リースベールの商談
帝都よりも強い日差しに、少し目を細めて燦々と降り注ぐ陽光を浴びる。
荒野に有る都市国家リースベールに到着した私は、リースベールの国王(実質的には地方領主程度の影響力だが)と、この過酷な土地で育つナダマイル草の栽培と、買取に関する契約を結ぶ事に成功した。
ほとんど外貨を得る方法が無かったリースベールなので、特に揉める事もなく契約を結ぶ事ができた。
むしろ感謝されたくらいだ。
リースベールまでの道中は強力な魔物が多く出たけれど、私達の戦力なら苦戦する方が難しい。
討伐した魔物の肉や素材を手土産(決して賄賂では無いわよ)としてリースベール王へと献上したのも大きいだろう。
リースベールの王館(私の屋敷より少し大きいくらいの屋敷だった)を出た私は、ミレイと共にリースベールの中央通りを宿に向けて歩いて行く。
リースベールの街並みは、田舎の少し発展した街の様な印象だ。
帝都の様な活気は無いが、穏やかな空気が流れている。
「これでこの街での用事は終わりね」
「そうですね。市場調査も終わりましたし、帝国の祝祭も近いですし、そろそろ戻りますか?」
「ええ、明日にでも出発しましょう」
宿に戻って来ると、馬の世話をしていたバアルが宿の裏の厩から正面へと戻って来る所だった。
「おう、お嬢。交渉はもう終わったのか?」
「ええ、問題無く。
今後の取引はこちらからリースベールに人を派遣して行う事になるから、その辺りはバアルにお願いするわ」
「あいよ」
リースベールの周囲は強力な魔物が多く生息しているので、帝都まで運んで貰うのは難しいのだ。
だからこちらから取引の為の人を送る必要が有るのだが、リースベールに向かう商隊に塩や小麦などの物資を輸送する事で、ナダマイル草を非常に安く引き取れる事になったのは良い知らせだろう。
実際の取引時には、ある程度商路が確立するまではバアルに商隊を率いて貰う事になると思う。
「お帰りッス、エリーさん」
「ただいま」
バアルやミレイと共に宿に入ると、カウンターの椅子に座るティーダがこちらに顔を向けていた。
食事を終えたばかりの様だ。
荷物を纏める為、部屋に戻るミレイとバアルを見送り、ティーダの隣に腰掛け宿の女将さんに果実水を注文する。
サッパリとした柑橘類の果汁が加えられた果実水が、少々埃っぽい外を歩いて来た私の喉を潤してくれた。
「ティーダ、私達は明日には帝都に向けて出発するけど、貴女はどうするの?」
「そうッスね。私は次の都市国家に向かう事にするッス」
「そう、じゃあしばらく会えないわね」
「まぁ、いくつか都市国家を回った後、帝都に戻るッスから」
「でも意外よ。もう直ぐ祝祭でしょ?」
「私だって祝祭に参加したいッスよ〜!
でも、大神殿から荒野の都市国家を廻れって指令書が届いたんッスよ。
酷いッスよね。
絶対わざと祝祭の時期に重ねたに違いないッス!」
どうやらチョコレート菓子だけでは、今までのイタズラ的な報告書をチャラに出来なかった様だ。
その夜は、祝祭に参加出来ず教皇の悪口を言いながらお酒を飲むティーダに付き合った。
翌日、宿の前でティーダと別れた私達は帝都を目指して馬車を走らせ始めた。
ティーダは別の都市国家へ向かう商隊が居たら同行するらしい。
荒野の都市国家群を廻る商隊は少ないが、治癒魔法を使えるティーダなら引く手数多だろう。
バアルが手綱を握る馬車は、素朴な街並みとは不釣り合いな大きく頑丈な防壁の門を抜け、帝都に向けて道なき荒野を進み始めた。




