辺境へ向かう者達
とうとうストックが尽きたで御座る。
_:(´ཀ`」 ∠):
トレートル商会の使いだと言う少女達を帰した後、私……冒険者ギルドのサブマスター、アイリス・ナイラはギルドマスターであるセルジオと机を挟んで向かい合っていた。
「アイリス、どう思う?」
セルジオが言葉少なく私に問う。
「申し分ない条件だろう」
私は少女達が持って来た手紙に視線を落とす。
トレートル商会の商会長が提示した条件が書かれている。
「依頼内容はトレートル商会会長の指揮下に入り、サージャス王国軍を撃退する事。
要するに紛争に参加しろって依頼だ。
報酬は相場の倍以上、上級冒険者を指定しているけど、この額なら手を上げる者もいるだろう」
「それくらいは分かっている。
俺が言いたいのは何だってただの商人がそんな事をしようとするのかって事だ。
確かに功績を挙げれば名誉爵位くらいは貰えるかも知れないが、トレートル商会ってのは今売り出し中の商会なんだろ?
それが商会長自らが戦場に向かうなんて危険すぎる。そんなリスクを負わなくったて十分稼いでいるだろ。愛国心か?」
「いや、確かトレートル商会の商会長は外国人だった筈だ。
だがトレートル商会の本部はレブリック子爵領だし、紛争地になっている東には何やら商会の施設を作ろうと、かなり投資しているらしい」
「じゃあ本音はその施設とやらを守りたいって事か」
「おそらくな。だが問題ないだろう。
その結果、サージャス王国軍を追い払ってくれると言うなら有り難い話じゃないか」
「それはそうか。
上級冒険者の指定って事は少数精鋭で行くって事だな」
「ああ、ブロッケン砦を1日で陥落させる様な強者が居るなら数を揃えてもあまり意味が無いからな」
「そうだな。
よし、今帝都に居る上級冒険者パーティに声を掛けてやるか」
◇◆☆◆◇
Aランクパーティ《鋭き切先》の見習いマルティはパーティリーダーのエルザに頼まれたお使いを済ませてパーティで借りている借家に帰って来た。
「ただいま帰りました」
マルティが玄関を開けて家に入ると、丁度エルザと冒険者ギルドの受付嬢であるサラサが玄関へと向かっていた。
「帰ったかマルティ」
「はい、エルザさん。
こんにちはサラサさん」
「こんにちは、マルティちゃん」
サラサはマルティの頭を撫でる。
「もうサラサさん。
ボクはもう16ですよ。子供扱いは止めてください」
「あらあら、ごめんなさいね」
ギルドに登録した10歳の時からの付き合いであるサラサは、自分と同じ狐人族のマルティを妹の様に可愛がっていた。
「もう」
ごめんと言いながらもサラサはマルティのピンと立った狐耳の間を行き来する手を止める様子はない。
マルティとしても別に本気で嫌がっている訳ではないので振り払う様な事はしない。
やがて満足したのかサラサはマルティの頭から手を離してエルザに向き直る。
「それではエルザさん、ご検討をお願いします」
「ああ、仲間と相談した上で返事をする」
「はい、期限が短いのでお返事は今日中にお願いします」
「了解した」
そのやり取りの後サラサはギルドへ帰っていった。
「エルザさん、サラサさんは何の用事だったんですか?」
「指名依頼だ」
「指名依頼?でもいつもなら依頼はエルザさんが決めているじゃないですか?
