26話:ルリさんが僕にこんなお願いをしてくる
受付のお姉さんにランクを調べて貰ったんだけど、その結果僕はSランクだという事が判明した。でも……。
「で、でもやっぱり僕がSランクっておかしくないですか? 僕はそんなに凄い事をしてるつもりはないんですけど……」
「い、いやいや、沢城さんの冒険者カードの記録を拝見しましたが十分凄い実績がありますからね。沢城さんが今まで討伐してきたモンスターの合計数、ボスモンスターの討伐数、今までのダンジョン探索の合計時間などなど……どれを見ても凄い記録が残っています。そしてさらに沢城さんが優秀だと判断される点が一つあるんですが……沢城さんは最上級の魔法も取得していますね?」
「えっ!? 最上級魔法!? ユウ君そんな魔法も使えるの!? で、でもユウ君ってまだ16歳でしょ!? そ、それなのに……ユウ君は最上級の魔法を使えるの!?」
「あ、あぁ、はい。一応火属性だけなんですけど、下級から最上級まで全種類の魔法を使えますよ」
「えぇぇえっ!? な、何それ凄すぎじゃない!? 最上級の魔法なんて私、今まで一度も見た事すらないよ!?」
「え? そうなんですか? でも魔法の取得って経験値を積んでいけば覚えられるものですよね? だから誰でも覚えられるものじゃないんですかね?」
「はい、魔法の取得に関しては沢城さんの言う通りです。ですが最上級の魔法を取得するには物凄い経験値を積む必要がありますし、そこまで到達する前に冒険者を辞める人が大半ですよ。だから最上級の魔法を使える人なんて滅多にいないんですよ」
「え……そうだったんですか? そ、それは知りませんでした……」
僕が最上級魔法を使える事を知ってルリさん達はとてもビックリとした表情をしながらそんな事を言ってきてくれた。
でも僕は最上級の魔法を使えるのがそんなに珍しい事だったなんて全然知らなかった……。
僕は子供の頃から勉強とか修行が大好きだった。だから僕は冒険者を始めて“この10年間毎日かかさず火属性の魔法の修行を欠かさずやってただけ”だ。そしたら気づいたら最上級魔法を覚えてただけなんだ。
だから最上級魔法を覚えるのなんてそんなに大変な事なんかじゃないと思うんだけどなぁ……。
◇◇◇◇
それから程なくして。
「それでは本日のご利用ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「はい、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
そう言って受付のお姉さんに挨拶をしてから僕達は受付から離れていった。そしてそのまま僕はルリさんに続けてこう話しかけていった。
「今日は色々とありがとうございました! 冒険者ランクとか色々と知らない事が知れて本当に助かりました!」
「うん、それなら良かった。私もユウ君のおかげで危ない所を助けて貰えて本当に良かったよ。……あっ! そ、それとさ……!」
「ん? それと?」
するとルリさんは急にちょっとだけ緊張した態度になり始めていった。そしてそのまま緊張した様子でルリさんは僕にこう言ってきた。
「う、うん、あのさ……今日あったばかりのユウ君に凄く不躾な事を言っちゃうかもだけど……良かったらその……私に冒険者のコーチングをお願いできないかな……?」
「え? ぼ、僕が冒険者のコーチングをですか?」
「う、うん。ユウ君がSランク冒険者だと知ってからこんな事をお願いするなんてかなり不躾な事をしてる自覚はあるんだけど……でも私さ、一流の冒険者になりたいっていう夢があるんだ。だからその……ユウ君のような強い冒険者にコーチをして貰いたいなって思って。駄目……かな?」
ルリさんは緊張した様子でそんなお願いを僕にしてきた。
ちなみにコーチングとは文字通り冒険者の指導をする人の事だ。僕も新人冒険者だった頃は支部長さんとかに毎日コーチングをして貰ったっけ。もう十年近くも前の話だけど何だか懐かしいな。
(でもコーチングって初心者とか新人の冒険者にするものじゃないのかな?)
