが出て来るのかもしれない。
だから僕は襲って来てるモンスターを確認するためにも彼らの後方をしっかりと観察をしていく事にした。すると彼らの後ろには……。
「グギャアアアアアアアアッッ!!」
「や、やばい……!! も、もう……もう猛毒龍がすぐそこまで迫ってきているぞ!!」
「え? ヒュドラだって? あ、本当だ!」
目を凝らして彼らの後ろの方を見ていくと、そこには大きな蛇状の龍が突撃してきていた。あれはまさしくヒュドラと呼ばれる龍種族の上級モンスターだ。
「ふむふむ、こんな低階層でも上級モンスターが出て来るなんて……やっぱり上級ダンジョンは凄いなー! はは、これは探索のしがいがありそうだね!」
「お、おいっ!! 何立ち止まってうんうんって頷いてるんだよ!? そこにいたらヒュドラの突撃に巻き込まれるぞ!! 早くアンタも逃げろって!!」
「グギャアアアオオオ!!!」
全力でこちらの方に向かって走って来ている二人組の男性は、僕に向かって大きな声でそんな事を言ってきた。
「いえ、大丈夫です! ヒュドラは僕が引き付けておきますので、お二人は先に逃げていってください! ふぅ……肉体強化!」
「え……って、えっ!?」
「えっ!?」
―― ビュンッ!!
僕は即座に自身への肉体強化の魔法を施していき、そしてそのまま全力でヒュドラのいる方に目掛けて突撃していった。
「え……えっ!? な、なんだよあの若いソロ冒険者は!? 今めっちゃ凄い速度で俺達の事を追い越していかなかったか!?」
「あ、あぁ。しかも何かあの一瞬で魔法を唱えてたみたいだけど……もしかして肉体強化の魔法を唱えてなかったか?」
「えっ!? そ、それじゃあ……あの若いソロ冒険者……まさか一人でヒュドラと戦うつもりなのか!?」
「は、はぁ!? そ、そんな馬鹿な!? え、でもまさか……もしかしてあの若いソロ冒険者は……実はめっちゃ強い冒険者だとかか!?」
「あ、あぁ、そうかもしれないな! ってかこんな上級ダンジョンにソロで入って来てるんだからその可能性が高いよな! なぁリスナーの皆! あの若い冒険者の事を知ってるヤツ誰かいねぇのか!?」
雷電:多分俺知ってるよ。あの若い子は最近配信界隈に現われたS級冒険者の高校生だよ
セリカ:それに確かあの子ってルリちゃんのコーチング役の子でしょ。ルリちゃんが先週そんな配信してたよー!
フラン:えっ!? S級冒険者!?
K-kun:は、はぁ!? S級冒険者!? そんなヤツ本当にいたの!?
シロ天:え? ルリちゃんってもしかしてあのファーストライブ所属のあの子!?
セリカ:そうそう、そのルリちゃんの事だよー!
「は、はぁっ!? あの若いソロ冒険者ってS級冒険者なのかよ!?」
「しかもルリちゃんのコーチング役ってガチ!? ま、まじか……俺らよりも確実に年下なのにそんな強い子だったのかよ!?」
「ってかS級冒険者なんて俺生まれて初めて見たぞ? と、というかS級冒険者って一体どんな戦闘をするんだろうな? な、なんていうかさ……めっちゃ気にならないか?」
「あ、あぁ、それは確かに……めっちゃ気になるな……。な、なぁリスナーの皆、お前らもあのS級冒険者がどんな戦闘をするのか気になるよな? や、やっぱりS級冒険者の戦闘なんてお前らも見てみたいよな?」
雷電:うん、めっちゃ気になる!
セリカ:S級冒険者の戦闘シーンとか貴重過ぎるし絶対に見たい!
シロ天:でもそんな事をリスナーの俺達に聞いてくるって事は……ま、まさか!?
K-kun:も、もしかして俺達にS級冒険者の戦闘を見せるために……あの死地に戻るつもりか!?
フラン:え……マ、マジで!? ワンチャン死ぬ可能性があるのに戻るの!? 正気か!?
「しょ、正気に決まってるだろ! そりゃあ俺らだって死にたくはねぇけど……でも俺らは生粋の冒険者なんだよ! だから俺らだってS級冒険者の戦闘はガチで見てみたいし、リスナーのお前らも凄く気になるってんなら……それならダンジョンライバーとしてあの死地に戻るしか無いに決まってんだろ!! って事で俺達は今すぐあの子を追ってそのまま配信していくぜ! よし、それじゃあ戻るぞ修二!」
「お、おう、わかった! リーダー!」
◇◇◇◇
「ギャオオオオオオオオオオオ」
「ううん……だいぶ気性が荒いね。もしかして凶暴化してるのかな? それにしてもこんなにも大きいサイズのヒュドラなんて滅多に見れないよ……ふふ」
僕は大きなヒュドラを目の前にして思わずニヤっと笑みを溢してしまった。
このモンスターは猛毒龍と呼ばれる上級の龍種だ。もちろん前回アストルフォで戦ったヤングワイバーンなんかよりも強さはヒュドラの方が上だ。
そして目の前のヒュドラは身体の大きさからしてレベルはかなり高そうだ。それにしても初めて訪れたダンジョンでこんな強そうなモンスターと戦う事になるなんて……ふふ、これこそ冒険者冥利に尽きるというものだ!
「……おっと、いけないいけない。冒険者たるもの、常に冷静に立ち回らなきゃ駄目だよね!」
―― パンパンッ!
思わず笑みを溢してしまった僕はそう言いながら自分の頬を何度か叩いていって気を引き締めていった。
「さて、それじゃあ……行くよ!」
「グルルルゥ……グギャアアアオオオ」
僕は真剣な表情をしながら双剣を手にして身構えていくと、すぐにヒュドラは僕に目掛けて突進をしてきた。




