依頼と巨影
前話でエルザの信用に関してご指摘を頂き、思案の結果、エリーの神器の情報元を修正させた頂きました。
○修正箇所
『神器の情報をエルザが話した』
↓
『先の紛争でおおっぴらに使った為、情報が流れた』
ご迷惑をお掛け致します。
m(_ _)m
「今、帝都を襲っている緊急事態については知っているな?」
「はい、疫病の可能性がある病だと」
「うむ、だが真実は違う」
「え⁉︎」
オーキスト殿下は他言無用だ、と前置きする。
「この病の原因は地下上水道に出現したキングポイズンスライムの変異種だ」
「キングポイズンスライム……それも変異種ですか」
スライムは何処にでもいる弱い魔物だ。
しかし、冥界に生息する原種であるウーズ・オリジンがそうであるように、決して油断して良い魔物ではない。
環境への適応力が非常に高く、あらゆる場所でその場に適した形に進化する魔物なのだ。
更に多くの個体が集まると合体し、ビッグスライムやキングスライムと呼ばれるようになる。
ポイズンスライムは毒に適応したスライムで、自ら猛毒を生成することができるようになった上位種だ。
更にキングともなれば人を死に至らしめるに十分な毒を持っているだろう。
「キングポイズンスライム自体は既に上級冒険者によって討伐されているのだが、かなりの数の分体に分裂していてな。
現在は信頼できる冒険者に討伐を任せていると共に、光属性や水属性持ちの魔法使いを総動員して水の浄化を行なっているところだ。
スライムとは言え、上位種が帝都の中に現れたと知れればパニックになる。
幸い、病の広がりは抑えられているので分体の討伐が済むまで他言はしないでくれ」
そこで一旦言葉を切ったオーキスト殿下は紅茶で口を湿らせて本題に入る。
「それで君に来てもらった理由なのだが……君にはダンジョンへ行ってもらいたい」
「……詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「勿論だ。
ダンジョンに行く目的は解毒薬に必要な触媒となる鉱石を入手するためだ。
ただのキングポイズンスライムなら珍しくない故、解毒薬は十分な備蓄があるのだが、調査の結果、変異種の毒にはエマヤ鉱石を触媒にして魔力を込めた魔力水が必要らしいのだ」
「エマヤ鉱石……鍛冶で多少使われる鉱石ですね。ですが……」
「ああ、より安価で効果の高い鉱石があるため、備蓄などは僅かしかない。
この辺りで大量に入手するには帝都から数日の距離にあるダンジョンくらいしかない。
だが、上級冒険者はポイズンスライムの分体の処理に掛かりきりで、危険なダンジョンで下層まで降りて鉱石を採取して戻るには人手が足りない。
そこで議論の際、君の名が挙がった。
高い戦闘力があり、大量の鉱石を運搬できる人材だとな」
「つまりダンジョンに行ってエマヤ鉱石を採取してくるという依頼ですか?」
「そうだ。成功の暁には褒賞を約束する。
勿論、ダンジョンは危険で命の保証は無い。
君がこの依頼を拒否しても罰則などは無いと明言しよう」
私は瞑目して情報を整理する。
「状況は理解しました。
その依頼を受けるに当たり、2つ条件がございます」
「聞こう」
「1つ目は完成した解毒薬を私の商会の関係者に優先的に回していただきたい」
「うむ、構わない。そこに居るエルザも同様の条件で依頼を受けてもらったからな」
私がエルザに視線を向けると、彼女はマルティとサリナが寝込んでいるんだ、と言った。
「それで2つ目の条件とは?」
「はい、採取したエマヤ鉱石の所有権は全て私にある、と魔法契約書を使い明記していただきたいのです」
「レイス会長」
グイード伯爵が鋭い視線を向けてくるが、オーキスト殿下がそれを片手を上げて遮る。
「理由を聞こう」
「理由は私の神器の制限による物です。
多くの物資を収納することのできる私の神器
【強欲の魔導書】に収納できるのは、私に所有権がある物だけなのです。
その条件をクリアするために採取したエマヤ鉱石の所有権を明確にしておく必要があるのです。勿論、採取したエマヤ鉱石は無償で帝国へ寄付致します」
「なるほど、理解した。直ぐに用意させよう」
「ありがとうございます」
グイード伯爵が用意してくれた魔法契約書で契約を交わした私は、早速準備のため、ミーシャを連れて屋敷へと戻った。
「ダンジョンですか……私はよく知らないのですが、危険なのではありませんか?」
「危険でしょうね。
でも、ダンジョンでエマヤ鉱石を手に入れないとミレイやルノアが危ないのよ。行くしか無いわ」
「そうですけど……」
ミーシャは何処か納得のいかないような顔をしていた。
「オーキスト殿下のやり方に納得がいかないのね?」
