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75 大晦日

 告白されてお付き合いを始めました。うん、始めたはずなんですが・・・・・・時に何も変化が無いっかな?


 平日のクリスマスイブでしたし、翌日のクリスマス当日も平日でした。その為、大学は普通にあるので当たり前に登校しました。ただ、そこはやっぱり大学で藤巻君と顔を合わせたらどんな顔をすれば良いのかとか、呼び方は今まで通り藤巻君で良いのかなど、それこそ色んな事を悩んでいたんです。


 そして、講義室で藤巻君と顔を合わせたんですが、今までと何ら変わる事無く普通に挨拶をされました。


「鈴木さんおはよう」


「あ、お、おはよう。今日も寒いね」


 色々と考えすぎてしまっていた為に、思わずどもっちゃいました。藤巻君はそんな私の様子に気が付いていないのか、普通に話しかけて来ます。


「はあ。まあ、そんな感じかなって思ってました。二人ともハッキリ言って変!」


 私と一緒の車で通学している中村さんが溜息を吐きます。ただですね、お付き合い始めたからと言ってあからさまに態度が変わるのも変ですよね? それに、何か気恥ずかしいじゃ無いですか。いつもより私に視線を向ける回数も多い気がするし、藤巻君もそんな感じだと思います。


「変って言われても、ねえ」


「そうだなあ。具体性が無くて判りにくい」


 藤巻君も返事をしてくれますが、そもそも具体的な例などあるのでしょうか? 見るからに付き合ってますって感じの挙動は流石に出来ませんよ? もう24歳になりますし、恥の概念は実装されています。


「はあ。ほら、せめて名前で呼び合うとか、何かあるでしょ?」


 何か当事者達以上にテンションが高い中村さんですが、その要求は私にとってはハードルが高いですね。


「うん、無理? 何か照れくさいですし、変に周りにアピールしているみたいで」


「そういう物は何かしらの切っ掛けで変わるものだろう。無理にするのはいかがなものだろうか?」


「付き合い始めが切っ掛けでしょうが!」


 中村さんが何かいきり立っているみたいです。そんな中村さんですが、いざ自分の番になると途端に尻込みしそうな気がします。


 それでも、すでに年末が目の前という事で藤巻君とは一緒に初詣に出かける事にしました。藤巻君自体も本来は年末年始は実家が忙しく手伝わないとらしいのですが、今年は国試も有るという事で帰省せずに名古屋で過ごすそうです。


「実家は騒がしくて勉強できないからね」


「でも、親戚が多く集まるならお年玉とか貰えるんじゃない?」


 親族が少なくお年玉が余り貰えない子供時代を過ごして来た身としては、大勢が集まるお正月という物にちょっと憧れがあったりする。


「おじさん連中はお酒で酔っぱらって、おばさん達は変に殺気立ってる。年下の従兄とか、従兄の子供とかが騒ぐし、あれは地獄かな」


 思いっきり視線が中空を彷徨っていますね。余程、トラウマに近い何かしらがありそうです。


「私も実家に帰るなんて考えられないから、鈴木さんの家にお呼ばれしてる。お節やお雑煮食べにいらっしゃいって言われてるから、藤巻君、ごめんね~」


 中村さん、思いっきり笑顔ですね。その笑顔からは邪気しか感じられません。


「何だったら藤巻君もお正月家に来る? 玩具にされる姿しか浮かばないから、あまりお勧めはしないけど」


 私達を見て少し考え込んだ藤巻君でしたが、小さく溜息を吐いた後に丁寧にお断りされました。まあ、間違いなく勉強は出来ないですからね。


 そして、あっという間にお正月が来ました。まあ、毎年少しずつ変わっていくお正月。

 今年のお姉ちゃんと美穂さんは年末年始は当直で出勤です。やはり家庭持ちの人達は年末年始を休みたいでしょうし、研修医の人達は何となく年末年始は出勤して欲しいなっていう空気が流れるそうです。


 例年、31日の大晦日はお正月の買い出しと年越しそばの用意。デパートで年越しそば用の大海老の天婦羅を人数分、あとお昼用の天むす、お正月用に花びら餅や生菓子を買って帰ります。朝一番に並ぶんですが、景気など関係なく凄い人ですね。


「朝、お節は食べてから出かけるの?」


「うん、待ち合わせは10時だから、お節もお雑煮も食べたい。それに中村さんが来るでしょ? 一人放置は可哀そうだし」


「あら、そんな事は無いわよ? お母さんは良子ちゃんと大の仲良しよ?」


 そう言って笑うお母さんと一緒に、買い物袋を手に駐車場へと向かいます。


 年末年始で何かとバタバタするけど、そんな中でも警備会社からはちゃんと運転手さんが派遣されています。今日はいつもの三島さんではなく福田さんというおじさんです。この人も定年後に再就職した元警察官ですが三島さんと比べるとすっごく真面目さんです。


 駐車場で待機していた福田さんが、私達に気が付いて運転手さんの待機場所から足早に車にやって来ました。そして、車に荷物を積んだら一路家へと向かいます。ただ、車だとものの10分くらいで到着しちゃいますが。


