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19話:アストルフォを探索していると

 ダンジョン探索をしばらく続けていった後。


『……ふぅ。アストルフォについては事前に調べていた通り、ゴブリンやスライムなどの比較的低級モンスターが多いようです。あとは薬草が至る所に生えているので初心者冒険者にとっては嬉しいポイントの一つになるかもしれませんね』


『ダンジョン探索中にポーション薬が無くなったとしても薬草を使えばある程度は回復が出来ますし、調合をすればポーション薬を自分で作り出す事も可能です。なので初心者の間はダンジョン内に生えている薬草はなるべく集めていきましょうね』


『あとダンジョンの内部構造がそこまで複雑じゃないのも良いですね。これはマッピングの勉強に適してると思いますので初心者の方にはかなりオススメ出来るダンジョンだと思います!』


『あ、マッピングというのはダンジョンの地形把握の技術の事です。これについては以前動画で詳しく解説してますので良かったらそちらも確認してみてください! って、まぁもう冒険者の方は誰も見てないと思いますけどね。あはは……』


 いつの間にかお婆ちゃんにじゃなくて視聴者に向けて話している事に気が付いて僕は自虐気味に笑っていった。まぁやっぱり長い間やってたクセが今でも残っているという事だな。それにしても……。


(それにしても何だか言葉が全然つっかえたりとかしなくなったなぁ)


 撮影を始めた最初の瞬間は少し緊張したんだけど、でも今は全然普通にスルスルと話が出来ている。


 もしかしたら配信関連を辞めたからこそ逆に何も気負わずリラックスしながら喋れてるのかもしれないね。


 それと浅香のアドバイス通り今までずっと実況者として話す練習を頑張ってきた事で、喋る能力自体もそれなりに引き上がってきたんだと思う。


(うん、それじゃあやっぱり……僕が今までやってきた経験は全て無駄なんかじゃなかったって事だよね)


 僕はそんな事を思って嬉しくなってつい笑みを溢していった。配信者関連を辞める事になったのは悲しい事だけど、それでも僕のコンプレックスだったすぐに緊張してしまうというクセが治ってきたというのは嬉しい限りだからね。


 そしてせっかくだから僕はこの後もお婆ちゃんに向けてではなく、いつも通り視聴者に向けた口調でダンジョンについての解説をしながら探索を続けていってみる事にした。


『はい、そんなわけで一時間程アストルフォを探索してみたのですが、今の所は初心者向けのダンジョンといった印象です。まぁそうは言っても、どのダンジョンでも中階層から最深部までいくと大型モンスターやボスモンスターが出現する可能性が非常に高いです』


『なので初心者向けのダンジョンと言っても何も考えずに最深部まで突き進むのは絶対に止めておきましょうね。自分の力量に合わせた階層で探索を行うのが冒険者として長続きするコツですよ』


『あ、それと何かあった時のために“戻り石”を常に持っておく事をオススメします。えぇっと、はい、これが戻り石です』


 僕はそういってポーチの中から赤く輝く石を取り出していった。これはダンジョン専用のアイテムだ。


 その石を砕くとダンジョンの入口に一瞬で転移する事が出来るという消費型の脱出アイテムだ。危険なモンスターと遭遇した時にそれを咄嗟に使ってダンジョン前まで帰るという使い方が主な使用方法になっている。


『戻り石は冒険者ギルドで一個五万円で販売されています。かなり高価なアイテムですが、それでも自身の命を守るためには絶対に用意しておいた方が良いです。僕も必ず一個はバッグに入れていますので、皆様も是非ともこれを購入しておきましょうね』


 僕はそう言いながらポーチの中に戻り石を戻していった。そしてそのまま辺りをキョロキョロと見渡していった。


『うーん、それにしてもアストルフォは構造的に初心者向けになってるからなのか、人が全然いませんね。あ、そうだ。そういえば東京にあるダンジョンって全部で何個あるか知ってますか?』


『ふふ、実はなんと……東京には全部で30箇所もダンジョンがあるそうです! いや本当に凄いですよね! 僕が住んでる田舎の県だと全部でたったの5箇所しかないからすっごく羨ましいですよー!』


 そして僕は数日前に調べておいた東京ダンジョンについての知識も視聴者に向けて披露していってみた。まぁ何時間もかけて調べた事だし、せっかくなら喋っておきたいなと思って僕は楽しく語っていってみた。


 というか東京にダンジョンが30個もあるなんて本当に羨ましいよね。それだけダンジョンの数が多いと冒険のしがいがあるってものだ。冒険者をやってる僕としては本当に羨ましい限りだよ。


『あ、ちなみに東京ダンジョンで凄く有名なのは池袋にある“サンライズスポット”と新宿にある“ニューオリオンズ”というダンジョンです。そこは探索する冒険者が非常に多くて、さらに配信をしてる人も多いので毎日賑わっているそうです!』


『ま、僕は人が沢山いる所はちょっと緊張しちゃうと思ったので今回は行きませんでしたけどね。あはは、でもいつかは僕もその有名ダンジョンに行ってみたいものですねー……って、えっ?』


「……っ……っ……」


 そんな他愛無い雑談をしながら楽しく撮影を続けていると、急に遠くの方から何か声が聞こえてきた気がした。


『あれ? もしかしてこんな過疎ダンジョンに誰か他にも人がいるのかな?』


 僕はそう呟きながら、そっちの声が聞こえてきた方向に顔を向けていってみた。するとその瞬間……。


「きゃああああああああああっ!!」


『……えっ!?』


 するとその瞬間、僕が顔を向けた方角の方から凄く大きな悲鳴が聞こえてきた。どうやら女の人の悲鳴だ。


 こんな大きな悲鳴が聞こえてくるなんて思わなかったので、僕はビックリとしてしまいちょっと面を食らってしまった。


(だけどダンジョンの中でこんな大きな悲鳴が聞こえてくるなんて……えっ!? ま、まさかっ!?)


 僕はその時、最悪の事態を想像してしまった。もしかしたら……高レベルのモンスターに襲われてる冒険者がいるのかもしれない!


『っ!? こ、こんなの撮影してる場合じゃない! 今すぐに悲鳴が聞こえた方に向かわなきゃ!!』


 僕は動画撮影をしてる事は一旦横に置いておく事にして、悲鳴が聞こえた方にすぐさま向かってみる事にした。

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