74 何故か始まる報告会?
藤巻君に告白され、お付き合いする事になりました。
告白されても即答が出来なかったんですが、その後に藤巻君と色々と話をしまして、まずはお試し期間と相成りました。
「結婚した自分って想像できなかったし、お母さんみたいに家の中の事出来るか自信ないし。ほら、私って一人でいる方が楽なタイプでしょ? 誰かが常に一緒にいて耐えられるか判んなくて」
結婚して早々に離婚する人ってそれなりに居るじゃ無いですか。あれって、相手の嫌な面が見えるだけじゃなく、プライベートな部分が制限される苦痛とかもあると思うんです。
「確かに日和ってそういう所があるかあ。用事が終わるとさっさと自分の部屋に戻っちゃうし、手持無沙汰の状態でリビングにいるとかあんまり無いよね」
「そうねぇ。昔から部屋に籠って本を読んでるわね」
私の発言にお姉ちゃんとお母さんが同意します。流石は我が家族ですね。ただ、これでも前世よりはましになっているんですが。
「それだけじゃなくって、ほら、結婚した途端に態度が変わった人とか、付き合い始めたら嫌な所が見え始めて結局別れたとか聞くでしょ? DVとかモラハラとか、前世で何人か結婚失敗した人もいたから慎重に?」
藤巻君にタクシーで家まで送って貰い、家に帰ったところでお母さん達だけでなく中村さんまで待ち構えていました。みんなのお目当ては勿論私のデートについてで、帰った早々に質問攻めに遭います。
「まあ、日和としたら上出来かしら? 相手の子も誠実そうだし無事に国家試験を通れば生活も安定するでしょ?」
まあ、今までに幾度も藤巻君の話題は出してますし、悪い子では無い事は理解していると思います。だからお母さんからの点数も比較的甘めで、それ以上に心配していた娘が漸く結婚しそうという喜びの方が強かったりする。
「でも、クリスマスに焼肉行く? ムードの欠片も無いよね?」
「そこはほら。自分の行き慣れた所の方が心理的に楽なのとかあるよね? 美味しかったし、私は気にならなかったよ」
お姉ちゃんの言葉に慌ててフォローを入れると、どうやらそれは逆効果だったみたいでニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべて私を見ます。
「お~~~、さっそくフォロー入れるなんて熱いねぇ。日和も満更じゃ無かったって事かあ」
「結婚前提で付き合う事になったんだし、日和ちゃんだって嫌だったらそもそも食事だって断ってたって。いいなあ、青春してるなあ」
お姉ちゃんだけでなく美穂さんまで思いっきり煽ってきました。
「もう! 何言ってもダメじゃん! いい加減にしてよ~~~!」
こんな状況に慣れていない為、私は顔を真っ赤にして反論や説明を続けています。
「でも、そっかあ。鈴木さんも彼氏持ちかあ。いいなあ」
中村さんが私の事を見て、そんな感想を述べてくれました。今の状況でそんな事を口にしたら、それこそ攻撃の的になるのは目に見えていますよね?
うん、中村さんありがとうございます!
「え? なに? 中村さん彼氏欲しいの? 良さそうなの紹介しようか?」
ほら、美穂さんの目が爛爛と輝いていますよ? それこそ、親族関係で医学部女子の人気は暴騰していますから。
「え? あ、一般論です! やっぱり恋人って欲しいですよね? よくクリスマスになるとカップルが出来やすいって言いますけど、クリスマスに恋人と過ごすってロマンがありません?」
「ドラマとかで夜景を見ながら恋人とシャンパンをとかは見るわね。良子ちゃんはロマンチストねぇ。それに比べて・・・・・・」
お母さんが中村さんを優しい眼差しで見つめ、その後、何か駄目な子を見るようにお姉ちゃんと美穂さんを見ます。その視線に耐え切れず? お姉ちゃん達が何やら反論を始めました。
「ちょっとお母さん! それ酷い風評被害だよ! 私達だってそれなりに結婚について考えてるって。でもほらそれこそ一生の事だし、慎重に相手を選んでるの! 失敗したくないでしょ? ね、美穂」
「そうそう、やっぱり私達に釣り合うだけの相手じゃないと周りも納得しないと思うよね? 何と言っても私達って高嶺の花でしょ? そこはやっぱりだよね?」
うん、今まで春の欠片も感じられなかった私が、ここで変な事を言う訳にはいかないです。それでもですね、思いっきり独身街道まっしぐらになりそうな気がします?
