66 時間はあっという間に過ぎちゃいます
時間の流れは速いもので、あっという間に一月が過ぎ去ろうとしています。
ゴールデンウィークには松田さんとみどりちゃんに会って一緒に遊んだりと有意義な時間を過ごしてはいるんですが、来月から始まる臨床研修先の病院マッチングが始まります。
これから行われる実技試験なども気になりますが、臨床研修医として働く先とのマッチングもやはり気になるところです。5年生の時にいくつか病院見学も終わらせていたので既に第一希望は絞ってあるのですが、採用して貰えるかは面接次第? まあ前世を含めると精神年齢もあれですし、就職活動も経験しているのでその経験が少しでもプラスに働いてくれる事を願います。
「でも、鈴木さんが希望している病院ってお姉さんが務めている所だよね? もう採用決まったような物なんじゃない?」
「そんなに簡単なら良いんだけどなあ。このまま大学病院でもって思ったんだけど、成績的に厳しそうだから」
お姉ちゃんからも病院の事を色々と教えて貰っています。どちらかと言うと中々に忙しい部類の病院なんだそうですが、経験値を積むならこれくらいじゃないとって言ってました。本音で言うと棚田医大の病院を希望したい処なんですが、成績順に選ばれちゃうと私の希望する処は枠は全然空いてないんです。
「産婦人科とかは避けたいもんね」
「リスクとか考えるとちょっとね。内科と小児科、整形外科で悩んでる」
内科は何と言っても必須です。個人で将来独立を考えると内科の診療は必要です。そこに小児科もって考えてはいるんですが、此処に来て整形外科という選択肢が出てきてですね。
「整形? あ、今後高齢者が増えるから?」
「それもあるけど、それ以上に両親が年を取った時の世話?」
「それなら内科と老人科が良くない?」
うん、目的を考えると何を専門に選ぶかで悩みが出てきます。まだ誰にも言ってないけど、老人ホームを併設とかも良いかもですよね? お金は何とかなりますし、介護を考えると有りな気がします。
そんな先の事を話しながら、何故か夏休みの話になりました。何と言っても学生時代最後の夏休みです。思いっきり堪能する為に、今から色々と計画をしていたり? 先日高校時代のメンバーと会った時に、大体の旅行先も決めました。あと、それ以外にも中村さんを含め大学時代に親しくなったメンバーで何処か遊びに行く予定。
「流石に、海外旅行は無理だけどね」
「3泊か4泊なら行けたんじゃないですか?」
色々なプレッシャーと戦いながら、私と中村さんはほぼ毎日時間が有ると自習室に集まって勉強しています。まあ、私たち以外にも藤巻君や、坂崎君他同期の何名かは同様に自習室で勉強していますが。
「俺達も旅行に行くんだ。やっぱり夏と言えば沖縄だからさ。鈴木さん達は何処へ行くの?」
「え? ネズミーランドとネズミーシーかな?」
「え? ネズミーランド、そっかあ。まあ、女の子だしね!」
坂崎君がちょっと不思議そうな表情を浮かべますが、直ぐに表情を切り替えて笑顔を浮かべました。でも、何か変だったかな? 3泊4日のネズミーランド満喫ツアーですよ? 内容も結構贅沢です。
まず初日は時間的な事もあって横浜の中華街へ行きます。そこで中華街を満喫して明日への英気を養います。そして、遂に二日目に遂に目的のネズミーランドへ。そして此処で更に一泊、三日目はネズミーシーを朝から体力が続く限り回って更に一泊。4日目は無理せずゆっくり名古屋へと帰るんです。
ちなみに、皐月とは中華街で合流し、その後、一緒に名古屋まで帰る予定。実際は様々な要素で予定が狂う可能性はありますが、そこは覚悟の上? 流石にお盆前後くらいは余裕はありますよね?
「私も聞いたけど、中々に贅沢な旅行だよ? 私も行きたいなって思ったけど、私は私で高校時代の友達と京都行く予定を組んじゃったんだよね。既に社会人になってる子もいるから、やっぱりお盆期間しか時間が取れなくて」
「だよね! 無事に卒業できて免許がとれても、自由になる時間があるかは判らないよね? お盆期間でも関係なしに当直とかありそうだし、そもそも患者さんは休みに関係なく入院してる?」
個人病院なら兎も角、総合病院などにはお盆休みは基本的には無いですからね。私が研修予定の病院は、救急外来もあるしお盆関係なく交代でお休みを取るらしい。ただ、そこは家族持ちの人が優先となるらしく、独身者はお盆をずらしてお休みを取るのが暗黙の了解みたいに言ってました。
私と中村さんの盛り上がりに対し、目の前にいる坂崎君と藤巻君は何とも生暖かい眼差しをくれるじゃないですか!
