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20話:襲われてる冒険者を全力で助けていく

(確か悲鳴が聞こえたのは……あっちの方だ!)


 という事で僕は悲鳴が聞こえた方に向かって全速力で駆けだしていった。


 すると悲鳴の聞こえた方向に走っていくとその先はすぐに大部屋になっていた。そしてその大部屋で地面に倒れこんでいる一人の女性が見つける事が出来た。


「だ、大丈夫ですか!? 怪我をしたんですか!? 今すぐにそっちに向かいますね!」


 僕はそう言いながら急いでその倒れ込んでる女性の元に駆けつけようとしていった。するとその瞬間……。


「え……って、あっ! だ、駄目です!! 今こっちに来たら駄目っ!」

「え? って、うわっ!?」

「グギャアアアアアアアアアッッ!!」


 その大部屋の真上には大きな両翼を持つワイバーンが空高く舞い上がっていた。そしてワイバーンは倒れ込んでる女性を見ながら大きな咆哮を上げてきた。


(な、なんでワイバーンがこんな低階層にいるんだ!?)


 先ほどまでここら辺にはゴブリンやスライムといった下級モンスターしか存在していなかった。


 でもワイバーンは下級モンスターなんかでは決してない。ワイバーンの種類によって多少は違うけどそれでも基本的には上級モンスターの一種だ。


 だからこんな初心者向けダンジョンの低階層にワイバーンがいるのは流石におかしい気がするんだけど……。


「グルルルルルルゥ……グギャアアアアアッ!」

「ん?」


 僕はそんな事を冷静に考えていってると、その時ワイバーンも僕の事をギラっと睨みつけながら大きな咆哮をあげてきた。


 という事はこれでつまり僕はワイバーンに狙われてしまったという事になる。さてさて、この状況をどうやって切り抜けようかな……?


「……風刃魔法(ウインドカッター)!」

「……え?」

「ぐぎゃっ!?」


 すると唐突に地面に倒れていた女性がワイバーンに向かって風属性の下級攻撃魔法を放っていった。ワイバーンはその風魔法を食らって少しだけビックリとした反応を見せてきた。


 でもワイバーンはゴブリンやスライムなんかとは違って上級モンスターだ。だからそんな下級攻撃魔法を放った所でダメージなんか微々たるものしか入らない。というかむしろ……。


「グギュルルルルゥ……グギャアアアアアッッ!」

「っ!?」


 むしろ今の魔法攻撃のせいでワイバーンは一気に怒りだし、全ヘイトが僕にではなく倒れている女性の方に向かっていってしまった。


「な、何をしてるんですか!? 無暗に上級モンスターに魔法を放つなんて危険な行為ですよ!!」

「い、いえ、これでいいんです……私がこの魔物を引き付けておきますので……だ、だからアナタだけでも逃げてください……」

「な、何を言ってるんですか!? こんな事をしたらヘイトがアナタに全集中してしまうというのに……ア、アナタはそれでも逃げれるんですか!?」

「い、いえ……私は足はもう動かないんで……だからもう良いんです……」

「……え?」


 そう言われて僕は咄嗟に女性の足を見ていった。すると確かに女性の足はズタボロになっていた。着用していたブーツはズタズタに切り裂かれており、そこから見えてる素足から血が流れていっていた。


 おそらくワイバーンに噛まれたのか、切り裂かれたのかどちらかだろう。その足の状態を見ただけで凄く痛そうなのはわかる。それなのに……。


「だ、だからお願いです……私がこのワイバーンを引き付けておきますので、私に構わず逃げてください……もしも私が大きな声を出したせいでアナタも命を落とす事になったら……私、死んでも死にきれないですから……」

「グルルルル……グギャアアアアアッッ!」

「……」


 涙目になりながらその女性は僕に向かってそう言ってきた。僕はそんな女性の必死な様子を見て……。


(初対面の僕の事を案じて命がけで逃がそうとしてくれるなんて……この女性はすっごく心優しい人なんだろうね)


 そしてこんな心優しい人を見殺しにする事なんて僕には出来ないよ。


 だって僕はお婆ちゃんからいつも“困ってる人を助けてあげる心優しい大人になるんだよ”って言われて育ってきたんだ。だからここで怪我してる女性を見殺しにするわけにはいかないよ。だよね、お婆ちゃん!


爆炎魔法(ファイアブラスト)!」

「……えっ?」

「グ、グギャアアッ!?」


 だから僕はあの女性を助けるために全力で行動に移す事にした。僕は瞬時にワイバーンに目掛けて火属性の中級攻撃魔法を放っていった。


「グギャ、グ、グルルルル……!」


 するとワイバーンは痛そうな声をあげていきながらも、そのまま僕の方に全ヘイトが再び向き始めてきた。


「な、何をしてるんですか!? せ、せっかく今が逃げれるチャンスだったのに……」

「いや、逃げませんよ。アナタのような優しい人を見殺しになんて僕には出来ないですし、それに僕は冒険者になる前にお婆ちゃんと約束したんです。困ってる人がいたらちゃんと助けてあげれる心優しい大人になりなさいって」

「それは凄く素敵な思想だと思いますけど……で、でも相手はワイバーンなんですよ!? アナタ……というか君のような若い男の子が勝てるようなモンスターじゃな――」

「はは、それこそ大丈夫ですよ。だってワイバーンなんて……今までに何十体も倒してきましたので! だから何も心配しなくて大丈夫ですよ!」

「え……って、えぇっ!? わ、ワイバーンを何十体も倒してきたって!? き、君のような若い男の子が!?」


 僕の言葉を聞いて地面に倒れこんでいる女性は何故かビックリとした声をあげてきた。あれ、何か僕は変な事を言ったのかな? ま、別にいっか。


 それよりも今は目の前の凶暴化してるワイバーンをさっさと倒す事の方が先決だ。さてさて、どうやって倒していこうかな?


「グルルルルル……グギャアアアアアッ!!」


 ワイバーンは空高く舞い上がったまま僕に向かって大きな咆哮を上げてきた。どうやら魔法を食らってかなりブチギレているようだ。


「グギャアッ! グギャルァアアアアアッ!!」

「っ!? き、君!! 早く逃げて!!」


 そしてそのまま怒り状態のワイバーンは僕に目掛けて空から全速力で突進してきた。


 そのワイバーンの突進を見て地面に倒れ込んでいる女性の冒険者は僕の身を案じて、大きな声でそう言ってきてくれた。


 でも僕は逃げる動作は一切行わず、敵のワイバーンをじっくりと観察し続けていった。そして……。


「ふむ、なるほどね。このワイバーンの大きさと動きからしてまだレベルの低い個体種のようだね。まぁこれくらいのワイバーンだったら……」

「あ、危ないっ!! 逃げてー!!」

「グギャアアアアアッ――」


―― ザシュッ……


「グギャ……ガッ……ッ……」

「ま、これくらいの個体種なら一撃で倒せるよ」

「……ッ……」


―― ドサッ……


 僕は全力で突進してきたワイバーンの攻撃をさっと避けていき、そのまま僕は手に持っていた片手剣を使ってワイバーンの首を一撃ではね飛ばしていった。


 そうして首を無くしたワイバーンはそのまま力なく地面に崩れ落ちていったのであった。


「……え? って、え……?」


 そして地面に倒れ込んでいた女性は一連の流れを見てキョトンとした表情をしながら何とも気の抜けた声を出していった。

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