騒動の黒幕達
「……と、いうわけで王国は現在、ロベルトが引き起こした事件の後始末と元騎士団長の死の隠蔽などで大忙しらしい。
その上、サージャス王国の件で他の属国との間も険悪になり、その調整にも追われているようだ」
「そうですか。
随分と踏み込んだ情報ですわ。流石、帝国の諜報員ですわね」
「……よく言うものだ。
君が提供した機密情報のお陰で随分と情報の精度が上がっているだけだとわかっているだろ?」
「ふふ」
私は呆れ顔のルーカス様に微笑みを返した。
「全く……サージャス王国から帝都に帰ってみればロベルトの姿が消えていたんだからな」
「事後報告になって申し訳ありませんわ」
「ふぅ、俺にくらいは話しておいてほしかったぞ。
最初からああするつもりだったんだろ?」
「ええ、あの騎士モドキに使った神器には色々と制約がありまして、その条件をクリアするために手元に置く必要がありましたの」
「君だけは敵に回したくないよ」
「ご安心ください。お約束したじゃないですか、私は貴方に利益を齎します、と。
私は約束を守りますよ、ルーカス伯爵様」
サージャス王国はユーティア帝国領のサージャス地方となり、領土の半分は帝国の直轄領、もう半分がルーカス様の領地となった。
それに伴い子爵から伯爵へと陞爵したのだ。
ちなみにサージャス王国の王子だったグリント王子はレブリック伯爵領サージャス地方の執政官としてルーカス様の下で働くことになった。
とは言ってもコレは所謂お飾りというやつだ。
帝国でよく使われる統治法だが、新たに編入された領地の統治者として、元々その土地の有力者だった者を登用することで、住民の反発を抑えるというものだ。
当然、実権など殆どなく、実際に領地を回すのは帝国の文官である。
それと、グリントの妹は留学生(という名の人質)として帝都の学校に通っている。
グリントはこれからの人生をルーカス様の人形として過ごすことになるのだろう。
まぁ、命があるだけマシな方か。
「……取り敢えず話を戻すが、今日君を呼んだのはコレを渡すためなんだ」
苦笑いを浮かべたルーカス様が傍に逸れていた話を戻して書状を私に差し出した。
「コレは?」
「今回の一件での君への報酬のような物だよ」
「それで、何の書状なのですか?」
帝都のレブリック伯爵邸を出た私はミレイと共に馬車で屋敷に戻るところだった。
「簡単に言うと呼び出しね」
「呼び出し……ですか?」
「ええ、次の帝国商業ギルド評議会にね」
◇◆☆◆◇
高級ではあるが、華美ではない落ち着いた内装、ランプに照らされた薄暗い部屋で、男が椅子にゆったりと腰掛けてグラスを傾けている。
その男の前には顔に大きな傷が走る大柄な男が傅いて頭を垂れていた。
「なるほど、君と対等に戦える女商人か」
「……いいえ、あのまま戦っていれば負けたのは私だったでしょう」
「ほぅ」
男はその報告を聞き、楽しそうに笑みを深めた。
「ご苦労だったな、グレアム。退がって良い」
「はっ!失礼致します、殿下」
「烏」
男はグレアムが退室した後に虚空に向かって声を掛けた。
「はい」
するとその声に返事を返す者が居た。
男の背後、まるで初めからそこに居たかのように女が立っている。
闇に溶けるような黒いドレスに顔を隠す黒いベールを着けていて、印象が薄い女だ。
「さっきの話、どう思う?」
「グレアム大佐があれほどまで言うのなら、ただの商人ではないでしょう」
「そうだな…………少しつついてみるか」
男はしばし思案するように瞑目し、再び口を開く。
「蠍はまだハルドリアか?」
「はい」
「そうか。蠍に帝国に向かうように伝えてくれ。グレアムが言っていた商人の情報を集めて揺さぶって見てくれ。方法は任せる」
「お任せ下さい、殿下」
◇◆☆◆◇
「では私はこの辺で失礼致します」
「ええ、また来て頂戴ね」
「うむ、また来るが良い」
「はい、フリード殿下、シルビア様」
クリスは2人に頭を下げて退室する。
その後、メイドに城外まで送られたクリスは、案内してくれたメイドにも丁寧に礼を述べて逗留している宿へと戻って来た。
「!」
借りている部屋に入ると机の上に見覚えの無い手紙が置いてあった。
素早く周囲に視線を走らせるが、特に変わった所は無い。
一拍、間を置いたクリスは手紙を検める。
差出人の名前は無いが、手紙に烏の羽が1つ添えられていた。
クリスは手紙を手に取り中身を一読すると、部屋の隅の火鉢に放り込み魔法で火をつけ、跡形も無く燃やし尽くす。
「次は帝国ですか……」
誰にともなく呟くと、クリスは旅の支度を始めるのだった。
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