100話:決着
この剣の名前は“宝炎剣プロメテウス”という。かなり昔に先輩である爺様冒険者と一緒に冒険をしていた時に僕の事を一人前の冒険者として認めてくれた時に譲り受けた最上級の火属性の武器だ。
「グギャア、グギャアアアアアアアアアッッ!!」
僕がその宝炎剣を手にしたのを見てキングワイバーンはすぐに大きな雄たけびを上げてきた。そして僕にはその雄たけびは何だか笑っているようにも感じた。
“そのようなちっぽけな剣を構えた所でこの金煉石の身体が負けるわけない!”
まるでそんな事を言ってるかのような笑い声に僕は感じた。でもそんなの笑われて当然だ。だって普通に考えてこんな硬い鉱物に変化していったボスモンスター相手に剣戟が通用するわけがない。
だから僕がただの剣を出した所でキングワイバーンはおかしくて笑うのは当たり前だ。だけどそんなの気にしない。笑いたければ笑ってくれれば良いさ。でも最後に勝つのは……僕だ。
「……ふぅ、魔力蓄積」
―― ポワッ……
僕は手に握りしめているその剣に力を込めながら魔力蓄積魔法を施していった。この魔法は自身の身体に蓄えられている魔力を全て別の対象や武器に移し替えるという効果だ。
この魔力蓄積魔法の発動によって僕の身体を包みこんでいた蒼炎は瞬く間に消えていき、さらに身体に蓄えていた魔力も一気に無くなっていく感覚に陥った。
しかしその代わりに僕の握りしめている剣からは淡い光が灯り始めていき……そしてその光はどんどんと明るく眩くなっていった。
「これで僕の戦う準備は完了したよ。さぁ、僕は逃げも隠れもしないから……いつでもかかって来なよ!」
「グルル……グルルルッ! ググギャアアアアアアアアアッッ!!」
「っ!? ユウ君!! 危ない!!」
―― ビュンッッ!!
大きな唸り声と共に金煉石に変化したキングワイバーンは地上にいる僕に目掛けて直滑降で突撃してきた。そしてそれは先ほどなんかとは比べ物にならない程の超高速の突撃だった。
「……うん、これは恐ろしい攻撃だね……確かにこんなにも超硬化しているボスモンスターの突撃なんて……僕の剣戟なんかで防げるわけがないよ……でもさ……」
僕は超高速で突撃してくるキングワイバーンを返り討ちにするべく、手に握りしめている剣を大きく振り被る!! ……なんて事は一切せずに、僕は大胆不敵に笑いながら剣の切っ先をキングワイバーンの方に向けていった。
「これがただの剣だったら君の予想通り僕に勝ち目なんて絶対に無かったよ。はは、でもごめんね……実はこの武器さ……“剣”じゃなくて“杖”なんだよ! それじゃあいくぞ! 炎の女神よ、我に力をっ!」
―― ゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴッッ!
「グ、グギャッ……? グ……グルギャアアアアアアッ!!」
そう、実はこの武器は見た目はただの剣にしか見えないのだけど……でも実際には剣ではなくて魔法攻撃を増幅させるための杖武器なんだ。
という事で僕がそう唱え始めた瞬間、ダンジョンの地面から大きな地響きが鳴り始めた。キングワイバーンはその地響きに気が付いたようで一瞬だけ止まった。
「グ……グギャアアアアアアッッ!!」
―― ビュンッッ!!
それでもキングワイバーンはその地響きによる危険性はないと踏んで、再度僕に目掛けて全速力で突撃をしてきた。でもその一瞬の隙があまりにもデカすぎた。僕は不敵な笑みを浮かべながらキングワイバーンにこう言ってやった。
「グギャアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「いやもう遅いよ……ふぅ、我に炎の加護をっ! 火属性最上級魔法発動! 獄炎の渦!!」
「グギャアアア……ア? グルギャアア、グ、グギャッ!?」
―― ゴゴッ、ゴゴゴッ、ゴゴォォォオオオオオオオオッッ!!