僕はそんな事を思いつつ、キョトンとした表情を浮かべながらルリさんにこう言っていった。
「え、えっと、駄目とかそんな事は決して無いんですけど、でも僕コーチングをした事がないので、正直何をしたら良いかわからないんですよね……。それにルリさんって冒険者を始めて結構経ってますし、冒険者としては普通に強い方なんじゃないですか? あ、そういえばルリさんの冒険者ランクってどれくらいなんですかね?」
「私はCランクだよ。まぁCランク冒険者は冒険者の中だと平均的だと言われてるランク帯だね」
「あぁ、そうなんですね。でも冒険者として平均的な実力があるのであれば十分じゃないですか? だから今更コーチングの必要なんてルリさんには無いんじゃないですかね?」
「うん。まぁ確かにバイト感覚でお金稼ぎをしてる冒険者をしてるんだったらCランクくらいでも十分なんだけど……でも私はもっと強い冒険者になりたいと思ってるんだよ……。それなのに私、今までずっと配信の事ばかりを気にしていて自分自身が強くなるための修行を疎かにしてたなって、今日の一件で思い知ったから……だから私、ちゃんと強くなりたいんだ……」
「ルリさん……」
ルリさんは表情を曇らせながらそんな事を言ってきた。
僕はその悲しそうな表情を見てルリさんはまだ何かを隠しているような気がした。だから僕はルリさんに向かって率直にこう尋ねていった。
「えっと……す、すいません。一つだけ聞いても良いですか? ルリさんって何で冒険者を始めたんですか?」
「え? ど、どうして?」
「僕は今までダンジョン配信をしているルリさんのチャンネルを楽しく見て来てました。それでルリさんって冒険者としての強さなんか気にしないで、いつも配信を見に来てくれてる視聴者の事を全力で楽しませようとしてくれてましたよね?」
「う、うん、そうだね。私は配信に関しては視聴者の皆を楽しませる事を第一に考えていつも配信をしているよ。まぁ普段からエンジョイ勢冒険者って名乗ってるくらいだしね」
「ですよね。そんな視聴者の皆を楽しませる事を第一優先に考えてるエンジョイ勢のルリさんが明確に冒険者として強くなりたいって言ったのには……何か特別な理由があるのかなって思ったんです」
「……ユウ君」
ルリさんの配信はいつも見ている視聴者さんを全力で楽しませようとする配信を心掛けていたんだ。
それにルリさんはいつも自身をガチ勢なんかではなくエンジョイ勢冒険者だと公言していた。さっきも配信中にはランクとか強さに関しては口に出さないって言ってたしね。
だから今までルリさんは“力”とか“強さ”に執着しないタイプの冒険者だと思ってたので、今のルリさんの言葉は何だかとても意外だった。
だから僕は率直にその事を尋ねてみたんだ。するとしばらく経ってルリさんは僕の目をしっかりと見ながらこう返事を返してきてくれた。
「あーあ、ユウ君には秘密が出来ないなぁ。うん、それじゃあ私が冒険者になった理由を教えてあげるね。実は私さ……昔からずっとエリクサーを探しているんだ」
「エリクサー? それって“万物の霊薬”と呼ばれている最高峰のレアアイテムの事ですか?」
「うん、そうそう。そのエリクサーだよ」
ルリさんは表情を曇らせながらそんな事を言ってきた。エリクサーとは最難度のダンジョンの最深部で手に入ると噂されている最高峰のレアアイテムだ。
エリクサーの効果はどんな傷でも怪我でも一瞬で治す事が出来ると言われてるが、入手難易度が滅茶苦茶高すぎるため僕も今まで一度も見た事がないアイテムだ。
ちなみにエリクサーが市場に出回った事は今まで数回程しかなく、市場に出回った際には価格は数兆円に上ると言われている。まさに伝説の回復薬だ。
「なるほど、ルリさんはエリクサーを手に入れるために冒険者になったんですね。でもそんな伝説の回復薬が欲しいだなんて……あ、も、もしかして……?」
「……うん、そうなの。実は私にはね、年の離れた弟がいるんだ。だけど弟は身体がすっごく弱くて子供の頃からずっと病院で寝たきりの生活してるんだ。それでお医者さんが言うには……現代の医学では治す事は出来ないって言われて……それで多分大人になるまでは生きれないって言われてるの。だから私……そんな弟の身体を治すためにもそのエリクサーが欲しくて……それで私、エリクサーを手に入れるために冒険者になったの」
「……そ、そうだったんですね」
ルリさんは身体を震わせながらそんな事を教えてきてくれた。どうやら弟さんはかなり深刻な病気にかかっているようだ。
でもルリさんはすぐに悲しい表情から明るい表情に戻していきながら、続けて僕にこう言ってきた。
「うん、そうなんだよ。あ、でもね、私が冒険者を始めてダンジョンの中に籠りっぱなしになると病院にいる弟と会える時間がガッツリと減っちゃうでしょ? ふふ、だからさ……私の雄姿をいつでも病院のベッドで寝ている弟に見て貰えるようにしようと思って、それでダンジョン配信も始めてみたんだよ!」
「あ、な、なるほど。という事はルリさんがいつも楽しそうにダンジョンの中をくまなく探索したりしてたのは……?」
「うん、そうだよ。外に出る事が出来ない弟のためにダンジョンの中をくまなく見せてあげようと思って、エンジョイ勢的な配信を始めていったのよ。それで最初の頃は弟に喜んで貰えるようにいつもオーバーなリアクションをしながら冒険者配信をしてたんだけど、そしたら何だか弟だけじゃなくて沢山の人に見て貰えるようになっていったんだ」
「なるほど。そういう事だったんですね」
いつもルリさんが楽しそうにダンジョンの中をくまなく探索して回るエンジョイ配信をしていたのにはそんな理由があったんだね。
僕はそんなルリさんの家族に対する優しさを凄く感じる事が出来て、改めてこの人をずっと推してきて良かったなと思っていった。