「はあ。良子ちゃん、こんな風になっちゃ駄目よ? 高望みしている内に優良物件はどんどんと減っていくのに何を言ってるのかしら。それに高嶺の花でも時間が過ぎれば枯れるんですからね?」
「「酷!」」
うん、何のコントを見ているのでしょうか? そんな事を考えて見ていたのが悪いのでしょうか、お姉ちゃんが私を見て思いっきりヘッドロックしてきました。
「なにかなあ? 我が愛しの妹ちゃんは勝者の余裕をかましてくれちゃってます? つい昨日までは同類だったのに、姉妹の絆って何って脆いのかなあ」
「ちょっと! お姉ちゃん真面目に痛いよ! ちょっと!」
お姉ちゃんの腕をパタパタとタップするんですが、中々力が緩みません。そんな状況で美穂さんが私の傍に来て脇腹をくすぐり始めます。
「ちょ! まって! 美穂さん! ちょっと!」
「ムフフ~~~、そんな悪い子にはお仕置きがいるかな? 独身連合を裏切った代償は大きいぞ~」
「そんな連合に入った覚えないです!」
わちゃわちゃと大騒ぎしている私達を他所に、お母さんは中村さん相手に何やらお説教してました。
「良子ちゃん、良い? だからと言ってこれだって思った男の人が居ても直ぐに飛びつくのは駄目なのよ? 今まで生きて来た何倍もの時間を一緒に過ごす事になるんだから、慎重に慎重を重ねても足りないくらいなんだから。相手のちょっとした事でも、気になったらしっかりと見極めるのよ? やっぱり恋愛中は盲目になりやすいですからね」
中村さんはお母さんの話を真剣に聞いていますが、先程お姉ちゃん達に言った話と矛盾していませんか? それに、中村さんも真剣に聞きすぎです!
「お母さん! 中村さんに何を吹き込んでるの! 中村さんも真剣に聞かないで!」
「え? でも、やっぱり相手選びは気を付けないと? ほら、最近は離婚率も上がって来てるみたいだし、そこは慎重な方が良いかなって。それに、私って相手からしても条件が悪いし、近づいてくる人には気を付けないとだから」
これは中村さんが良く言う事なんですが、やはり借金をしてますからね。奨学金などとは違い、返済に遅れたとしても不可抗力であれば騒ぐつもりは無いのですが、借りている本人としてはやっぱり気になりますよね。
ただ、中村さんが投資した株でその借金を上回る利益が出る予定ではあるのですが、そこを保証する根拠って言えませんからね。
「あら、それくらい良い踏み絵くらいに考えればよいのよ。リスク以上に良子ちゃんの事を思ってくれる人を探しなさい。医者だからお金持ちって考えるような悪い男に引っかかっちゃ駄目よ? あと、自分がお金持ちだってやたらとアピールする男も要注意ね。そういう男に限って実は借金まみれだったりするわ」
お母さんの変に具体的な話に、お姉ちゃんの腕が緩みました。その隙にヘッドロックから脱出できたのは良いのですが、私達の視線はお母さんへと注がれました。
「お母さん、何か例えが具体的すぎない? 何かあった?」
お姉ちゃんが心配するのも良く解ります。
今のお母さんはお金を持ってますし、下手すると変な男に引っかかっても可笑しくない? ほら、ホストに嵌ってとか聞きますよね。
「あら? いやあねぇ。あなた達何を心配しているの? 一般論よ一般論。ほら、心に余裕がない時こそ色々と気を付けないと駄目でしょ? 変な男とか、それこそ宗教とか。良子ちゃんは貴方達と違って擦れてないからコロッと騙されちゃいそうで心配でしょ?」
「貴方達って、あの、私まで巻き込まれるのは不服なんですけど」
「一番毒もってそうな人が何言ってるのよ!」
お母さんの説明に美穂さんが抗議します。ただ、そこにお姉ちゃんが異論を唱えました。ただ、何となくお母さんのいう事も理解できなくはない?
