35話:再びまた東京へ!
それから数日後の土曜日の早朝。
「よし、それじゃあこれで出かける準備はバッチリかな。お土産選んでくれてありがとね、浅香」
「うん。それなりに良いお土産買ったんだからちゃんと渡してね。それとお偉いさんに挨拶する時はハキハキと喋るんだよ、お兄ちゃん」
「う、うん、もちろんわかってるよ」
僕は家の玄関前で浅香とそんな会話をしていっていた。
以前ルリさんから社長さんに会って欲しいとお願いされたので、今日はそんなファーストライブの社長さんと東京の事務所でお会いする約束をさせて貰っていた。
そのため今日はまた新幹線で東京へと向かう事になっていた。まぁでもお偉いさんと会いに東京に行くと思うとやっぱり緊張しちゃうよね……。
「ふぁあ……でもお兄ちゃんさ、何でこんな早い時間に出発するの? まだ朝の6時だよ? ファーストライブの社長さんにアポイント取れたのって夕方なんでしょ?」
「あ、あぁ、うん。まぁそうなんだけど、でも東京に着いてすぐにファーストライブの事務所に行ったら緊張で押しつぶされるのがわかりきってるからさ……だから一旦東京ダンジョンを探索して心を落ち着かせからファーストライブの事務所に行こうと思ってるんだ」
欠伸をしながらそんな事を尋ねてきた浅香に向かって、僕は苦笑しながらそう返事を返していった。
元々僕は昔から凄く緊張してしまうタイプなので、社長さんと対面したら確実に緊張でやられてしまうのが目に見えている。
だから少しでも緊張を緩和させるためにダンジョンに入って心を落ち着かせるという作戦を考えていた。という事で今日は東京駅から一番近い所にあるダンジョンに行くつもりだ。
「あぁ、なるほどね。まぁお兄ちゃんすっごく緊張しいだからダンジョン探索して心を落ち着かせるのはアリだね。特に今回会うのってファーストライブの社長さんなわけだし粗相は絶対に出来ないしね」
「う……そ、そうやって僕の事を脅かさないでよね」
「あはは、ごめんごめん。でも大丈夫だよ。別に怒られに行くわけじゃないんだし、きっと向こうの社長さんも優しく接してくれるでしょ。だからそんなに気負わずに頑張ってきなよ。あとは美味しそうなお土産もよろしくね、お兄ちゃん」
「う、うん。わかったよ。それじゃあ行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
最後にちゃっかりと東京土産を催促されてしまったけど、浅香からはとても温かいエールを貰っていった。
(よし、それじゃあ浅香のアドバイス通り……あまり気負わず頑張っていこう!)
まぁ現時点でかなり緊張をしてしまっているんだけど、それでも東京に行けるなんて嬉しい事なんだし全力で楽しまなきゃだよね!
よし、それじゃあ東京に着いたらまずはダンジョンに行って緊張している心を落ち着かせていこう!
◇◇◇◇
それから数時間後。
前回と同じ新幹線を利用して僕は東京に到着する事が出来た。そしてそのまま電車を乗り継いで目的地のダンジョンへと向かい、今はそのダンジョンの中を探索している所だった。
「ふぅ……何だかこのダンジョンは中々に複雑だなー」
僕が今日訪れている東京ダンジョンは神田駅にある“ガイゼンボルグ”というダンジョンだ。このダンジョンに訪れてみた理由は先程も言ったように東京駅から一番近いダンジョンだったからだ。
そして事前に下調べをしてみた所“ガイゼンボルグ”の難易度は結構難しいようで、冒険者ギルドからは上級ダンジョンという認定がされているらしい。
そしてこの高難度ダンジョンという立ち位置のせいで“ガイゼンボルグ”は東京ダンジョンの中ではあまり人気が無いダンジョンのようだ。
そのおかげなのか今の所ガイセンボルグの中ではまだ他の冒険者とは誰とも遭遇していない。まぁ恥ずかしがり屋な僕としては人が少ない方が有難いから別に良いんだけどね。
「それにしても出現するモンスターはどんどんと強くなってきてるし、ダンジョンの中も複雑でマッピングも大変だし……ふふふ、これは凄く攻略しがいのあるダンジョンだね!」
僕は少し興奮気味になりながらそんな事を呟いていった。やっぱり見知らぬダンジョンを探索するのって凄く楽しいんだよね。僕の住んでる田舎のダンジョンは全て制覇済みだからこういうワクワク感は遠征した時にしか味わえないんだよね。
そして東京にはまだまだ見知らぬダンジョンが沢山残っているわけだし……ふふ、これはいつかは東京ダンジョンも全て制覇していきたいものだね。
―― ドタドタドタドタ……!