何故今回は皆に相談するんですか?」
「今回の依頼は東の紛争への参加だ。
魔物の討伐や野党退治ではなく国同士の戦争だからな」
「戦争……ですか」
マルティもAランクパーティである《鋭き切先》では見習い扱いだが、冒険者ランクは上級冒険者と呼ばれるCランクであり、期待の若手と呼ばれている。
当然、野盗退治などで人を殺した事も1度や2度では無い。
だが紛争や抗争など、いわゆる戦争と呼ばれる人間同士の争いに参加した事は無かった。
「そう緊張する事はない。
取り敢えず皆に相談しよう」
エルザは優しげに微笑むとマルティを連れて仲間が待つ部屋に向かった。
結論として、マルティ達は紛争に参加する事にした。
報酬も十分な額で有ったし、依頼中の食費は依頼人持ち、功績によってボーナスまであると言う。
更に決定的だったのが仲間の1人、治癒魔法師であるリサが紛争地近くの村の出身だったのだ。
このまま戦火が広がればリサの故郷にも被害が出るかも知れない。
それを聞いた仲間達は2つ返事で参加を決めた。
参加を決めた2日後、マルティ達は帝都を出発の為、南門を出て少し進んだ見晴らしの良い草原に集まっていた。
《鋭き切先》の構成メンバーは、パーティリーダーで剣士のエルザ、盾士のサリナ、軽戦士兼弓士のシシリー、治癒魔法師のリサ、そして斥候のマルティの5人、全員女性。
冒険者ランクもエルザとサリナ、シシリーがAランク、リサがBランク、見習いのマルティですらCランクと全員が上級冒険者であり、特にエルザは『異名持ち』である。
今回、合同で依頼を受けた冒険者の中でもトップクラスのパーティだ。
その為、マルティ達のパーティは依頼人のトレートル商会の商会長だと言う女性と共に行動する事になっていた。
「よう!」
「あ、ブレンさん」
パーティリーダーのエルザが打ち合わせに行っている間に武器や荷物の点検を終えたマルティ達に冒険者の男が声を掛けて来た。
Aランクパーティ《灼熱の鉄拳》のメンバーの1人、Aランク冒険者のブレンだった。
マルティはまだソロだった頃、ブレン達に何度か世話になった事があり、《鋭き切先》を紹介してくれたのもブレンだった。
「お前達も依頼を受けたんだな」
「ええ、報酬も良かったし、何よりウチのリサの故郷が紛争地の近くだったからね」
「そうなのか、それは心配だな」
ブレンはシシリーと軽く情報を交換する。
「しかし、本当に大丈夫なんですかね?」
そんな2人の側で、マルティは集まった冒険者や傭兵の代表達に指示を出すエリーと名乗った商会長と彼女の従者だと言う黒髪の女性を視界に納めて言った。
「黒髪の従者さんは結構戦えそうですけど商会長さんの方はどう見ても良い所のお嬢さんに見えますけど?」
マルティがそう言うとシシリーがとても弓士には見えない綺麗な手のひらでマルティの頭をポンポンと叩いた。
「マルティは斥候なんだからもう少し洞察力を磨かないとな」
「え?」
「くっくっく、エリーとか言ったか?あの嬢ちゃん。よく見てみな、上手く隠しているが体捌きに隙が無いだろ?アレは相当な使い手だぞ」
「え⁉︎」
ブレンに言われてよくよく観察すると、自然な振る舞いに見えて確かに隙がない。
「それに彼女は魔法もかなりの腕だと思うわ」
リサも話に入って来る。
見れば無口なサリナもコクコクと頷いている。
「でもさっき挨拶した時には会長さんからは魔力なんて、全く感じませんでしたよ?」
マルティの問いにシシリーが答えてくれる。
「全く感じなかったからだよ。
私やエルザみたいな魔法が使えない人でも魔力自体は持っているし、魔法として使えなくても無意識の内に身体能力や五感を強化していたり、武器や技に魔力を乗せて強化したり、特殊な効果を発揮したりする【スキル】も使える。
つまり、強くなれば自然と魔力も増えてくる物だ。
体捌きからエリーさんはかなり鍛えている事が分かる。でも彼女からは全く魔力を感じない」
「あ!」
シシリーの説明をリサが引き継ぐ。
「分かった?彼女は意図的に魔力を抑えているの。無意識の内に溢れる魔力を常に制御するのは凄く難しいわ。
宮廷魔導師並みの魔力制御力よ。
もしかしたら神器も使えるかも知れないレベルね」
「確実に私より強い。
私達の中で対抗出来るのはエルザくらいだろう」
マルティはシシリー達の評価を聞いて改めて依頼人を見て呟いた。
「…………敵じゃ無くて良かった」
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(・ω・)ノシ




