21話:助けた女の子はまさかの……!?
それから程なくして、地面に倒れている女性はキョトンとした表情のまま僕に向かってこう尋ねてきた。
「え、えぇっと、すいません、今何が起きたんですか……? と、というか何でワイバーンを一撃で倒せたんですか……?」
「あぁ、えっとですね、さっきのワイバーンはまだレベルの低い“ヤングワイバーン”という小さな個体種だったんですよ。ヤングワイバーンはまだまだ身体が成長しきってないため皮膚が柔らかいので首を一刀両断して倒す事が可能なんです」
「え……って、えぇっ!? あ、あれで小さめの個体だったんですか!?」
「はい、そうなんですよ。ワイバーンは最上級レベルに進化するとキングワイバーンになって攻撃面、耐久面共に最強クラスになる凶悪モンスターになるんですけど、あのワイバーンはまだまだ発展途上中のワイバーンだったんです」
「な、なるほど……ワイバーンによっても種類があるんですね! それは知りませんでした! すっごく勉強になります!」
冒険者の女性は感嘆の声をあげながら僕にそう言ってきてくれた。普段冒険者としての知識を褒められる機会があまり無かったので、目の前の女性冒険者に勉強になったと言われて僕はちょっと嬉しくなった。
「あはは、そう言ってくれると僕も嬉しいです。でもヤングワイバーン自体もかなり強いモンスターである事には変わりないですからね。って、うーん、だからヤングワイバーンが出現するにしても、もっとダンジョンの最深部とかにしか出ないとは思うんですけど……」
僕は腕を組みながらそんな事を言っていった。
先ほども言ったよう“ヤングワイバーン”はワイバーンの中でも一番弱い個体なんだ。だけどワイバーン自体が上級モンスターだからこんな初心者向けダンジョンの低階層に出現するのはだいぶおかしい。
もちろんもっと上の最深部まで探索していけばこのアストルフォであっても中級~上級モンスターと出くわす事になるとは思うけど……うーん、何でこんな低階層でワイバーンなんて出現したんだろう……?
「あ、あのー……唸り声をあげてどうしたんですか?」
「うーん……って、あ。すいません、ちょっと考え事をしてました。あ、そういえば怪我とかは大丈夫ですか? 回復薬とかは持ってますかね?」
「あ、すいません……実はさっきのワイバーンとの戦闘中にアイテムバックを全て燃やされてしまって……だからその時に戻り石も焼失してしまって逃げる事も出来なくなってたんです……」
「あぁ、なるほど。そういう事だったんですね。わかりました。それじゃあ僕はハイポーションを持ってきてるので良かったらそれを使ってください! えっと、ちょっと待っててくださいね」
僕はそう言ってポーチの中からハイポーションを取り出していく事にした。すると急に女性冒険者はビックリとしたような声を上げてきた。
「えっ、ハイポーションですか? でもそれって結構高いポーション薬ですよ!? 最近どんどんと高騰してる回復薬ですし……そ、そんな高価な物を頂くなんて……」
「いえいえ、冒険者たるもの困った時はお互い様ですよ。だから気にせずに貰ってください! それじゃあ、はい、どうぞです!」
「あ……ありがとうございます! も、もう本当に何と感謝をして良いか……!」
「はは、そんなの全然気にしないでくださ……って、えっ?」
「え? どうかしましたか?」
僕はポーチの中から取り出したハイポーションを倒れている女性冒険者に向かって手渡していった。
だけど僕はその瞬間にとてもビックリとしてしまって凄く変な声を出していってしまった。だってその女性冒険者はなんと……。
「え、えっと……す、すいません……あ、あの、すっごく今更なんですけど……あ、アナタのお名前を教えて頂く事って可能でしょうか……?」
「えっ? って、あ、はい、すいません! 申し遅れました! 私、如月ルリって言います。今回は危ない所を助けて頂き本当にありが――」
「え……えぇええええっ!? や、やっぱりルリちゃんなんですかっ!?」
「え? は、はい、私はルリって言いますけど?」
僕はその女性冒険者の自己紹介を聞いて驚きのあまり、とてつもなく大きな声を出していってしまった。
だって目の前に倒れこんでいる女性は僕がいつも視聴していた超有名ダンジョンライバーである如月ルリちゃんだったからだ! こんなのビックリするに決まってるよ!!
