ケイヤク
「ありがとうございます、フリード王太子殿下。
ところで殿下、実は折り入ってご相談したい事が有るのです」
「相談?」
「はい、我が帝国と貴国の未来の為に」
シルビアをパーティ会場に残したフリードと、ルーカスは場所を会談用の小部屋に移し、向かい合って座っていた。
「それで、一体何の話だ?」
「はい、帝国と貴国の停戦が決まって数年、両国の関係を次の段階に推し進めるべき時だと思うのです」
「ふむ」
「つきましては麦や芋をはじめ、現在交易に制限が掛かっている物品の制限緩和、規制品の一部解放、両国間の関税の引き下げなどの条約を結びたいと思うのです」
「通商条約を結びたい、と?」
「正確には現在の条約の見直しですね」
ルーカスは笑みを浮かべて紙束を取り出した。
「こちらが帝国が希望する改定案です」
フリードが受け取り目を通すとこれまでの交易をそのまま拡大した様な改定案が記されていた。
(特におかしな所はないな。
むしろ若干王国に有利な条件だ。
帝国との交易が拡大すれば偽金の流通を更に加速する事が出来る。だが……)
フリードは探る様に切り出す。
「確かに悪くない話だ。
しかし、この案をそのまま飲むと言うのはできん」
「と言いますと?」
「そうだな……この関税の引き下げだが、もう少し便宜を図ってもらいたい」
「関税ですか……しかし、十分王国に配慮した条件だと思うのですが……」
「勿論、無条件でこちらに有利な条件を通そうとは思わん。
何か希望が有れば考慮しよう」
「う〜む、では通商に関する細かな条約を整えるのと、関税の優遇に期限を付けると言う事で如何でしょうか?」
「期限だと?」
「はい、そうですね……向こう10年、関税に関して王国を優遇すると言うのは如何ですか?」
「10年か……関税に関する細かな条約とはどういう事だ?」
「こちらは大した物では有りませんが、バランスを調整し、現在の条約の抜け穴を塞ぐ様な物です。
どれも他国間で結ばれている様なありきたりな条約ですね」
ルーカスはそれらが書かれた書類を取り出して手渡して来た。
(準備の良い奴だ。いや、初めからこの条約も結ばせるつもりだったのか。
多少王国が有利でも10年後にはほぼ対等な条件になるなら、ここで通商条約を結ぶ事でコイツは功績を挙げる事が出来る。
だが10年後には帝国の経済は壊滅的な打撃を受けている事になる)
フリードは口の端が持ち上がりそうになるのを耐える。
「うむ、良いだろう」
「ありがとうございます、殿下!」
(帝国金貨の信用が暴落し、こいつが吠え面をかくのが楽しみだな)
嬉しそうに握手を求めるルーカスを内心では見下しながら、フリードは笑顔で手を差し出すのだった。
◇◆☆◆◇
ファンネル商会の応接室でコルトは客を迎えていた。
「良く来たな、掛けてくれ」
「はい、失礼致します」
コルトが迎えたのは30歳程の男だ。
特にこれと言って特徴の無い、風貌である。
属国の1つに拠点を置く中小商会の番頭と名乗る男だ。
「改めまして、私はエリザベス商会のマーベリックと申します」
「ファンネル商会のコルトだ」
挨拶がわりの握手を交わした2人は早速商談に入る。
「当方はハルドリア王国の庇護を受けるメリーナ王国の首都に店を構えているのですが、この度はハルドリア王国へ支店を出す計画が持ち上がりまして、私がその責任者を任された次第です。
そして大口の取引先としてコルト様のファンネル商会とお付き合いをお願いしたいのです」
「なるほど、何故うちなんだ?」
「王都を代表するほど大きな商会である、と言うことは当然なのですが、最近ファンネル商会では帝国との交易にも力を入れていらっしゃるとか」
「…………耳が良いな」
「はい、私共の様な小身の商会が生き残るには耳を澄ませ、強者の慈悲にすがるしか有りませんから」
「それで、確かにうちは最近帝国との交易に力を入れているが?」
「はい、私共もいずれは帝国との取引を、と考えておりまして」
「その為のパイプ作りも兼ねていると言うことか」
「おっしゃる通りです」
帝国金貨を偽造し、それを使って大きな取引を行っていたファンネル商会には、最近、こういった取引の誘いも多く来ていた。
「ふむ……分かった。数日待て、役員との協議の後、返事を返す」
「かしこまりました。どうぞ宜しくお願い致します」
マーベリックはペコペコと頭を下げて退室して行った。
それを見送ったコルトは壁際で暇そうに立つ粗暴な雰囲気の男に声を掛ける。
「バアル」
「なんでぇ旦那」
「今の男、どう思う?」
「まぁ、怪しいよな。
どうにもやり手の商人って感じじゃないぜ。
俺が軽く殺気を漏らしたら僅かに反応していたし、ありゃあ裏稼業の人間だ」
「バアル、あのマーベリックと言う男とエリザベス商会とやらの背後を洗えるか?」
「出来なくはないが護衛料とは別料金だぜ?」
「構わん」
「わかった……ああ、報酬の金貨は本物でな。がっはっはっは!!」
バアルは、高笑いしながら去っていくのだった。
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(・ω・)ノシ




