帝都の祝祭⑤
カタカタと音を鳴らしながら手を伸ばすスケルトンに、若い母親が幼い子供を庇いながら悲鳴を上げる。
それを間一髪、割り込んだ青年、ラムテ伯爵家の5男、カラッドの盾がスケルトンの腕を阻んだ。
「お怪我は有りませんか?」
「は、はい、ありがとうございます」
「此処は危険です、直ぐに避難して下さい」
「は、はい……」
そう言うが母親は腰が抜けたのか立ち上がる事が出来ない様だった。
そこに冒険者が駆けつけて来る。
《鋭き切先》のシシリーとマルティだ。
「君達、御婦人と少女を頼む」
「はい」
2人に親子を預けたカラッドは他の人々を逃す為に走り出した。
◇◆☆◆◇
迫り来るスケルトン達を大斧の一振りで薙ぎ払ったユウは、アンデッドの数に溜息を吐き出す。
すると少し先でエリーやシスティアと戦っていたノーライフキングが僅かな隙に此方へと瘴気の塊を放った。
その瘴気を核としてスケルトンが集まり巨大なスケルトンへと変貌する。
「むぅ、ジャイアントスケルトンですか」
ユウが大斧を構え直すが、それを無視してジャイアントスケルトンは近くに居た着流し姿の男に拳を振り落とし土煙を上げた。
しかし次の瞬間、その拳はバラバラに切り刻まれ、土煙から姿を現した着流しの男、『剣鬼ムサシ』は刀を鞘へと落とす。
「おや、ムサシさんじゃないですか、お久しぶりですね」
「ん、ユウカか?」
「ええ、まさか帝国で同郷の人と出会うとは思いませんでした。
ところでムサシさんはお1人ですか?」
「師匠の事か?あいにくだが師匠は居ない。
武者修行として放り出されたんだ」
「そうでしたか。残念ですね」
ムサシの師は『剣聖』と呼ばれるSランク冒険者だ。
彼が居ればもっと簡単に事態は収束するのだろうが、仕方ない。
「取り敢えずジャイアントスケルトンを仕留めましょう。手を貸して下さい」
「そうだな、共闘と行こう」
◇◆☆◆◇
エルザは群がるゾンビの脚を斬り飛ばして機動力を無くす事に尽力していた。
魔法に長けたエリーをノーライフキングに向かわせて、エルザとユウはアンデッドが多い場所を抑える為に途中で離脱したのだ。
エリーには砂漠の民らしき男と鉄仮面の男が付いている。
どうやら知り合いらしく、2人とも魔法武器を手にしているので問題は無いだろう。
エリーの説明によると、怪しい仮面の男が使ったと言う『死者の宝玉』とやらは、使用者をアンデッドに変える呪いのアイテムらしい。
変貌するアンデッドは、使用者の力量、死者の宝玉に込められていた魔力、そして使用者が纏う怨念によって変わる。
中でもノーライフキングは最悪の部類だそうだ。
ノーライフキングは存在するだけで周囲の死者をアンデッドに変える。
更に怨みや恐怖と言った負の念が充満する事で、配下のアンデッドはより強力になって行く。
歴史に詳しい訳ではないエルザだが、かつて1体のノーライフキングに滅ぼされた王国の話くらいは知っていた。
「はぁ!」
剣と盾を装備したスケルトンナイトを両断する。
「上位種が出だしたか。急げよ、エリー!」
エルザは近くで苦戦している傭兵の援護に回るのだった。
◇◆☆◆◇
ハルドリア王国の王都、その中心にある王城の更に奥に、厳重に警備された区画が有った。
その区間にある執務室で、アデルは目を通していた書類にサインを入れた後、ゆっくりと伸びをした。
「アデル様、はしたないですよ」
「良いじゃないか、誰も見てないんだし」
「私が見ています」
口を尖らせて文句を言うアデルに真面目な顔で注意するマオレン。
この執務室ではよく目にする光景だった。
「エイワスはちゃんとやっているかな?」
「如何でしょうか、あの御仁は少々読み辛いと感じましたが」
「そうだね、でも優秀なんだよ。
仕方ないから手元に置くけど、警戒は緩めないようにね」
「はい」
「警戒と言えば……」
アデルは思い出した様に冷めたお茶を口にしながらマオレンに問いかけた。
「……兄上はどうしてるの?」
「報告によりますと大人しく自室で軟禁されて居る様です。
シルビア嬢の方はようやく自らの状況に気付いたのか、少々焦りが見えますが、まぁ何も出来ないでしょう」
「そう、大丈夫だろうけど兄上の監視は厳重にね」
「はい。ところでそろそろお時間になります」
「分かった、行こうか」
アデルが執務室を出て別の部屋に入ると、平伏する2人の人物が待っていた。
「面を上げて良いよ」
許可すると、2人は緊張を滲ませながら顔を上げた。
狼人族の男性とエルフの女性だ。
ハルドリア王国ではまだ亜人族への差別が根強く残っているなか、貴族との縁もない2人が王族であるアデルの前に通されたのは理由がある。
それはこの2人がアデル直々に推薦して取り立てた元冒険者だからである。
アデルは人を使い広く人材を探していた。
その中で見つけたのがこの2人だったのだ。
冒険者ランクは2人ともCランク。
まだまだ無名の2人だが、アデルはその将来性を買っていた。
狼人族の青年オルト。
エルフ族の女性フロンテ。
この日、アデルの配下に加わった2人である。
◇◆☆◆◇
煌びやかな帝都に比べると、田舎としか言いようがない寂れた都市。
一応、この都市国家ナラカイヤの中心地なのだが、あまり発展している様子はなかった。
しかし、ここは砂漠の大国ナイル王国と最も近い位置に有る為、普段ならそれなりに活気は有るのだが、数ヶ月前に謎の魔物の襲撃に遭い、その爪痕がまだ癒えていないのだ。
強力な変異種に率いられた魔物は多大な犠牲の結果討伐されたのだが、元々体力の無い都市国家には相当な負担となっている。
そんな街中をティーダは気分良く歩いていた。
夜の帳が下りてからそれなりの時が過ぎているが、その足取りは軽い。
こんな状況でも、人々は逞しく生きようとしているのだ。
具体的に言うと酒場は営業していた。
「もし〜」
ティーダが逗留している宿まであと少しと言う所、不意に声をかけられた。
ティーダが辺りを窺うと近くのベンチに横になっているハーフエルフらしき少女と目があった。
ハーフエルフなので少女かどうかは分からないが、少なくとも見た目は少女だ。
「そこのシスターさん」
「私ッスか?」
「そうなの〜親切なシスターさん。ちょっと、あちしのお願いを聞いて欲しいの〜?」
「…………面倒事ッスか?」
「そんな事ないの〜、簡単な事なの〜」
「面倒事を持って来る人はみんなそう言うッスよ」
「違うの〜あちしを宿までおぶってって欲しいだけだなのよ〜」
「はぁ?」
「頼むの〜」
「…………宿って何処ッスか?」
取り敢えず聞いてみたティーダに、ハーフエルフの少女は直ぐそこに見えているティーダが逗留している宿を指さした。
「あそこなの〜」
「近っ⁉︎」
宿まで歩いても5分掛からない距離だ。
「これくらい自分で歩いたら良いじゃないッスか」
「面倒いの〜、今日は1時間も働いたの〜、もう動きたく無いの〜」
ティーダは顔を顰めたが、此処で捨て置くと、それはそれで面倒な事になりそうな気がしたので、仕方なくハーフエルフの少女を小脇に抱えて宿へ帰るのだった。