「ふふ……って、うん?」
そんな感じでワクワクとしながらダンジョン探索を続けていると、ふと前方から何やら大きな音が聞こえてきた。
なのでとりあえず音が聞こえてきた方向に耳を澄ませていくと、どうやら複数人が大きな声で喋りながら全力疾走でこちらに向かってきているようだ。
『マジでやべぇ!! なんだよこのダンジョン!!』
『死ぬ死ぬ死ぬ!! A級モンスターが出るなんて聞いてねぇって!!』
『ギャアアアアアアアアアアアっ!!』
インダラ:ちょっ、マジで死なないでくれよ……!
せりか:逃げてーーー早く逃げてーーーー!!
『はぁ、はぁ……猛毒龍とか初めて見たぞ……はぁ、はぁ……あ、あんなん俺達に勝てるわけないだろ! 誰だよこのダンジョンに行けって言ったヤツ!!』
『いやマジ死ねるぞこれ! オイ見てるおめぇら! もし俺らが奇跡的に生き延びれたらちゃんとスパチャしろよ! お前らがこのダンジョンを初見クリアしてこいって言ったんだからな!!』
『グシャアアアアアアア!!』
雷電:いやマジでごめんって
kagurra:死なないでくれよー! 頼む!!
K-kun:¥10,000 先払いで赤スパ送ったからマジで死ぬなよ!
ジュラフ:¥1,0000 絶対に生き残って貰いたいから先送りするしかねぇ!
『はぁ、はぁ……あ、赤スパありがとな……! って、スパチャ送るの絶対に今じゃねぇだろ!? 俺達がしっかりと生き延びた後でスパチャ送ってくれよ!』
『はぁ、はぁ……マジでそれな! 俺達が死んだらその赤スパ受け取れねぇんだからよ!! はぁ、はぁ……クソッ、これじゃあ絶対に生き延びなきゃならねぇじゃねぇかよ!!』
『はぁ、はぁ、そうだな……お前ら皆ありがとよ……! お前のスパチャを無駄にしないためにも絶対に生き残ってみせるからよ! はぁ、はぁ……って、あ、あれ? 何だあれ? 子供が一人でいるんだけど?』
『はぁ、はぁ……いやいや、こんな上級ダンジョンに入ってくるソロの子供なんていねぇだろ……って、えぇ!? ま、マジでいるじゃん!?』
雷電:いやいやそんなわけが……ほんまやん!?
せりか:何あの子!? こんな上級ダンジョンにソロで探索してるの!?
K-kun:どうでもいいけど可愛い感じの子だね! スパチャ送りてー!
ジュラフ:俺も送りてー! さっきのスパチャキャンセルしてあっちの冒険者の子に送っても良いか?
ヌル:もしかして配信者かな? 詳細はよ!
―― ドタドタドタ……!
『はぁ、はぁ……お、おいオマエら! 俺達が死に物狂いで全力疾走してるってのに、皆してあっちの可愛い子ちゃんを見てるんじゃねぇよ! もっと俺達の勇姿を見ろよ!! って、てかアンタっ! 何で一人でこんな上級ダンジョンを探索してるんだ!? 仲間はいねぇのか!?』
『いやリーダー! 今はそんな事を聞いてる場合じゃないでしょ! いいから早く君も逃げろー!』
『グギャアアアアアアアアッ!』
雷電:……え? って、あれ? 今あの子の顔がくっきりと映ったんだけどさ……もしかしてあの子って?
せりか:あ、雷電さんも気づいた? 多分そうだよね? あの子って多分だけど……
ジュラフ:え? 何々? もしかして有名人なの? あの可愛い女の子の詳細知ってるなら早く教えて!
雷電:いやジュラフさん……残念だけどあの子は男の子やでw
K-kun:えっ!?
ヌル:えっ!? 男なの!?
ジュラフ:¥50,000 あの可愛さで男の子だと!? く、くっそ……新しい性癖が生まれました! 今日からあの男の子推しになります! 焼肉代に渡してください!
『待て待てーー!! だからこんな状況で赤スパ送ってんじゃねぇよおおおお!! って、ちょっと待て!? 金額エグすぎんだろっ!!』
『は、はぁ!? 5万って何だよこれ!? クソっ! これもうマジで死ねねぇぞ!! 絶対に生き残ってやるからなーーーー!!』
「……え、えっと、何で喧嘩しながら全力でこっちに走ってるんだろう……?」
こちらに目掛けて全力で走ってきている彼らの様子を見つめながら僕はそんな事を呟いていった。