「え、えっと……もしかして私を知ってるんですかね?」
「は、はい! も、もちろんです! ルリちゃんが冒険配信を始めたばかりの頃からずっとチャンネル登録してます! 月額500円のメンバー登録もバッチリとしてます! あ、そ、それと……はい! こ、これも持ってます!」
「え? って、わあっ! これ私が一番最初に作った数量限定のミニキャラのキーホルダーじゃないですか! ふふ、そんな昔に販売した物を持ってくれてるだなんて……もしかしてすっごく最古参なファンなんですね!」
「は、はい! ルリちゃんがダンジョンライバーを始めた頃からずっと見てますから! え、えっと、だからその……すっごくファンです!」
という事で僕は偶然にも憧れの有名人とダンジョン内で出会った事で滅茶苦茶興奮してしまい、そのせいでかなり語彙力が低下してしまったけど……それでもルリちゃんのファンだという事はしっかりと伝えていった。
という事で改めて、今目の前にいる女性はダンジョン配信をやっている有名ライバーの如月ルリちゃんという女の子だ。
今から1~2年くらい前に“現役JKが冒険者を初めてみた”というタイトルで配信を始めてから徐々に人気に火が付き、今ではチャンネル登録者数が200万人を突破してる凄すぎる女性ライバーだ。ちなみに今は高校三年生の18歳なはずだ。
「いやー、私がダンジョンライバーを始めた頃から知ってくれてるファンの子と会えるなんてすっごく嬉しいですよー! いつも配信とか動画を見てくれてありがとうございます!」
「は、はい! こ、こちらこそ凄く大好きな有名人に会えて感動してます! ……って、あれ? で、でもルリちゃんがダンジョン内にいるって事は……も、もしかして……今って配信中なんですかね?」
「あ、はい。そうですよ! 今もバッチリエンジョイ配信をしてる所です! ほら、あそこに自動ドローンがありますよね?」
「え……って、あぁ!? や、やっぱり!?」
僕は配信中だという事に気がづいて一瞬で顔が真っ青になっていった。だってこんな大人気なダンジョン配信者の画面に移り込むなんて……同じ配信者(元)としてかなりのマナー違反じゃないか。
こういうのは売名行為に当たるから絶対にやっちゃ駄目だって、つい最近も他の有名配信者さんに注意されたばっかりだというのに……!
「でもそれがどうかしたんですかね? あ、もしかして顔出しNGとかですかね? でもドローン撮影をしてる時には情報保護システムがあるので、一般人の方が撮影の中に映ってもモザイクが自動的にかかるようになってるから大丈夫ですよ?」
「あ、い、いえ、僕も一応配信者をしてた事があるので、そういうプライバシー的な問題は何もないので大丈夫です! と、というか逆に……え、えっと、すいません!! こんな僕みたいなゴミクズ配信者がルリちゃんの配信画面に移り込んじゃって本当にすいません!! ルリちゃんファンの皆様にもお目汚しさせてしまい本当にすいません!!」
「え……って、えっ? ど、どうしたんですか急に? そんな自分を卑下するような事を言うなんて? というかアナタも配信者をされてる方だったんですか? あはは、それじゃあアナタも同業者だったんですね!」
「あ、い、いえ、ちょっと前までそういう事をやっていたんですけど今はもう完全に引退しました。だ、だからその……チャンネル登録者稼ぎに移り込んだとか売名行為をしたかったとかそういうわけじゃなくて……ほ、本当に悲鳴がしたから来ただけなんです! だから視聴者の皆様も許してください! 今回はマナー違反しちゃって本当にすいませんでした!!」
そう言って僕はドローンの前に立ちながら深々とお辞儀をしていき、ルリちゃんの配信を見ている視聴者の皆に向けて全力で謝罪をしていった。
atagi:こんなよくわからない理由で謝罪されたの初めてだから笑っちゃった
ペコ:むしろルリちゃんを助けてくれてありがとう! アンタは英雄だよ!
haru:ってかよく見たら可愛い系の男の子だねー。お姉さんシンプルにこういう子は推せる。
杏樹:本当本当。声も可愛くて聞きやすいしね。あとリアクション芸も出来てるから面白そう。
kuro:確かに面白そうな配信主だな。チャンネル教えてくれたら見に行くよー
lim:ルリちゃん生きててくれて本当に良かったー! 少年のおかげや! ありがとー!
「あはは、そんな私とかリスナーの皆に謝罪なんてしないで大丈夫ですよ! ほら、というかむしろリスナーの皆だってアナタに感謝を伝えてきてくれてるからね! あ、とりあえず今見てくれてるリスナーのみんなー! 私は元気だから安心してね! でもちょっと傷の手当とか色々しなきゃいけないから一回配信切るよ! またあとで落ち着いたら報告配信するからそっちも見に来てねー! それじゃあ一旦お疲れ様!」
―― 如月ルリの配信は終了致しました。また次回の配信をお楽しみください。
そう言ってルリちゃんは配信を切っていった。とりあえずルリちゃんやリスナーの皆は全然怒ってないようで僕はホッと安堵していった。




