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因縁⑤

 私が思考を戦闘時の物に変えたのを感じ取ったのか、アデルの肩がピクリと動き、反射的に構えを取ろうとする。


「エリザベート姉様!」

「今はエリーと名乗っているわ」


 先程はああ言ったけれど、アデルの話していた事は多分真実だろう。

 ならばハルドリア王国側は幾つかの勢力に分裂している事になる。


 そしてその内の1つ、おそらく穏健派とでも言うべき戦争に反対している勢力の長がアデルか。

 既にかなりの被害が出ている以上、簡単に講和とは行かないだろうが、どちらかが滅ぶまで戦うよりはましね。

 私としても妹の様に可愛がっていたアデルを殺したくはない。

 短剣の柄で殴り付けて気絶させましょうか。

 捕虜として情報を得て、場合によっては解放し協調する。


 取り敢えずの方針を決めた私は無防備に立っているアデルの頭に短剣の柄を振り下ろし……身体を捻りその場から身を投げ出し、数回地面を転がってから素早く立ち上がった。


 私の頬に一筋の赤い線が走り、そこから熱い血が流れ出す。


 その男はいつからそこに居たのか、戦闘状態だった私が気付かない程の隠密術だ。

 耳と尻尾の特徴から狼人族の男だ。

 魔法武器らしき2本の槍を両手に構え、アデルを守る様に立ち塞がっていた。


「オルト!退がっていろ!」

「……出来ません」

「命令だ」

「命令違反の罰は後で受けます。アデル陛下は騎士達を連れて撤退を」

「だが姉様が……」

「エリザベート様はアデル陛下を捕らえるつもりです。

 今は捕まる訳にはいかないでしょう」

「…………」


 アデルの配下の様ね。

 オルトという名前には聞き覚えがないけれど、見たところかなりの使い手である事は間違いない。

 獣人族が高い地位に就く事が難しいハルドリア王国にもともと居た人材では無い。

 アデルが見出した者か。


「エリザベートね……エリー姉様。またいずれお話する時が有るでしょう」

「待ちなさい、アデル!」


 後ろを向いたアデルを捕らえようとした私だが、僅かに聞こえた風を切る様な音に、身体が反応し、短剣で矢を斬り落とした。


「矢?何処から……」


 弓兵の存在など感じなかった。

 気配を隠したまま攻撃する事など不可能だ。

 あのオルトと言う槍兵も直前まで完全に気配を絶って居たが、攻撃の瞬間、僅かだが気配が漏れていた。


 弓兵の居場所も分からないまま、一矢、二矢と次々と矢が飛んでくる。

 だがその方向の魔力を感知しようとしても何も見つからない。


「フロンテまで、姉様には手を出すなと言った筈なのに……」

「アデル陛下を守る為です。命令違反は俺もフロンテも承知しております」


 やはり、この矢の射手もアデルの配下か。

 しかし何処に居る?

 考えられる可能性は私の魔力感知範囲よりも外側から射掛けていると言う事か。

 そうなると3キロ以上先から弓で狙撃していると言う事になる。

 並の弓兵では無い。

 弓も相当な代物だろうが、この距離から正確に私を狙い、更にアデルを追うことを妨害する様に狙って撃っている。


「エリー嬢、これは無理では無いですかな?」


 リスティアードが告げる。

 見れば退路を絶っていたレッサーデーモンの群れをアデルとオルトが薙ぎ倒して精鋭騎士達を連れて撤退して行く。


 そちらに意識を割き過ぎれば弓兵はすかさず狙って来る。


「………………此処までね。撤退よ」





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