レンラク
「フリード!どういうつもりだ!」
ハルドリア王国の王城、その主人であるブラートの怒声が執務室に響き渡る。
机を挟んで不貞腐れた顔で向かい合っているのは、王太子であるフリードである。
「一体何を怒っているのですか、父上」
「貴様の勝手な振る舞いにだ!
お前には謹慎を言い付けていた筈だ!
それが何故、勝手に条約などを結んで来る!」
「仕方ないでは有りませんか。
王太子である私が王国主催のパーティに出席しない訳には行きません。
その場で帝国大使殿に声を掛けられたのに、謹慎中なのでお話できませんなどと断れないでは有りませんか」
「ぐぅ」
「それに私は我が国の利益の為に条約を結んだのです」
「むぅ」
ブラートがチラリと宰相であるジークの方を見る。
ジークはフリードが結んで来た帝国との新たな通商条約の詳細に目を通していた。
「陛下、フリード殿下が結んで来た条約には特に問題は無いと思われます。
大筋は既存の条約の拡大、そしてそれに伴う調整と両国間の法的な整備。
どちらもおかしな点は有りません。
他国間でも普通に結ばれている物とほぼ同じ物です。
むしろ関税に関する条件は我が国にかなり有利な物です」
「……………わかった、今回は不問だ。
退がって良いぞ、ご苦労だった」
「はい、失礼いたします、父上」
勝ち誇った様な笑みを残し、執務室を出てゆくフリードを見送ったブラートはジークに問いかける。
「本当に問題ないのか?」
「はい、寧ろお手柄と言っても良いほどの成果です」
「どうなっている?俺はてっきり帝国大使の口車に乗せられて不利な条件での条約を結ばされて来たと思ったぞ?」
「そうですね……フリード殿下の話によると、初め帝国大使が用意して来た案でも既に王国に若干有利な条件が提示されていたそうです。
その上、フリード殿下が条件を釣り上げると、期限付きでは有りますが条件を飲んだ、と」
ジークは顎に手を当てて思考を巡らせる。
「多少不利でも条約を結びたかったと言うことか?」
「そうですね。帝国大使のレブリック伯爵は陞爵したばかり、此処で小さくてもしっかりとした手柄を挙げて地位を盤石な物にしたかったのではないでしょうか?」
「思い当たるのはそんな所か」
ブラートとジークはしきりに首を捻るのだった。
◇◆☆◆◇
開け放たれた窓から長い尾を持つ小鳥が部屋に飛び込んで来た。
私が召喚したセイントバードだ。
脚に括り付けられた手紙をミレイが取り外し中を検める。
「エリー様、例の件に関する報告です」
「そう、貴方達は外して頂戴」
「はい」
「失礼します」
私は部屋で仕事していた商会員を退がらせると、ミーシャに目配せする。
私の視線を受けたミーシャは、扉の前に移動すると聞き耳を立てる者が居ないように警戒する。
鋭敏な感覚を持つ獣人族であるミーシャに気取られずに盗み聞きする事はまず不可能だろう。
開かれていた窓もルノアによって閉められ、カーテンも引かれる。
現在、執務室に居るのは私とミレイ、ルノアとミーシャの4人だ。
例の偽金への対抗作戦を知っているのは一部の人間だけである。
気配を探り、周囲に人がいない事を確認したミーシャが頷くと、ミレイが報告を読み上げる。
「エリザベス商会のマーベリックからの報告です。
ファンネル商会の現代表、コルト・ブランチェとの接触に成功したそうです」
「契約は結べそうなの?」
「いえ、まだ一度面会しただけのようですね。
エリザベス商会の用向きを説明し、これから交渉に入るそうです」
「わかったわ。マーベリックには多めにお金を撒いても良いから取引にねじ込む様に伝えて置いて」
「畏まりました」
私はミレイからマーベリックの手紙を受け取ると、机の引き出しにしまい、鍵をかける。
「ルーカス様からの連絡は?」
「まだですがタイミング的には今日中に届くかと」
と、話している内に、窓をコツコツと叩く音が聞こえ、ルノアが窓を開くとルーカス様の所に向かわせていたセイントバードが戻って来た所だった。