「福田さんはお正月の用意は終わってるの?」


「そこは妻に任せていますので。子供達も自立しているので、まあする事もあまりありませんし」


 まあ、お子さん達が家を出てしまうとそんな物かもしれませんね。最近ではお節料理なんかもお店やデパートなどで頼む人が多いと思います。


「夫婦二人だけだとそんな物かもしれませんわね。子供や孫が集まるとか以外はのんびりしたいもの」


「そうですなあ。まあ、孫のお年玉代くらいはお陰様で稼がせて頂いております」


 本気なのか冗談なのか良く解りませんが、真顔でそんな事を言う福田さんです。


 車が出発して、私とお母さんは今年のお正月の事を話し合います。特に例年は寝正月で過ごす私ですが、藤巻君と初詣に行く為に気持ちが若干忙しいです。


「ふふふ、でも日和もついに恋人と初詣に行くようになったのね。なんか感慨深いわ」


「まだ恋人じゃ無いからね! お試し期間だし、まだどうなるか判らないから!」


 それこそ、立場が変われば色々と変わっていくと思う。だから今はお試し期間。今後どうなるかは今の処未定です。


「それでも嬉しいわ。前にも言ったけど日和には幸せな家庭を築いて欲しいし、その為にはまず結婚しないとでしょ? 藤巻君が良い子だといいわねえ」


「うん。ちょっと人付き合いが苦手なタイプっぽいから、付き合いだしてからの距離感とかはちょっと不安がある。あ、でも、そうすると花びら餅とか買ったけど肝心のお抹茶点てる人が今年はいないね!」


 若干強引に話を切り替えます。ここで色々と話してても、私的には不安だけが降り積もりそうだし。


「あら、お母さんが点てるわよ。お父さんと良子ちゃんで先に楽しんでおくわ」


 ちょっと苦笑っぽい表情を浮かべながらお母さんは答えてくれる。


 我が家では元旦の午後3時くらいにお抹茶と花びら餅を頂きます。特にお茶を習った事は無いんだけど、お母さんがお免状を持ってるので教えて貰って何となく毎年そんな感じになります。


 前世のお姉ちゃんはお茶を習いに行ってたけど、今生では時間的余裕が無かったので行かずじまいだった。それでも、前世で身に付いた所作は覚えているので、ここ最近はお姉ちゃんがお薄を点てます。でも、キッチンでお湯を沸かして、テーブルで頂くので邪道なんだろうけどね。


「お父さんと二人だけのお正月なんて何時ぶりかしら? でも、これからはそんな時間が増えていくのね」


「うん。でも、お姉ちゃん達もお隣だし、中村さんもいるから暫くは賑やかのままだと思うよ」


「そうね。まさか家を出たあの子がお隣に住むようになるなんて、面白いわね。」


 大学進学と共に家を出て美穂さんとルームシェアを始めたお姉ちゃん。大学を卒業しても実家に戻る事無く勤務先の近くで一人暮らしでも始める物だと思っていた。それが紆余曲折の末にお隣同士となり、もともと親子関係も悪い訳では無い為に交流は増えていく。


「普通に我が家で食事していくからね」


「大所帯になって楽しいわ」


 家族だけでなく、今では美穂さんと中村さんもいる。そう考えれば環境は毎年確かに変わっていっている。


「ねえ、そろそろお祖母ちゃんも一緒に暮らさない? 私も卒業するし」


「そうねえ。年始に行った時に頑張って説得しましょうか」


 母方の祖母は、毎日家政婦さんが来てくれているお陰で前世の享年を過ぎても元気にしていてくれる。ただ、年相応に健康面では問題が出始めている。それでも、健康の秘訣は毎日畑仕事をしているからだと言われると中々に止めさせ辛い。


「やる事がなくなると一気に衰えたり、呆けたりしそうだから。其処だけが心配なんだよね」


「今は気の知れた人達もいるから寂しくないみたいだし、中々説得は難しそうよね」


 何と言ってもお爺ちゃんが亡くなってからずっと一人暮らしをしてきたお祖母ちゃんだ。一人で寂しいと言う思いも無いではないみたいだけど、それ以上に誰かと一緒にいる方が気疲れするらしい。


「程々に会いに来てくれれば嬉しいわな。まあ、一人で気ままに生きとるで心配せんで良いよ。今更、新しい場所で暮らすんも面倒でいかん」


 今までに幾度も一緒に暮らす事を提案してきた。そして毎回同じことを言われて断られている。

 断りの言葉を述べるお祖母ちゃんの表情からは、決して強がりでは無く一人で生きて来た女の強さのような物を感じる。


 家族としてはやっぱり心配なんだよね。


 何時も一緒に居れば良いという物ではないだろう。一緒にいる時間が増えれば、逆に嫌な面だって見えて来るかもしれない。数日だったら気にしない事も、毎日となれば我慢できないかもしれない。そうであっても、家族として一緒に暮らしたいと思うし、高齢な祖母を一人暮らしさせる事に不安がある。


「卒業したら、やっぱり一人暮らししようかな」


「そうねぇ。日和がそれで良いなら任せるわ。精神年齢を考えれば心配するのも変でしょ?」


「精神年齢が体に引っ張られてる気はするけど、それでももう24歳だからね」


 何時までも親と同居も無いだろうし、経済的にも自立は余裕で可能だ。それこそ中村さんと同じようにこのマンションの1LDKに住むのも良いと思う。色々な面で住む所は慎重に選ばないと駄目だろう。


「4月からマンションの空き有ったっけ?」


「さあ、どうかしら?」


 そんな事を話しながら無事に帰宅した。

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― 新着の感想 ―
お婆ちゃんも同居できればいいんですがね。 でも農作業やってて健康なら、やめさせて一気に老け込む可能性もありますし、難しい所ですね。 本文でも言われてましたが、中村さんは実際付き合うとヘタレそうw
【中村さんが何かいきり立っているみたいです。そんな中村さんですが、いざ自分の番になると途端に尻込みしそうな気がします。】 ここすごい好きです。納得しかない
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