「美穂さんはお姉ちゃんと同類だと思う。でも、私を混ぜないで欲しいかな。私はお姉ちゃん達と違って陰キャでコミュ障だからお母さんの心配には当て嵌まらない?」
何もなければ家でゴロゴロするのが好きな私ですから、陽キャの思いっきりアクティブなお姉ちゃん達二人とは存在其の物が違いますよね?
「何言ってるのよ。貴方みたいなのが一番危ないのよ? 男慣れしていないからコロッと騙されるわね」
「酷い!」
お母さんの言葉に反論する私ですが、お姉ちゃんのみならず美穂さんまで大きく頷きます。
「まあ、冗談は其処までにして日和も中村さんもまずは国家試験に集中する事! 国家試験に受からなければもう一年国試浪人だからね! 地獄の一年になるよ!」
「だね。国試に集中する為に日和ちゃんに告白したって部分もあると思うし。付き合うにしろ、振られるにしろ、集中は出来る様になるだろうから」
中々に美穂さんはドライな判断をします。ただ、藤巻君もチラッと似たような事を言っていたので、間違いでは無いんだろう。
「これからの約3か月が今までの集大成ね。二人とも頑張りなさい」
お母さんの激励で今回の報告会? は閉会となりました。お姉ちゃん達か帰った後、何となくお母さんと二人で雑談タイムへと入りました。
「もう。まさかお姉ちゃん達まで待ち構えてるとは思わなかった」
お母さんは私の発言を聞いて笑い出します。
「馬鹿ねぇ。日向が待ち構えているのくらい判ってたでしょ? あの子すっごく過保護じゃない。もし娘でも出来たら大変でしょうね」
「それ、全然笑えないからね!」
前世の事を知っているだけに、本当に笑えない。勿論、お母さんも小春ちゃんの事はしっているけど、それはあくまで知識で知っているだけ。前からそうだったけど実際に会ったことも無い孫の事を言われてもピンと来ていない。
「早く小春ちゃんに会いたいわねぇ」
「多分、お姉ちゃんだって30前には結婚すると思うよ? 言わなかったけど、お付き合い寸前の人はいるみたいだし」
ただ、クリスマスイブに美穂さんといる段階で厳しいのだろうか? 美穂さん情報ではお付き合い秒読み段階って言ってたんだけどなあ。
「あ、それ、何か駄目になったみたいよ? 何かご両親の病院を引き継ぐから同居が当たり前みたいな事を言われたみたい。あと、本人よりご両親の方が主張が強くて、その事に全然疑問を持たない人だったみたいね」
「あ~~~、何となく想像できるけど、美穂さんも紹介する人を考えて欲しいかも」
お母さんの話では、全体的に自己主張が無いタイプだったとの事。容姿は一応合格点だったらしいけどね。前世で痛い目にあっているから容姿だけで選ぶことは無いけど、それでも良いに越したことはないですよね。
「日和は慎重だから大丈夫だと思うけど、お付き合いする前に藤巻君のご家族とも会っておきなさい。結婚は個人同士じゃ無くお互いの家族同士の結びつきでもあるわよ? お母さんみたいな失敗はしたくないでしょ?」
「うん、そこは良く解る」
そこで自虐的な発言をするお母さんだけど、お父さんの方の親族で苦労しているのは良く解っているから頷く事しか出来ません。その後、何故か雑談を交えながらお母さんの苦労話を聞かされたんだけど、教訓としてとらえれば良いのでしょうか?