その刹那、地響きが続いていた地面からは大きな五本の炎柱が出現した。そしてそれらの炎柱は瞬く間に組み合わさっていき一つの巨大な獄炎の渦へと変貌していった。その獄炎の渦の大きさはキングワイバーンの身体と同じくらいの大きさもあった。
「僕の魔力を全てつぎ込んでいった最上級魔法……受けていってみろ!!」
「グ、グギャッ!? ググギャアアアアアアアア!!」
―― ゴゴゴッ、ゴゴォォォオオオオオオオオオオオッッ!!
そしてその獄炎の渦はキングワイバーンに目掛けて突撃していった。巨大な獄炎の渦の攻撃をモロにを受けたキングワイバーンは大きな声を上げながら悶え始めていった。
金煉石状態にも関わらず鱗や皮膚がどんどんと燃え落ちていっており、かなりのダメージが入っているようだ。しかしそれでもまだ……。
「グ、グギャッ!? グギャアアアアアッ……グ、グググッ……グギャアアアアアッ!!」
「なっ!? こ、こいつ……まだ余力が残っているのか……!」
僕の全身全霊の最上級魔法である獄炎の渦の攻撃を受けているにも関わらず、それでもキングワイバーンは僕の方に目掛けて突撃をしようとしてきていた。
もうキングワイバーンの全身はどんどんと焼け落ちていきボロボロな姿になっているというのに、それでもまだ闘志は失われずに獄炎の渦の流れに逆らって僕に向かって突撃してこようとしていた。
そして僕も獄炎の渦を発動するために自身の魔力を全て杖に注ぎ込んでしまっている。そのため強化魔法を打つ魔力が残っておらずキングワイバーンを押し返す力が不足してしまっていた。くそ……あと少しで倒せるはずなのに……。
「ぐ、ぐぐっ……! あ、と少しで倒せるはず……なのに……ぐ、ぐぐっ……」
「ググ……ググッ……グ、グギャアアアアアッ!!」
キングワイバーンは獄炎の渦に巻き込まれながらも、その流れに逆らってゆっくりと僕に近づいてきて、ついに僕の喉元を狙える位置までやって来てしまった。しかしその瞬間……。
「……大丈夫だよユウ君……汝に風の祝福を、上級魔法起動……風属性・身体超強化……!」
「ぐぐ……って、えっ? こ、これは……!?」
「グギャッ!?」
―― ポワッ……!
しかしその瞬間……蒼炎の身体強化を失った僕の元に、ルリさんの呼び起こした一陣の風が僕の身体を優しく包み込んできた。
「ふ、ふふ……この一ヶ月間……私が頑張って修行して覚える事が出来た……とっておきのバフ魔法だ、よ……! だから……だからこれで……これでやっちゃえーー! ユウ君っーー!」
「ルリさん……はい、ありがとうございます! それじゃあこれで最後だ! 行くぞっ! 前進せよ、獄炎の渦よ!」
「グ、グギャッ!? グギャアアアアアアアアアアアアッ!?」
―― ゴォォォオオオオオオオオォオッッ!!
ルリさんが強化バフを施してくれた事で僕の操っている獄炎の渦はさらにもう一回り巨大になっていき、その巨大化した獄炎の渦はキングワイバーンの身体を瞬時に飲み込んでいった。
「グギャッ……グギャ……ッ……」
巨大化した獄炎の渦に飲み込まれたキングワイバーンは一瞬だけ声を上げたようにも聞こえたが……しかしその巨大化した獄炎の渦によってキングワイバーンは一瞬の内に骨も残さず全てを灰に燃やし尽くされてしまった。
―― ゴゴオオオオオッ……オオッ……オッ……ッ……
それから数秒後には空に放たれた獄炎の渦も完全に消えてしまい辺りはシンッ……と静まり返っていった。そして空からはキングワイバーンの灰だけが静かにポトポトと地面に降り落ちていった。
僕はその降り落ちてきた灰を手に取りながらポツリとこう呟いた。
「……はは、本当に凄く強敵だったよ。それじゃあ……またいつか会おうね」
先ほどまでキングワイバーンが“存在”していたはずの大きな空を見上げながら僕はそうポツリと呟いていった。




