飛翔と絶景
《漆黒》ユウカ・クスノキ。
数年前、ふらりと帝国に訪れた東方の島国出身の薬師であり、冒険者だ。
冒険者となり数年で瞬く間に功績を積み上げ、Aランクとなる。
また薬師としての腕も優れており、皇帝陛下からも直接依頼を受けることもあるらしい。
数ヶ月前、帝国商業ギルド評議会で初めて顔を見た時にも思ったが、改めて目の前で見てもそれほどの実力者には見えない。
いや、確かにその立ち居振る舞いから、そこいらの酒場で見かける自称英雄などとは比べ物にならない強さを持つことは分かるが、見た目はどう見ても12歳前後の少女にしか見えないのだ。
東方の島国や南大陸の人々は、他の大陸に住む人達よりも小柄で顔立ちも彫りが浅い。
それを加味してもユウは小柄だった。
私とエルザはユウと握手を交わし、早速今後の打ち合わせを行う。
「食料などの物資はエリーさんが用意してくれているのですよね?
なら、今日はダンジョンの近くの町へ移動して、明日の朝からダンジョンに潜るのが良いと思います」
「そうね。でもダンジョンまで数日掛かると聞いたけど?」
「ああ、それなら大丈夫ですよ。
オリオンに運んでもらいますから、陽が暮れる前には到着しますよ」
ユウはそう言って傍の大怪鳥の翼を撫でた。
「そのサンダーバードはユウの従魔なのか?」
「はい、わたしが卵から孵して育てたんです。名前はオリオンですよ」
それからいくつか確認した後、ユウが運んできた木箱をオーキスト殿下へ引き渡し、ダンジョンがあるという町へと出発することになった。
ユウに続いてオリオンの背に乗った。
馬よりもずっと視線が高く、背中の毛はフサフサで意外と乗り心地は悪くない。
毛足の長い高級絨毯のようだ。
私とエルザがどうにか身を落ち着けたのを見計らい、手綱を握るユウが振り返った。
「エリーさん、エルザさん、コレを身に着けてください」
ユウが差し出したのはクリップのような物だった。
そのクリップからは紐が伸びていて、ユウが握る手綱へと繋がっている。
「この手綱は空間魔法が付与されたマジックアイテムなんです。
この手綱を握るか、そのピンを身につけると、今居る位置で空間を固定することができます。詳しい理屈はわかりませんが、そうしておけば空中で投げ出されたりはしないので安全のため、着けてください」
「分かったわ」
私達はユウから受け取ったクリップ型のピンを服の端にしっかりと留めた。
「では行きますよ」
ユウが手綱で合図を送ると、オリオンがその巨大な翼を広げ羽ばたき始める。
周囲に突風が吹き荒れるが、背中の私達の周りは静かなものだ。
多分、オリオンが風属性魔法で干渉しているのだろう。
サンダーバードが雷雲を呼び、雷を纏うのは風属性魔法の一種だという論文を読んだことがある。
やがてフワリとした浮遊感を覚え、オリオンは帝都の前で旋回しながらグングンと高度を上げていった。
十分に高度が上がったところで一度、大きく羽ばたくと、ダンジョンがある町を目指して飛び始めた。
初めは普通に生きていてまず、経験することの無い高さに顔を引き攣らせていた私とエルザだったが、慣れてくるにつれ周囲の景色を見る余裕が生まれてきた。
雲に近い高さから見る大地は、遮る物など無く、遥か遠くまでを見渡すことができた。
ずっと遠くに見えるのはレブリック伯爵領の領都だ。
その更に先に微かに見えるのはハルドリア王国の王城。
森からはオリオンの羽ばたきに驚いた鳥達が群を成して飛び立ち、明後日の方へ逃げていく。
中天を過ぎた日の光が河の水に反射して光の帯となり、その中をケルピーの群れが悠々と泳いでいる。
「これは……凄いな……」
「……ええ」
私とエルザは帝都の逼迫した状況をしばし忘れて、その美しく雄大で、神秘的な光景に目を奪われた。
巨鳥の背に乗り空を征く、そんな御伽噺か英雄叙事詩の一節のような時間が暫く、天の光が翳りを見せ始めた頃、眼下に小さく町が見えてきた。
オリオンはその町を目指して高度を下げていく。
ゆっくりと旋回しながら数時間振りに地に降り立ったのだが…………私達を乗せたオリオンは武器を構えた町の衛兵達に包囲されていた。
「ユウ……此れは……」
「あ〜、ま、まぁ、初めて訪れる場所ではよくあることですよ。私はコレで4回目です」
「…………そう」
どうやら他に3つ、迷惑を被った町があるらしい。
私は諦めたように溜息を吐き出し、エルザは苦笑いを浮かべながら『説明してくる』と言って、決死の形相でサンダーバードと対峙する衛兵隊の下へ向かうのだった。
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(・ω・)ノシ