「……はい、拒否できるとは言っても、コレではまるでミレイ様やルノア様の命を盾にエリー様を危険なダンジョンに向かわせているようではありませんか?」
「そうね。当然そういう計算の上で私に依頼したのでしょう」
「そんなっ!」
私は興奮して毛が逆立つミーシャの耳を優しく撫でた。
「為政者とはそういうものよ。
聖人君子の為政者はただの無能、国を守るためならあらゆるモノを利用する者が名君と呼ばれるわ。
それに徴用権を使われれば、この国の臣民である私は従わなければならない。
拒否権を与えられていただけ配慮されているわ」
まぁ、もし拒否したら別の手を使ったのでしょうけどね。
それこそ徴用権を行使して従わなければ罪人として捕らえると脅すこともできるわけだし。
ならば此処は協力して恩を売っておくべきだ。
そもそも、ミレイ達を助けるために解毒薬は必要だしね。
「ミーシャは此処に残ってミレイ達をお願いね」
「ですが……」
「ダンジョンは本当に危険なのよ。
いくら私でもミーシャを守りながらでは生還できないかも知れない。
大丈夫よ。一流冒険者であるエルザさんも一緒だからね」
「はい……」
心配そうにするミーシャを宥めながら手早く準備を済ませた私は、帝都の門へと向かった。
今回の移動に関しては既に手配されているらしい。
私はダンジョン内で必要な消耗品などを商会の倉庫から引っ張り出してきた。
コレに関しては後に経費として帝国に請求することになっている。
「エリー殿」
「エルザさん」
門の近くで馬車を降りた私は、そこでエルザと合流した。
エルザと軽く話し、今後は仲間となるのでお互いに敬称などは無しで、などと話しているうちに門へと到着した。
既に話が通っているようで、私とエルザは速やかに外へと通される。
そこにはオーキスト殿下やグイード伯爵など、あの場に居た人達が何人か集まっていた。
「移動手段は用意されていると聞いたんだがな?」
エルザがそう言いながら辺りを見回すが、荷運び用の馬車くらいしか無く、長距離移動ができるような幌馬車などは見当たらない。
「エルザ、わからないなら聞いてみましょう」
「そうだな」
私達は近くに居たグイード伯爵と冒険者ギルドのギルドマスター、セルジオへと声を掛けた。
「グイード卿、セルジオ殿、移動手段というのはどれなのでしょうか?」
「それと私達以外にも冒険者を雇っていると聞いたのだが?」
「ああ、そうだったな。お前達以外にも1人、冒険者を用意している」
「1人、ですか?」
「そうだ。1人だけだが、安心しろ。
いずれSランクにも届くと言われている一流だ」
まるで、とっておきのプレゼントを取り出すようにセルジオはニヤリと笑った。
Sランクとは一流と言われるAランク冒険者すら凌駕する超一流、英雄の領域に到達した者達だ。
現在Sランク冒険者は7人しか存在していない。
その誰もが1人で一国の命運すら左右するほどの実力を持つ。
そんな存在に至る片鱗を持つ冒険者となれば、流石に不足とは言えないか。
「それで、その人は何処に?」
「ああ、来たようだぜ」
セルジオがそう言うが、辺りにそれらしい人影はない。
私とエルザが首を傾げていると、突然辺りが暗くなった。
いや、私達の頭上に巨大な影が差したのだ。
「な!」
「あれは⁉︎」
そして私達に叩きつけられる突風は、その影の主が巻き起こした羽ばたきによるものだった。
「サンダーバード⁉︎」
人間の数倍はある巨体を持つ大怪鳥、雷雲を呼び、単体ならワイバーンすら近寄らないほどの強力な魔物であるサンダーバードが帝都の門の側に舞い降りたのだ。
そのサンダーバードの足にはテイマーが従魔に付ける従魔の証がつけられており、更にその足には大きな木箱が鷲掴みにされている。
サンダーバードは、その木箱を地面に下ろすと私達の近くに着陸した。
そしてその背中から飛び降りた小さな人影が1つ。
「お待たせしました。帝都近辺の街に備蓄されていたエマヤ鉱石を掻き集めてきましたよ。
多少の足しにはなるでしょう」
彼女の背丈は私の胸辺りまでしかなく、腰まである長い髪と、活力に満ちた瞳は夜空のような黒。
小さな身体に不釣り合いな巨大な戦斧を背負った少女は、数ヶ月前、商業ギルドで会った帝国商業ギルド評議会の評議委員の1人だった。
セルジオが少女の背を押し私達の正面に連れてくる。
「紹介しよう。彼女が今回、君達と共にダンジョンに向かってもらうAランク冒険者《漆黒》ユウカ・クスノキだ」
セルジオに紹介された少女は友好的な笑みを浮かべて私とエルザに握手を求めて手を差し出してきた。
「ユウカ・クスノキです。この国の人には違和感のある名前ですから、ユウとでも呼んでください。よろしくお願いします」
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(・ω・)ノシ