「なんですか? 女の子にとってネズミーランドはそれこそ夢の国なんです!」
「そうですよ! 外国行くより全然楽しいです!」
中村さんも参戦し私を援護してくれますが、そこで坂崎君がニヤニヤと笑い始めました。
「なんですか?」
思わず攻撃的に尋ねると、坂崎君が思いもしなかった言葉を口にしました。
「中村さんって、確か高校時代にアメリカにホームステーに行ったよね? 本場のネズミーランドが凄かったって前に言ってなかった?」
「な! なんと!」
予想もしていない攻撃に、私は思わず中村さんを見ます。すると、中村さんは口をパクパクさせて坂崎君を指さしていました。
「やっぱり、まずは行ってみないと良し悪しは判断できないよね? な・か・む・ら・さん?」
「悪! 性格悪! なんで此処でバラすの! 鈴木さん、アメリカ何てぜんぜんだったよ! ネズミーランドだって日本の方が広くて楽しいよ!」
うん、別に、何とも思ってないですよ? 高校時代の夏休み何て、夏期講習の思いでしかないなんて僻んで何かいませんよ? ちょ、ちょっと裏切られたって思っちゃっただけなんです。
「ふ、藤巻君は外国いったことある?」
「ん? 興味ないから行ったことない」
私達の騒ぎを他所に淡々と勉強を続けていた藤巻君ですが、私の質問に何でもない事の様に答えてくれました。
「だよね! 私も! 私も興味ないから!」
うんうん、そうですよ。誰もが海外旅行に行ったことがある訳じゃ無いですよね? 別に行ってみたい国がある訳じゃ無いのですから、無理して海外に行かなくたって良いじゃ無いですか!
「え? でも、イタリアとか行ってみたくない? ヴェネチアとか女の子人気高そうだし、トレビの泉とかは定番かな? あ、フランスのモン・サン=ミシェルとかも人気かあ。一度は行ってみたいよね?」
「え? そう? ヴェネチアとかは世界史で出て来たし、名前は聞いたことあるけど良く知らない。モンサン何たらは何処? 聞いたことあるような気はするけど、それもイタリア?」
何となく記憶にはあるんです。たしかヴェネチアは商人の町でしたっけ? ヴェニスの商人で有名な所ですよね? あと、モンサン何たらは地名? どっちも記憶の片隅にはあるのですが、直ぐに何処と言われても思いつきません。
「えっと、鈴木さん、冗談?」
「ん? 何が?」
どうやら私が素で判らない事に気が付いたみたいで、何故か藤巻君にも、中村さんにも残念な子を見るような眼差しを向けられました。失礼ですね! 生涯海外へ行った事の無い人の方が絶対に多いと思いますよ! 今度ネットで調べてその事実を突きつけてやろうと心に誓いました。
まあ、こんな風にワイワイとしているのも楽しいですからね。2度目の学生時代、多分に灰色色が多い気はしますが、それでも楽しいと思える時間が有るのは良い事です。そんな風に思っていると、突然私の携帯電話が鳴り始めました。
「あれ? 珍しい」
私に電話を掛けて来る人って結構限られているんですよね。大学メンバーは此処にいるので、そうなると家族かな? 何かあったかなと着信を見ると、何時もの証券会社の担当さんでした。
「ん? 何かあったっけ?」
ここ最近は株の継続購入も停止して、ただ寝かせている状態です。
「あ、鈴木です。ご無沙汰しています」
ご機嫌伺や新規株の購入斡旋などで定期的に電話は頂くんですが、久しく支店にはお邪魔していません。多分ですが、またどっかの新規株案内かなと思って電話に出たのですが、電話の向こうは思いっきり興奮状態です。
「え? あ、どうしました? 何かありました?」
うわあ、どっかの株が暴落とかだったら嫌だなあ。そんな事を心配していたのですが、伝えられた内容に思わず目が点になりました。
『タリホーの株がストップ高です! 1月から3月の連結純利益の発表で一気に株価が跳ねました! このまま寝かせるのか、いつ頃売りに出すのか、ぜひ判断を頂きたいので一度ご自宅にお伺いしたく!」
うん、なんか凄い鼻息です。ただ、その報告を聞いて私はタリホー株の事に漸く思い当たりました。
「判りました。こちらでも確認して明日にでもご連絡します。大丈夫です、まだ上がり続けますから。ええ、まだ暫くは寝かせる事になると思うので、焦らなくて良いですよ? はい、大丈夫です。売り時は連絡しますので、はい、はい、判りました」
うん、何とか担当さんを宥めて電話を切りました。そして、大きく溜息を吐いてちょっと途方にくれます。
「そっかあ、放置して忘れてた。そっかあ、気にして無かったなあ」
アプリゲームなどでバズって一気に業績が上がったんだっけ? 前世と同じだとすると、10月か11月くらいまで上がり続けた気がする? でも、そっかあ。100倍近く上がるんだっけ? ゆっくり売らないと不味いかなあ。
何となくこの後の事を考えていたら、何か皆の視線が私に集まっていました。そんな中、坂崎君が興味津々ですよという表情で尋ねて来ました。
「鈴木さん、投資もしてるの?」
「え? うん。お母さんに教えられて」
何でしょう? みんなが驚いたような表情を浮かべてます。まあ、私達の年代では珍しいと言えば珍しいのでしょうか? ただ、その言葉が出たという事は、やっぱり聞かれちゃったかなあ。
「いや、ゴメン。相手の人の声が大きくて聞こえちゃったんだけど、凄いね」
「あ~~~、聞こえちゃったかあ」
うん、中々に面倒な事になったかも? ちょっと頭を抱えたくなっちゃいました。




